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バイデン大統領でも解決不能か。トランプが残した莫大な負の遺産

先日掲載の「トランプ支持者が連邦議会に乱入、『市民戦争』の岐路に立つ米国の選択は?」でもお伝えしたとおり、米国民主主義史上最悪とも言える大混乱を経て、ようやく新大統領への就任が正式決定したジョー・バイデン氏。新大統領はトランプが国内外に残した難題を解決することはできるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者の島田久仁彦さんが、問題克服は容易なものではないとして、その理由を元国連紛争調停官としての目線で詳しく解説しています。

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ジョー・バイデン第46代アメリカ合衆国大統領就任が意味するもの

2020年11月以降の大統領選における大混乱を経て、やっと1月6日に連邦議会での投票を経て、ジョー・バイデン氏が第46代アメリカ合衆国大統領に選出されました。これで2021年1月20日にバイデン政権が誕生することになりました。就任当日は、世界最強と言われる国のリーダーに選ばれた快感に溺れることが出来るかもしれませんが、バイデン新大統領とその政権が対処すべき国内外の世界は、非常に混乱に満ち溢れています。

まず、非常に醜かったと思われる大統領選で明らかになったアメリカ国内の分裂にどう対処するのかという大きな課題です。「勝者も敗者も関係なく団結してこの困難に立ち向かおう。私は全アメリカ国民の大統領だ」と高らかに宣言しているバイデン氏ですが、依然国内にはトランプ氏に対する熱狂的なシンパも多く、「アメリカのためにはトランプ氏が必要」という人たちも少なくありません。

そして1月6日、熱狂的なトランプ支持者が連邦議会に雪崩込み、4人が死亡するという前代未聞の醜態が起きてしまいました。その直前、トランプ大統領が演説で支持者に対して「議会に向かおう」と扇動するような言動をしてしまったことで、ついに共和党内でも、そしてトランプ政権の閣僚たちも、次々とトランプ氏から離反するという事態になりました。もしかしたら、副大統領以下、閣僚からアメリカ合衆国憲法第25条に則った解任手続きが取られ、あと2週間ほどの任期を全うさせてもらえないかもしれません。最終盤にアメリカ国民にショックを与え、さらなる分断を浮き彫りにしてしまいました。

いきなりバイデン新大統領とその政権は数々の国内政治上の難局に立ち向かわなくてはなりません。

貧富の格差の拡大、人種や宗教的なバックグラウンドを基礎にした差別や社会的不正義、先の見えない新型コロナウイルス感染症の収束とアメリカ経済(家計という意味での)の復活…このような問題にバイデン氏とその政権は、就任直後からすぐに取り掛からなくてはなりません。よくFirst 100 daysというタイムラインをバイデン氏は口にしますが、就任から100日以内にどれだけの目に見える成果もしくは希望の光を国民に示すことが出来るかは、かなり困難な課題ではないかと考えます。実際に物事を企画し動かす政権スタッフを雇い入れて現場に投入するまでにかかる時間という物理的な制約はもちろん、あまりにも対応すべき喫緊の課題が山積しており、もしかしたら4年かかってもアメリカをポジティブな方向に導くことはできないのではないかとの声が、実は民主党内でも多くあるようです。

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バイデン政権下でより強硬なものとなる対中政策

国際情勢に目を向けてみても、バイデン新政権が対応しなくてはならない問題が山積しています。特にトランプ政権が作り出した“世界からのアメリカの孤立”は、そう簡単には克服できそうにはありません。

例えば、オバマ政権時代に端を発し、トランプ政権時代に一気にエスカレートした米中対立は、そう簡単に解決するものではありません。米国ビジネス界からの要望を受けて、米中通商問題という側面では改善への希望があるかと思いますが、そのためには、退任間近になってトランプ大統領が乱発している対中制裁の発動に対していかに対応し、ベクトルを反対に向けるという難題が立ちはだかっています。

加えて、米中関係の迅速な改善を阻むのが、中国政府の強権化に伴い、香港の中国化の加速や新疆ウイグルやチベットでの人権侵害の疑念が高まる中、人権擁護という原理原則を高らかに掲げなくてはならない民主党政権の理念の存在です。もちろん、香港問題や新疆ウイグルでの問題といった国際的な懸念事項に対して、バイデン新政権は目を瞑るべきといっているのではありません。厳粛に、事実に基づいた対応を期待したいのですが、人権問題が外交の前線に掲げられる限りは、人権問題での介入を著しく嫌う(そしてそれを極限に恐れる)北京政府と中国共産党との迅速な和解と接近は期待できないと私は思います。

そして、南シナ海での領土・領海的な主張や東南アジア諸国への軍事的な挑発といった強硬姿勢と、一帯一路政策を通じた経済的な支援とつながりの強化という【飴と鞭】と例えられる中国のやり方に対して、バイデン新政権は決して看過することはないでしょう。

その表れが、トランプ政権が進める米軍のアジアシフトのさらなる加速と強化、中国(そしてバイデン氏が忌み嫌うロシア)の野心の対象となるアフガニスタンやイラクからの米軍撤退方針の即時撤回、インド太平洋地域における対中包囲網の強化といった施策は、確実に中国への警戒心の高さを示していると言えます。「同盟国との連携を強化し、中国の野心を封じ込める」というバイデン氏の言葉にも覚悟の強さが現れています。そして、その背後には、超党派で形成されている中国脅威論が存在するため、恐らく、バイデン政権下では、トランプ政権下に比べ、アメリカの対中政策はより強硬なものになると思われます。

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大幅に拡大・増強する中国による欧州経済への影響力

では米欧関係はどうでしょうか?トランプ政権下では、米欧関係は非常に緊張を帯びたものになってしまいました。NATOの負担率問題や、「なぜアメリカが欧州を護らなくてはならないのか」といったそもそも論については同調できるものも多々ありますが、欧州各国はこれまで頼りにしてきたアメリカ政府から突き放されたように感じ、そこにマクロン大統領が唱える欧州の防衛機能の強化という方向性が相まって、大西洋両岸での緊張が高まりました。

バイデン氏が次期大統領になるらしいという見込みが報じられると、欧州各国は一斉に祝意を述べ、まだ就任すらしておらず、まだそのころは勝敗も決していなかったバイデン氏にラブレターを送るかのように、欧州との融和と協力を期待する旨、伝えました。「トランプ大統領が崩した国際協調を立て直す」と約束したバイデン氏は、その象徴として欧州各国を選ぶような発言をしていますが、トランプ氏が突いたNATOの負担問題や駐ドイツ米軍の戦略上の重要性の低下などを受けて、実際にどのような対応を取るのかは今後の注目項目でしょう。

ただ、バイデン氏は超が付くロシア嫌い・プーチン嫌いでも有名ですから、ロシアの野心と影響力の封じ込めという意味で欧州各国を、かつての冷戦時代の鉄のカーテンのように“対ロシア・中国の壁”として用いるかもしれません。

そしてバイデン氏のアメリカは、拡大する中国の影響力に対抗するために、民主主義のEUとの結束を高めることに大変関心があるようですが、その関心はあまりEUには受けがよくないようです。

実際に最近になってもめにもめていたEU・中国の経済連携協定が合意され、EU企業の中国市場への進出度合いが、アメリカ企業の度合いに匹敵するほどにまで高まることになります。EUのフォンデライエン委員長曰く、「やっとこれでアメリカと同じ土俵に立って、中国問題を話し合える」状況になったことを意味します。通常であれば、ここまでの楽観的な見解を示すと、北京政府がそれを打ち消すようなコメントを出しがちですが、今回は習近平国家主席の喜びに満ちたコメントまで引用して、中国とEUとのつながりは不変とまで言っています。

これが何を意味することになるかといえば、コロナ、香港問題、ウイグル自治区での人権侵害問題などの共通課題を盾に、トランプ大統領のアメリカと対中強硬姿勢・対中包囲網を築いていたEUの対中姿勢に柔軟性が生まれるということと、2020年に警戒を強めていた欧州経済の対中依存度をさらに高めることを意味し、実質的に中国による欧州経済への影響力を大幅に拡大・増強することとなります。

そしてロシア問題とトルコ問題については、バイデン政権下でさらなる緊張を生むことになると見ています。

私が期待しているとすれば、パリ協定への復帰と脱炭素型社会の潮流を引っ張ってくれること(そしてこの分野では、協力という名の米欧中間での競争が激化します)ぐらいでしょうか。ただこの分野でのリーダーシップの可否は、まずは国内のコロナ感染の抑え込みと経済の回復への道筋をつけることが大前提になると思われますが。

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image by: Alex Gakos / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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