五輪開催地のほとんどを占める首都圏が緊急事態宣言下であるにも関わらず、予定通り3月25日からスタートすることになっている「聖火リレー」。島根県知事をはじめ自治体から困惑の声があがっています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、「聖火リレー」「辞退」に関する新聞記事を通覧。歓迎されず、辞退者も増える聖火リレーだけでなく、現状を見るに、海外から観客を呼ぶこともできないまま開催する五輪になんの意味があるのかと、問題提起しています。
東京五輪の聖火リレー「辞退」を新聞はどう報じてきたか?
きょうは《毎日》からです。24面に、東京五輪の聖火リレーについての記事があります。試しに「聖火リレー AND 辞退」で《東京》の方で検索を掛けると、過去5年間の24件にヒット。きょうはこれを対象に。まずは《毎日》24面記事の見出しから。
著名人100人 調整難航
聖火走者「密」回避対策で
7人辞退
3月25日スタート予定の聖火リレーに参加予定の著名人約600人のうち、100人以上について日程や走行場所の調整が済んでいないことを組織委が明らかに。著名人については、新型コロナウイルスの感染防止策として「競技場や学校、公園など公道以外を走る」ことになっていて、場所の確保が遅れ、内定通知が一般ランナーより2ヵ月も遅れた。2月25日に通知したが、7人がスケジュールを理由に辞退したという。
●uttiiの眼
一応、この「辞退」は内定通知が遅れたために別スケジュールが入ってしまい、応じられなかったという、技術的な理由。誰が走るのかほとんど明らかにされていないので、内実はよく分からないが、森喜朗前組織委会長の女性差別発言がきっかけではないとされる。しかし、なぜ遅れたのかについて、記事は「技術的」な説明をしていない。
*TOKIOと俳優の窪田正孝さんは辞退したことが公表されている。
【サーチ&リサーチ】
*最初は、まだ新型コロナが問題になる前。「反五輪トーチ」という刺激的な話から。
2018年11月25日付
「反五輪の象徴として、五輪開催国の反対派市民の間で引き継がれてきた「反オリンピックトーチ」が2020年大会を控える東京に到着した。世界では、五輪招致への逆風が強まっている。日本も例外ではない。30年の冬季大会を目指す札幌市では、反対する市民が増えている」と。
*続いて、コロナ禍で五輪の延期が検討されることになり…。
2020年3月24日付
「12日にギリシャで行われた採火式は、人混みを避けるために無観客で実施。同国内の聖火リレーは、有名俳優が走った区間で想像以上の観客が押し寄せ、結局13日で中止になった」という。
さらに「日本での聖火リレーは、26日に福島県で始まる。大会組織委員会は一般ランナーの参加を取りやめるなど縮小を検討しているが、仙台などの状況を踏まえると、人混みができる可能性はある。裏を返せば、五輪延期で聖火リレーの中断が決まれば、人混みを作らず、観客の安全を守ることができるということだ」と。
*そして、延期が決まり、森氏の女性差別発言へ。
2021年2月4日付
お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さん(47)が聖火リレーを辞退。理由は「森喜朗会長がインタビューで、東京五輪は新型コロナウイルスがどんな形でも開催するんだという理解不能な発言をされ、タレントは人が集まるからと田んぼで走ることを推奨していたが同意しかねる」として。
2021年2月8日付
自治体から、聖火リレーを安全安心に行うための目安、ガイドラインを示してほしいという切実な声が上がっているとの記事。
*森会長(当時)の女性差別発言に批判が高まる中…。
2021年2月9日付
「東京五輪・パラリンピック組織委員会は8日、4日以降に約390人が大会ボランティアへの辞退を、2人が聖火リレーランナーへの辞退をそれぞれ申し出たと発表した。組織委は辞退理由を公表していないが、3日に森喜朗会長が女性蔑視の発言をした影響とみられる。またこの5日間、組織委への問い合わせは電話、メール合わせて約4550件に上った」。
*さらに、聖火リレーを中止するとの島根県の丸山知事の発言には賛意も多く示されて…。
2021年2月26日付
「鳥取県の平井伸治知事は「大都市の感染状況に不安を感じる丸山知事の心情は非常に理解できる」と述べ、県内の聖火リレーの準備を止めていると明かした。山口県の村岡嗣政知事は聖火リレーを予定通り進める考えを示す一方、「(丸山発言は)感染防止対策を講じることを促した。重要なことだと思う」と理解を示した」
*その後、俳優の渡辺徹さん、大関の正代が辞退。神奈川県では「五輪の開催に疑問がある」として1人が辞退。TOKIOと窪田正孝さんが辞退。
●uttiiの眼
もともと、事故を起こした原発について「アンダーコントロール…」と首相がウソをつき、「復興」の美名を僭称して始まった五輪騒ぎ。新型コロナが止めを刺した形と思っていたが、どっこいしぶとく生き残っているようにも見える。
だが、自治体からは怨嗟の声、参加者からも不満続出の「聖火リレー」を強行し、海外からの客も招くことができぬまま開催に及んだとしても、どれだけの意味があるのか。その時間と労力を真の復興と新型コロナウイルス対策に用いるべきだったのではないかと、長く批判を浴び続けることになるかもしれない。
image by:Ververidis Vasilis / Shutterstock.com