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卑怯な中国とロシア。国民虐殺のミャンマー国軍に恩を売る真の狙い

2月1日に発生した軍事クーデター以来、600人を超える市民が国軍の犠牲となったミャンマー。事態はまさに泥沼化の様相を呈しており、解決の糸口すら見えない状況が続いています。その原因として国軍とアウン・ミン・フライン総司令官の計画の杜撰さを上げるのは、元国連紛争調停官の島田久仁彦さん。島田さんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、彼らの見込みがいかに甘いものだったかを詳細に解説するとともに、ミャンマーへの制裁に反対する中ロの思惑を推測。さらにミャンマー問題が起点となりアジアの安定が損なわれた場合、日本にも悪しき影響が及ぶことになると警告しています。

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袋小路に陥ったミャンマー情勢-混乱と漂流、そして暴力の連鎖

2月1日に国軍によって強行されたクーデターと、民主派勢力の排除。国家的英雄のアウンサンスーチー女史を含むNLDの幹部が逮捕・拘束されてから、国内の混乱が収まりません。

国際社会からの批判をできるだけ避けたいと考えた国軍トップのフライン総司令官は、しばらくは武力行使を慎み、中国やタイなどに、体制の後ろ盾となってほしいと外交活動を行ってきました。そのような中、不安と混乱はあっても、ビジネスには大きな支障はないと考えた企業はしばらく様子見を行っていました。

とはいえ、国軍によるクーデターと、その後の民主化デモの制圧は明らかな人権侵害ではないのかとの懸念から、ミャンマーに進出していた外資、特に欧州企業は、プロジェクトの停止と撤退を始め、連名でクーデターと弾圧に対して抗議を行いました。

雰囲気とモードが一気に転換したのが、軍の記念日にあたる3月27日。この日を境に、アウン・ミン・フライン総司令官率いる国軍と政府は、武力を行使して民主化運動の制圧と弾圧にギアを変えました。

7歳の女児が銃殺され、放たれた火を消しに行った男性が銃撃され、その他、多くの人が流れ弾を受けて殺されました。中には、ただごみを捨てに行っただけの女性や、普段通りに自宅で食事をしていた子供と家族が惨殺されるなど、軍の行動はエスカレートの一途をたどっています。

通常、軍隊の暗黙の了解として、民間人には決して銃口を向けず、ましてや実弾使用はありえないというルールがあるのですが、今回はことごとくミャンマー国軍は、その国際的なプロトコールと暗黙の了解を無視する蛮行に出ています。

その結果、各国の制服組のトップ(統合参謀本部議長)が連名でミャンマー国軍とフライン総司令官を非難するという、異例の事態にまで発展しました。

残念ながら、その甲斐もなく、自国民に対する軍の愚行と蛮行は収まるどころか、エスカレートしています。

軍による民家の捜索と略奪。
女性への性的暴行の横行。
メディアの統制とSNSの禁止。
インターネットアクセスの停止。

そして、ついには自国民に対して機関銃と手りゅう弾を用いるという、尋常ではない状況になっています。

まさに制御が一切機能せず、軍としての統制が喪失された危険な状況に見えます。

どうしてこんなことになったのでしょうか?

最大の理由は、国軍とアウン・ミン・フライン総司令官自身、2月1日のクーデター決行に至る前に、明確な出口戦略と将来ビジョンを描けていなかったことにあると考えます。

恐らく「クーデターによって民主派を排除しても、さほど国際社会は関心を示さないだろう」「きっと中国はもちろん、タイ、カンボジア、ラオスなどの近隣諸国がサポートしてくれるだろう」と考え、「何とかなる」くらいに思っていたのかもしれません。

もしくは、かつて軍事独裁から、NLDによる民政への移行にあたり、大統領として民主化されたミャンマーの基盤を作り上げたティン・セイン氏のイメージを借りてくることで、現状打破のイメージを国民にアピールし、支持を得ることができると考えたような節もあります。

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ミャンマーを舞台に対立を極める欧米と中ロ

また、民主化運動を孤立させようと、ロヒンギャを除く少数民族との融和を図ろうと画策しましたが、これまで少数民族を、NLDによる政権が続いた10年間に、いじめ倒したのが国軍の方針であったことを、都合よく忘れようとしたのでしょうか?

結果、少数民族とその武装勢力は、ことごとく民主化運動を支援する側に回りました。皮肉なことに、国軍が少数民族のご機嫌取りのために釈放した“政治犯”によって、各勢力の統制と士気が上がるというおまけもつけて。

国軍による暴力が激化し、軍の統率が取れていないことが明らかになるにつれて、警察や消防といった治安部隊も、国軍サイドから離脱していき、民主化運動側について、デモをより統制とれたものに変え、かつゼネストを公的な機関にも広めることで、国軍による政府の機能をマヒさせています。

国民、少数民族、治安部隊、そして国際社会からの反発と反対を前に、アウン・ミン・フライン総司令官率いる国軍は冷静さを失い、手当たり次第に反対勢力に対しての武力行使に乗り出したと思われます。

結果として、国軍に対して、民主化運動と少数民族の武装勢力が手を結んで交戦状態に入ってしまい、ミャンマーはここままでは、また泥沼の内戦に突入してしまいかねません。

しかし、国軍と少数民族の武将勢力では、戦力も軍備のレベルも雲泥の差です。

国軍が空爆や重火器を使った一斉攻撃を仕掛けることができるのに対し、少数民族の武装勢力は、あくまでもゲリラ戦の方式をとらざるを得ません。国軍の統率が取れていない中、構成員に恐怖心と不安を植え付けるという、心理戦の観点からはダメージを与えることはできますが、国軍を駆逐して、現政権を終えさせる、逆クーデターを仕掛けるほどの力は、すべてが結集しても存在しません。

民主化運動サイドと少数民族の武装勢力側が“勝利”するとすれば、それは、どこかの国の何らかの後ろ盾が存在する場合のみです。

それがかつて噂された中国なのか?それとも、民主化運動を支え、国軍によるクーデターを激しく非難する欧米サイドなのか?

現在のミャンマー情勢を見てみると、問題は国内にあり、悲劇が繰り返されているにもかかわらず、欧米と中ロはミャンマーを舞台に対立を極めています。

欧米サイドは“人権”を盾に、国軍によるクーデターとその後の蛮行を激しく非難し、国連安全保障理事会を通じて、対ミャンマー制裁の必要性を訴えかけています。

それに対し、中ロに代表されるグループ・ブロックは、表面上は【内政不干渉の原則】という看板を立て、平和裏の解決を望むと発言していますが、何もしていません。どちらかというと、欧米諸国からの人権プレッシャーに押されたミャンマー国軍が中国ロシアサイドに接近してくるのを待っているように見えます。ゆえに、中国もロシアも、国連安保理常任理事国として、ミャンマー制裁に反対し、国軍に恩を売っているようにも見えます。

ただ、残念なことに、双方ともに“ミャンマー国民の惨状“を見てはいません。ゆえに、具体的な出口をミャンマーに用意してやることも叶わないでしょうし、ましてや関心があるかも不明です。

ミャンマーは両サイドにとって地政学的な重要拠点に位置付けられていますが、あくまでも欧米と中ロの対立の舞台は、台湾海峡、香港、南シナ海、東シナ海、そしてコーカサス・中央アジアで、ミャンマーは、悲劇が起きているにもかかわらず、直接的な優先順位認定を受けていません。

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ミャンマー制裁に乗り出せぬ日本特有の事情

そのような中、日本はどのような貢献ができるでしょうか?

これまでのところ、メディアがこぞって取り上げるように、具体的な対応はとっていないように思われます。外資企業が連名で非難と懸念表明を行った際にも、日本企業は皆無でしたし、外交的にも、人権的な懸念を表明するものの、対ミャンマー制裁には乗り出していません。

その理由には、日本特有の事情があるのかもしれません。第2次世界大戦中、日本軍はアジアで表現できないほどの蛮行を働いてきました。日本からの支援を期待して、ごく一部のアジア諸国を除き、積極的に、そして具体的に日本批判は行っていませんが、根底には「日本政府よ。お前に人権問題であれこれ言われたくはない」との思いが渦巻いているようです。

そのプレッシャーが日本サイドにも伝わり、明確かつ一貫した外交姿勢をとることが出来ずにいます。

ここには【価値観に関しては表明は明確に、しかし、実際の行動は控えめにあるべき】という基本的な人権外交方針が存在します。ゆえに、サイドをとりたがらない対策を好むのかもしれません。

私も再三、期待を込めてフラストレーションを表明していますが、米中両国およびアジア諸国への配慮とうしろめたさゆえに、
明確な行動をとることが出来ないという、日本の傾向はしっかりと理解・認識しておく必要があるかと考えます。

さて、クーデター発生からすでに2か月が過ぎました。

事態は悪化し、多くの避難民が周辺国に逃れることで、隣国とのハレーションを起こし始めています。そして、内戦の危機が懸念される中、周辺国との衝突の可能性も日々大きくなってきているように思われます。

下手をすれば、米中が台湾などをめぐって直接対決に至る前に、ミャンマー関連の武力衝突が、アジア太平洋地域を舞台にした様々な対立と紛争のトリガーになってしまいかねません。

紛争の平和的解決に従事する者としては、大きな戦争を誘発しそうな事態は、一刻も早く止めたいところですが、ここにもCOVID-19の見えない壁が立ちはだかり、調停努力を困難にしています。

ミャンマー問題を起点として、アジア太平洋地域の安定が損なわれることが起きてしまったら、その影響は確実に日本にネガティブな形で波及してきますが、皆さんならどのように対応されますか?

ぜひお考えをお聞かせください。

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image by: KN23 / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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