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総務省NTT疑獄事件が引き金に。日本の通信業界を襲う恐ろしい事態

週刊文春の報道で明らかとなった、NTTによる総務省幹部らへの接待問題。15日には同社社長の澤田純氏が参院予算委員会に参考人として出席し、業務上の要請や便宜依頼を否定しましたが、社長辞任は避けられないとの声も上がっています。今回のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』では著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんが、澤田氏去りし後の同社の経営体制を危惧するとともに、日本の通信業界が近い将来陥りかねない「恐ろしい事態」を指摘。さらに総務省の解体問題についても言及しています。

NTTと総務省幹部の失脚で、日本の通信の未来はどうなる?

先週、週刊文春がNTT幹部と総務省・政務三役とも会食していたと報じた。野田聖子元総務相、高市早苗元総務相、坂井学元副大臣、さらにはNTTドコモ出身の小林史明元政務官の名前もあった。

先週の谷脇康彦総務審議官からの政務三役ということで、今週の文春砲はさらに驚くべき人がターゲットになるのではないかと見られている。

東北新社による総務省への接待報道では、週刊文春の記者が飲食店に潜入し、会話を録音。さらに帰り際に菅総理の長男が総務省幹部にタクシーチケットを渡すシーンが撮影されている。

おそらく、総務省幹部と東北新社が会食するという情報が、事前に週刊文春編集部にリークされ、記者が張り込みをしたのではないか。

一方、NTTによる会食報道を見ると、週刊文春編集部が張り込みをしている記事にはなっていない。現場を克明にリポートした原稿だが、実際はメニューや金額などの羅列となっている。NTT幹部と総務省関係者ならびに政務三役との会食について、クラブノックス麻布での話しか出てこないと考えると、おそらく、NTT迎賓館といわれているクラブノックス麻布の台帳が週刊文春編集部に持ち込まれたのではないか。

澤田純社長によって、NTTドコモはNTTの完全子会社化となった。この動きを面白くないと感じた、ある人物がクラブノックス麻布の関係者から台帳を入手した可能性が高そうだ。クラブノックス麻布は株式会社ノックストゥエンティワンが運営しているが、この会社はNTT都市開発のグループ会社である。もともと、電電公社に入社した人たちが、NTTやNTTドコモ、NTT都市開発に散らばっていることを考えると、台帳のようなものが関係者の間でやりとりされるのは不自然ではないのかもしれない。

今後、気になるのがNTTの経営体制だ。

東北新社の社長はあっさりと辞任に追い込まれた。澤田純社長は、15日に参院予算委員会の集中審議、16日にも衆議院で参考人招致される。谷脇総務審議官のみならず、政務三役を巻き込んでの接待問題と言うことで、NTTの社長を続けられるかはかなり厳しい情勢と言えるだろう。

澤田社長はIOWN構想を掲げ、NTTグループをGAFAに対抗できるよう、国際競争力を高めようと尽力していたはずだ。だからこそ、NTTドコモを4兆円も投じて完全子会社化したのではないか。

ここで澤田社長がNTTグループの陣頭指揮を執れなくなるとすれば、後任は誰になるというのか。

NTTグループの国際競争力を強化するどころか、澤田社長が抜けることでNTTグループにおける求心力がなくなってしまうのではないか。

総務省でも幹部が失脚するなか、「日本の通信業界における未来に向けたビジョン」を描く人が誰もいなくなるという恐ろしい事態に陥りそうだ。

総務省の失態で浮上する「解体問題」――NTTグループのあり方も再議論が必要か

NTTと総務省の癒着との疑念が浮かぶ、今回の接待問題。かつて、大蔵省は金融機関との関係性が問題視され、財務省と金融庁に分離したように、総務省も通信と放送行政の部門を分離した方がいいのではないか。

時々、総務大臣の会見に参加することがあるが、記者からの質問はマイナンバーカードや消防、防災、ふるさと納税など多岐にわたる。通信の世界は、全体像を理解するのにかなり難儀だというのに、総務大臣が片手間に首を突っ込んで的確な指示を出せるほど甘くないはずだ。

かつて、BSフジの「プライムニュース」に5Gがテーマだった時に出演させてもらったことがあった。番組の最後に締めの言葉を求められるのだが、日本に必要なものを聞かれ、「5G省」と答えたことがあった。

そのときはテーマが5Gだったので、5G省にしたが、やはり日本には、アメリカのFCCのような組織がそろそろ必要なのではないか。というか、今回の総務省の失態を見ると、すぐにでも総務省を解体し、通信に特化した組織を作るべきだ。もはや、スマートフォンは国民に欠かせないものであり、単に「通信行政」にとどまるものではない。通信業界が影響を及ぼすのは、金融や農林水産、経済産業、国土交通などあらゆる省庁にまたがりつつある。

通信で自動車の自動運転をもっと安全にさせようと思えば、国土交通省との連携は不可欠だ。IoTで農業や漁業での生産効率を上げようと思えば、農林水産省と取り組む必要がある。

通信で日本にデジタルトランスフォーメーションを進めようとするならば、あらゆる省庁と連携できる体制の組織にする必要がある。総務省の一部ではなく、独立した体制が望ましいのではないか。

また、総務省とキャリアの関係を見直すために電波オークションの導入も検討すべきではないか。世界的に見ると、電波オークションは、キャリアの金銭的な負担が増し、ネットワークの設備投資に金を回せなくなるという欠点もあるが、一方でキャリアがオークションで使った金を回収しようとMVNOに積極的に電波を貸し出すという利点もある。

日本ではMVNOを盛り上げようと、延々と接続料の話をしているが、もはや接続料に依存するビジネスモデルにも限界がある。総務省がキャリアを審査して電波を割り当て、キャリアに対して規制を設けるという関係性が、日本の通信市場をダメにしているのは明らかだ。総務省からキャリアに対しての圧力をなくすためにも、電波割り当てや規制のあり方を見直す必要があるのは間違いない。

先週の週刊文春では、NTT幹部のコメントとして「潰そうと思えばKDDIやソフトバンクはいつでも潰せるんだ」と全国に光ファイバー網を持つNTT東日本・西日本の競争優位性をアピールしていたと報じている。

今回、なぜか何の議論もないなか、あっさりと実行されてしまったNTTによるNTTドコモの完全子会社化。いまさら、ぺこぱのように時は戻せないが、今回を契機に、きっちりと日本におけるNTTグループならびに光ファイバー網のあり方を議論すべき時期が来ているのではないか。

image by: BjornBecker / Shutterstock.com

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日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。

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