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悪夢が現実に。欧州を「中国依存症」にした習近平が狙うEU支配

トランプ氏が表舞台から去り若干の落ち着きを見せている国際情勢ですが、今年も米中対立の嵐は止むことはないようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者の島田久仁彦さんが、2021年の両国の対立構図を予測するとともに、その影響が世界各地にどのように及ぶのかを詳細に分析。さらに日米中関係にも言及した上で、日本については「世界情勢のバランサーとしての立ち位置」の模索を提案しています。

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2021年も米中を軸に動き、変わる国際情勢

ジョー・バイデン新大統領の政権が誕生して早くも10日が経ちました。コロナが猛威を振るっていることと、トランプ前大統領の弾劾を巡るやりとりに影響され、主要な閣僚の上院による承認手続きに遅れが生じていますが、大きな論争も起きず、ブリンケン国務長官、イエレン財務長官、そしてオースティン国防長官、サキ大統領報道官などが正式にその任務をスタートさせています。

コロナによって、リーダーを含む人の移動が遮断・制限されてはいますが、国際情勢は新任の長官たちにcatch upする時間を与えることはなさそうです。

バイデン新大統領が矢継ぎ早に国際協力案件(パリ協定、WHO脱退の撤回、NATOとの関係修復、自由で開かれたインド太平洋の強化など)に関わる大統領令に署名し、独自主義に傾いていたアメリカ外交と政治をもう一度国際舞台に戻そうと躍起になっています。

その矛先は、中国との関係であり、ロシアの存在であり、中東におけるトルコの不気味な影であり、そしてもちろん世界を席巻する新型コロナウイルス感染症に向いています。

私自身、先週と先々週のメルマガで「多くの国際案件があるが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が国内で収まっておらず、かつ経済も大きく傷つけられたため、しばらくは国内案件に集中せざるを得ない内向きの政治になる」と申し上げましたが、中国に関わる多種多様な案件の存在ゆえ、いつまでも「不在」を続けているわけにもいかなさそうです。

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間違いなく米国の影響力は弱まったとはいえ、今でも地政学上の方向性を決定するmajor actorという立場は不変で、各国は米国の一挙手一投足に注視しています。

そして、それに対抗する習近平体制の中国、そしてプーチン大統領のロシア、大西洋を挟んだ親密な関係を取り戻したいが、同時に独自性も確保したい欧州各国、何としてもアメリカの気を引きたいと願いつつ、中国の習近平国家主席の気を引きたい金正恩氏の北朝鮮…。

「バイデン新政権の誕生が、混迷の米中関係にどのような変化をもたらす可能性があるのか」「あるとしたらどのようなポイントになるだろうか?」そして「どのような影響が自国に及ぼされるか?」

米中関係が今後数十年間にわたり世界の地政学の行方を左右することが確実視される中、米中の2大体制の国際情勢において、どのように自国の利益を最大化させるかが、各国のリーダーたちの腕の見せ所となるでしょう。

今回は【米中対立のいくつかの面を米中双方から眺め】、「他の国際情勢上のカギとなるプレイヤーがどのように動くのか」を俯瞰的に見てみたいと思います。

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バイデン新政権でも継続される対中強硬策

まずアメリカですが、バイデン新政権は中国との関係について【戦略的忍耐と競争】というコンセプトを挙げました。ご存じの方も多いかと思いますが、戦略的忍耐は、オバマ政権時代に対北朝鮮外交で用いられた表現です。オバマ大統領が「北朝鮮が核開発を放棄するまで対話には応じない」と宣言したのがこの“戦略的忍耐”になりますが、結果として北朝鮮にさらなる核開発と弾道ミサイル開発の時間稼ぎを許したというジレンマがあります。

その表現をあえてなぜ使ったのかは謎ですが、恐らくトランプ政権のように圧力一辺倒・中国の孤立政策一本やりではダメというメッセージを込めたかったのではないかと推測します。

そしてそこに“競争”を並列で含めたことで、バイデン新政権でも対中強硬策は継続されることを意味します。

新たに国務長官に承認されたブリンケン国務長官もいうように、パリ協定(気候変動対策)やWHOを通じた国際保健衛生政策などにおいては米中間で協調できる可能性があるが、貿易や人権問題、環太平洋地域の安全保障問題といった政策においては、トランプ政権同様、もしくはそれよりも厳格に中国を警戒し、止まることを知らない領土的野心と覇権拡大への野望に対抗することが決定されています。同じ方針は実質的に対中貿易の問題を扱う商務長官とUSTRの代表、そしてオースティン国防長官の発言でも示されています。

そしてハードラインの極めつけは、ポンペオ前国務長官が発言し、ブリンケン国務長官が追従した【中国政府が行っている新疆ウイグル自治区での再教育は、ジェノサイドに当たる】との非常に強く、また稀な発言は、バイデン新政権での対中ハードライナー外交と対応を予感させるエピソードではないかと考えます。

もちろん、中国政府は即座に反論していますし、“人権の守護者”を自任する欧州各国も、さすがにジェノサイドという表現を使うことを躊躇い、これまで通りに「人道に対する罪」という、私も国連安全保障理事会などでよく耳にした表現に止まっています。

論者によっては「米欧間の対中封じ込めの連携は一枚岩ではない証拠」との発言もありますが、私は単にGenocideという表現が意味するところの定義上のズレにすぎないと思っています。とはいえ、“ジェノサイド”という表現の援用は国際社会をすでに驚かせています。

ちなみにバイデン新政権の対中政策は、気候変動や国際保健といった分野を除き、ほぼトランプ政権の方針を継続しています。禁輸措置や中国系企業の米国内でのオペレーションの封じ込めといった側面は、実際にどうするのかは今後の展開を観なくてはならないですが、基本線は中国への警戒を継続するということのようです。

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「自由主義陣営による協調を通じた中国封じ込め」の構図

一つは半導体部門やIT、AI/5Gといったハイテク技術を通じた世界市場でのシェア獲得競争という、いわばピュアな経済政策上の競争(ゆえに戦略的競争)と捉えることが出来ますが、より重要なのはもう一つの側面と言えるサイバーセキュリティに纏わる諜報・情報戦での対立です。

メディアにおいてよく語られるのは、対米サイバー攻撃の主と言えばロシアですが、件数的にはさほど多くなく、対象も政府機関やメディアといった比較的大規模なものが多いとされています。

それに比べ、中国のサイバー攻撃の場合、企業や個人が使うPCやサーバー、携帯電話(特にスマホ)にbackdoorを仕込み、日常的に個人情報を抜き取っていくという手法が主だとされています。それゆえに、トランプ政権が執拗なまでにファーウェイ社を敵視したと言え、この方針は、オースティン国防長官曰く、バイデン政権下でも継続・強化されるとのことです。

そしてサイバー攻撃への対抗は、トランプ政権時代から開始されバイデン新政権でも強化される【自由で開かれたインド太平洋】(戦略)の下、日米豪印をクワッドとし、そこに今後、広範なアジア太平洋戦略を打ち出したドイツとフランス、英国が加わり、“自由主義陣営による協調を通じた中国封じ込め”の構図が構築されることになっています。

アメリカがこのアライアンスを重要視していることが分かるのが、今回、カート・キャンベル氏をインド太平洋調整官に任命し、アメリカの対アジア外交方針の一貫性を確保し、軍事から貿易までを含む包括的な対中包囲網の指揮を執るという体制づくりです。言い換えると、これまでの場当たり的なアドホックな対中強硬策から、一貫性のある対中強硬策への転換と言えるでしょう。

私が今後、米中関係でアメリカサイドから注目しているのが、台湾の扱いです。トランプ政権でも、その終盤にはこれでもか!と言われるほど台湾と接近・優遇し、中国に【有事の際にはアメリカは台湾を護るぞ】といったメッセージを送りましたが、この台湾カードは、バイデン新政権の対中外交でも用いられるようです。

キャンベル氏の周辺やブリンケン国務長官の周辺の情報を集めると、「台湾カードは非常にデリケートな扱いが必要で、ハンドリングを間違えたら、中国を過度に刺激し、アメリカを望まない長期戦争に突入させる恐れもある」との見解を示していますので、直接な軍事的圧力という性格ではなく、どちらかというと、今、中国と競争の最中である台湾TSMCが持つ圧倒的な半導体技術とマーケットシェアを米中どちらがものにするのかという“最先端技術と経済”の側面での競争が主だった理由だと思われます。

確実にバイデン新政権は、中国の人権蹂躙問題については大変厳しい態度を取ることになり、それは欧州の同盟国を引き寄せることにも繋がると期待されますが、恐らく最もデリケートで激しい対立の舞台は、台湾を巡る争いでしょう。

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中国が狙う「国家資本主義陣営による逆封じ込め」

では中国側から見た【バイデン大統領のアメリカとの付き合い方】はどうでしょうか?

一言で言うと、「アメリカとの競争と対立は継続」し、「アメリカとその同盟国の包囲網に対抗するべく、国家資本主義陣営による逆封じ込め」を画策するということになるでしょうか。

そのカギを握っているのが、

【コロナワクチン外交】
【AI/5G】
【南シナ海での領有権】
【RCEP】

そして

【一帯一路政策の西進】

です。

南シナ海問題を除けば、他は【経済的覇権を築き、国々を取り込む】という戦略に繋がります。先週にもお話しした通り、東南アジア諸国は米中間でのバランスを、これまでのところ上手に使い、“いいとこどり”に近い戦略を取ってきていますが、ミャンマーやカンボジア、ラオス、スリランカといった、すでに一帯一路政策を通じた対中累積債務に苦しむ国々は、言葉は悪いですが、中国のスポークスパーソンになってしまっているといえます。ASEANの会議で中国警戒論が話し合われるたびに、このような中国シンパにされてしまった国々が、合意文書の内容を骨抜きにするという中国の外交エージェント的な役割を果たしています。

同様のことが、アフリカ、特に東アフリカ諸国で顕著に見られていますし、まだオイルマネーが潤沢にある中東アラビア諸国も挙って中国の外交的エージェントです。脱炭素時代に向け、中国からの技術支援と協力を得て、かつまだエネルギーに飢えている中国による安定的な原油・天然ガスの購入という“おいしい餌”に釣られているのが現状です。これで中国から西アジアと言われる中東地域までが一帯一路政策で繋がり、その道は東アフリカにまで伸びています。

ここまでだとただ単に“線で結ばれる”だけですが、それを面に変えようとしているのが、昨年合意してスタートすることになったRCEPです。

21世紀の経済成長のエンジンと評されるのが東南アジア諸国とアフリカですが、RCEPではそのうちの一つである東南アジア諸国を一つのマーケット化するという狙いが付けられています。メディアの報道では“日本が主導的な役割”を果たしていると言われますが、実質的には、RCEP加盟国の本音は【日本は対中防波堤で、実質的にはRCEPは中国によるアジア市場席巻のメカニズムにすぎない】ということが出来ます。圧倒的な経済力と資本力、技術力を誇り、新型コロナウイルス感染症の“おかげで”東南アジア諸国経済が停滞する中、中国による“支援”は、同時に中国による“支配”に姿を変える基盤となっています。

東南アジア諸国の中でもフィリピンやインドネシア、シンガポール、そしてベトナムなどについては、まだ中国から押し寄せる経済力の荒波に耐える体力があるかと思いますが、他の国については、RCEPにインドが不参加であるがゆえに、中国からの波に呑まれるしか生存のための方法はないという状況になります。そう簡単にはいかないと思いますが、RCEPを通じて、中国による経済支配は線から面へとの深化・進化を遂げることになります。

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夢物語ではなくなった中国による欧州支配

そしてその先に見えているのが欧州各国です。コロナ禍の中、EU内でも英仏独そしてベネルクス各国に反感を持つ中東欧諸国や“貧しい”南欧諸国などへの迅速なマスクと医療機器の供給という“マスク外交”は、一時は中国によるEU分断を決定的にする可能性を秘めていました。何とか北の加盟国(フランスやドイツなど)からの“謝罪”を経て、経済的な支援と共にEUの統合を致命的に乱すことにはならなかったのですが、その後も中国からの秋波は押し寄せています。

その典型例が、12月30日に合意したEUと中国の投資協定です。EUサイドからは自画自賛ともいえるコメントが相次ぎ、「これは中国との間でフラットな関係を築くためのもの」との認識が表明されていますが、裏返せば、抗っても否定できない欧州各国の中国経済への依存度の高さが中毒レベルにまで高まっていることを示します。

欧州委員会他は【中国とのフラットな経済互恵関係】と表現して面子を保とうとしていますが、中国の経済力強化が迅速に進められてきたこれまで中国が本当に国際的なルールに従って、フラットな関係に甘んじたことがあったでしょうか?

恐らく今後、アメリカからの呼びかけなどもあり、人権問題を盾にEUは中国の批判をせざるを得なくなりますが、すでに今回の合意によって経済的な首根っこを掴まれているため、あまり原理原則に拘ると、中国側としては簡単に欧州経済の活動を滞らせることが可能になってくるでしょう。

南シナ海問題、5G/AI、一帯一路政策による西進、脱炭素社会の構築…これらは一見直接的な関係はないように見えますが、実際にはこれらすべてが欧州への圧力強化につながる大事なピースとなっています。

つまり、中国による欧州支配は夢物語ではないかもしれないのです。

では当の欧州各国はどうでしょうか?表向きには強がっていますが、実際には中国の勢力の西進が止めることができないことは分かっているようです。それを止めることが出来るのは欧州各国自らと、恐らくアメリカとの密接な協力ですが、各国とも、抗えない対中依存度の高まりと、欧州が重要視する人権などの原理原則という狭間で苦しんでいるのが実情です。

人権を対中関係で口に出したら、すぐさま習近平国家主席以下、中国共産党幹部が挙って「人権に関する教師は不要」と不快感を露にして謝罪を求めるか、非公式ルートで欧州各国に譲歩を求めてきて、結果として欧州諸国は中国の思い通りになっていってしまうという悪循環に陥りかねません。

そしてそれはコインの反対にある“アメリカにも対抗できる経済力を、欧州として持ち、アメリカと対等の立場で、世界経済のメインプレイヤーになりたい”という長年の夢は、すでに中国なしでは叶わないという現実に突き当たります。

12月30日に合意された投資協定は恐らくメルケル首相の置き土産で、かつ対米対抗心の表れと言えるかもしれません。それは、ドイツ政府の対応のズレから見ることが出来ます。表向きは、昨年夏ごろからドイツのこれまでの中国への傾倒が行き過ぎ、それが中国の伸長を招いたとの反省から、インド太平洋戦略なるものを策定し、広範なアジアへのコミットメントを強める外交方針を出しました。そしてそれを受けるかのように、今年中にはドイツ海軍の艦船が定期的かつ長期にアジア海域に派遣されるという動きにも繋がります。

表面的には、ドイツの中国離れとも取れますが、実際には投資協定のケースで典型的に見られるように中国依存度は低下していません。すでに退任が決まっているメルケル首相ですので、その後継者たちはすでにPost-Merkelの政策を打ち出しており、今回の艦船の派遣は、象徴的なものであっても、第2次大戦後封じ込めてきた域外への軍の派遣と、同海域においてすでに一定の勢力を築いているフランスへの対抗心が相まっての結果となっています。

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バイデン大統領がトルコに迫る「踏み絵」

フランスについては、予てより欧州防衛軍を創立・強化したいと訴え、欧州でのリーダーシップを狙っていますが、旧宗主国としての顔も未だ強く、南太平洋にフランス領を持つ国として、南太平洋とアフリカ、欧州をつなぐ海域を中国に分断されたくないという危機感も抱いています。また、今、中国の影がちらつくギリシャが地中海においてトルコと戦う際にも、ギリシャの後ろ盾として介入していますが、表面的にはトルコと対峙していても、ギリシャをはじめとする地中海諸国への中国勢力の伸長を非常に警戒しているがための動き・介入といえます。旧宗主国としての顔と欧州のリーダーに返り咲きたいという宿願が、フランスの対応を鈍らせています。

そのようなどっちつかずの対応は、バイデン新政権を非常に苛立たせているようです。就任前から、トランプ前大統領によって崩された欧米間の協調関係の修復を謳っていましたが、投資協定以降は対欧州不信感が高まっているとのことです。

その表れか、欧州各国への当てつけなのか、今週、NATO事務総長との電話会談でNATOを通じた大西洋を挟んだ協力の復活はもちろん、アフガニスタンやイラク、シリアという域外の問題への対応でも協力が“必要”という認識で合意し、広範にNATO憲章第5条(集団的自衛権の行使)を適用する旨、合意したようです。

これはオリジナルの「共産主義圏への対抗(ソビエト連邦からの圧力への対抗)」という趣旨を「ロシアへの警戒」に置き換えるというのと同時に、今では「中国からの圧力への抵抗」に置き換えて、欧州各国に踏み絵を迫っているのではないかと思われます。

同様の圧力は、先述の通り、中国からも押し寄せており、見事にEUは米中対立の真ん中で身動きが取れなくなっていると言えるでしょう。

そこに横やりを入れたいのが、エルドアン大統領のトルコです。トランプ前大統領とは喧嘩はしつつも馬が合ったようですが、原理原則を押し付け、就任前からエルドアン大統領を独裁者扱いするバイデン新政権への対応に苦慮したのか、これまで欧州や中東諸国を相手にフリクションを起こしてきた現状を収めようとするような動きを取り始めました。

例えば、歴史上嫌っているエジプトとの対話を模索したり、イスラエルとの対話を行ってみたりと、関係の修復を図ることで、バイデン新政権から直接的なターゲットになりたくないとの思惑が見え隠れします。ただ、これまでの所業もあり、周辺国もエルドアン大統領の変わり身の真意を測りかねているようで、期待されているほどの効果は生まず、このままでは、バイデン大統領から厳しい姿勢で臨まれるのではないかと思います。特に「NATOの同盟国として振舞うか、それとも敵になるのか?」という踏み絵は、そう遠くないうちに迫られるのではないかと私は読んでいます(アンカラからのニュースです)。

中国にとってもトルコの存在は複雑なようです。一帯一路政策の伸長のためには、欧州ルートでもアフリカルートでも、トルコを通過する必要があり、それをよく認識しているエルドアン大統領の複雑怪奇な外交により、トルコとの関係をどうしたものか悩んでいるそうです。イランの味方という点では安全保障政策上共通点はありますが、外交全体で共通の立場を取ることが出来るかといえば、そうとも言いきれないというのが実情のようです。トルコの微妙な立ち位置もまた、米中関係の狭間で非常に複雑になっているといえるでしょう。

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日本は米中の間を取り持つユニークな役割を

最後に日本はどうでしょうか?これまでにも何度かお話ししていますが、これまでのところ、アメリカとも中国とも良好な関係を築いているという“両にらみ”の外交が出来ていると評価しています。

昨今、中国とは尖閣諸島問題での対立が常にありますが、経済面では互いに無視できない存在として認識し、ビジネスパスポート制度に見られるように、中国を重要視している姿勢を日本は示しています。現時点では、あまり中国のご機嫌を損ねたくないというのが方針ではないでしょうか。

対米については、従来通り「日米同盟を基軸」とした外交をしていますので日米関係は良好かつ密接だと思いますし、見事に菅総理とバイデン新大統領との2度目の電話首脳会談で「尖閣諸島問題は日米安全保障条約第5条に規定される、核戦力を含む防衛対象に含む」という言質をバイデン新大統領から取れたのは、外交的な成果と言えるでしょう。今後、沖縄の基地問題や駐留米軍の費用負担に関する協議で緊張する場面もあるでしょうが、関係が悪化する懸念はあまりしなくて良いかと思います。

しかし、今後、そう遠くない時期に米中双方から「それで結局どちらに付くんだ」と尋ねられるかもしれません。その際、どう回答すべきかは常に考えておく必要があるかと思いますが、私は米中の間を取り持つユニークな役割も期待しています。

どちらとも要綱な関係を築いていて、世界第3位の経済大国、そして自衛隊の装備・能力とも世界のトップレベルにあるという日本をフルに活用して、世界情勢のバランサーとしての立ち位置を考えてもいいのではないかと常々考えています。

2021年は恐らくまだまだコロナに翻弄される1年になってしまうかと思います。しかし、そのような中でも米中間の対立と競争が止むことはなく、両国はもちろんその他の国々も2大パワーが暴れて、角突きをする世界でどうやって自国の利害を護ることが出来るか。そのかじ取りが試される年になるのだと思います。そして、その混乱の国際情勢は、やはり米中を中心に回ることになるのでしょう。

かなりいろいろとお話しをして長くなってしまいましたので、今週はこれでおしまいにしますね。

皆さんはどうお考えになるでしょうか?またご意見、ぜひお聞かせください。

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島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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