政府が声高に叫ぶ「国土強靭化」ですが、強靭化される地域には偏りがあるようです。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、GDPの3%以上が公共事業費として使われながら、多くの地区の社会インフラが劣化する「ウラ事情」をリーク。そこにはやはり「政治とカネ」の問題が大きく関わっていました。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2021年5月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
公共事業大国なのにインフラがボロボロの日本
新型コロナにより日本の医療の脆弱さが明るみに出ました。未だに世界で百何番目というPCR検査、欧米より桁違いに感染者や死者が少ないのに医療崩壊寸前。「これで先進国と言えるのか?」という声も多々聞かれるようになりました。
また前回は、教育の貧困について述べました。日本の教育制度はもはや途上国である、と。
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が、残念ながら貧弱なのは医療、教育だけではありません。社会インフラも先進国とは言えないほどにボロボロなのです。
日本は世界でもまれな公共事業大国です。現在の日本の公共事業費は、90年代に比べて大幅に削減されています。それでもGDPにおける公共事業費の割合を先進諸国で比較してみると、イギリス、アメリカは2%台、ドイツなどは1%台なのに比べ、日本は3%台の後半です。大幅に削減してもまだ公共事業大国なのです。にもかかわらず、社会インフラがボロボロなのです。
わかりやすい例を挙げたいと思います。現在、日本では、風水害などの治山治水対策として毎年1兆円を大きく超える国家予算が組まれています。しかし、先進各国の主要河川等の整備率を見てみると日本は異常に悪いのです。以下が先進国の主要河川の堤防整備率です。
日本(荒川) 40%
アメリカ(ミシシッピ川) 94%
イギリス(テームズ川) 100%
オランダ(沿岸部) 100%
日本の荒川というと、埼玉、長野、山梨から関東平野のど真ん中を貫き、東京23区内を経て東京湾にそそがれるという「首都圏の中心を流れる大河川」です。この荒川の堤防工事が40%しかできていないのです。もちろん、ほかの河川は言うに及ばずの状態です。
途上国よりも危険な国
2018年の世界の災害死者数ランキングでは日本は444人でインドネシア、インド、グアテマラに次いで4位となっています。というより、日本は世界の災害死者ランキングで常に上位に位置しています。世界には、日本よりもはるかに気候が過酷だったり、大きな災害が生じる国が多々あります。また貧困によりインフラ整備がまともに行えない国も多々あります。そういう世界の過酷な国々を差し置いて、日本は災害死者で常に世界の10位以内に入っているのです。本当にみっともない恥ずかしい話です。
では日本は巨額の公共事業費を一体に何に使っているのでしょう?まあ、うすうす皆さんもご存じのはずです。有力な政治家が、自分を支持する建設業者のために莫大な公共事業費を浪費しているのです。国会議員の支援者には、建設業者がかなり多いのです。建設業者自身が、県議会や市議会の議員を務め、国会議員の有力な集票マシーンとなっていることもかなりあります。彼らと政治家が持ちつ持たれつの関係になっているのです。
有力議員の地元にばかり公共事業
その結果、日本は巨額の公共事業費を使っているのに社会インフラはボロボロという状態になっているのです。
この社会インフラのボロボロさは、実際に大きな被害も招いています。
2014年8月、広島県では集中豪雨に見舞われ直接の犠牲者74人、関連死3人の計77人もの犠牲者を出しました。では、国はこの広島県の災害に対してどういう対応をしたのかというと、むしろ以前よりも公共事業の予算を減らしているのです。
広島県では、なんと豪雨災害の起きた2014年以降、予算が大幅に削られているのです。広島県の公共事業費が削減された明確な理由はなく、その一方で、隣県の山口県の予算は激増しています。
人口が半分以下の山口県の方が広島県よりも公共事業費の総額で上回っているのです。県民一人あたりにすると山口県は広島県の2倍以上となっており、2016年にはなんと7倍以上になっているのです。
なぜこの時期、山口県の公共事業費が激増したのでしょうか?この時期、安倍氏が首相になっております。単なる偶然とは考えにくいところです。
また同時期の和歌山県では、もっとひどいことになっていました。2013年の和歌山県の国からの公共事業費は、北海道、福島に次いで全国3位になっています。
この年も東京よりも多く、しかも東日本大震災で大きな被害を受けた東北の5県よりも多いのです。人口90万人の和歌山県が、人口1,000万人の東京都よりも巨額の公共事業費を使っていたのです。そしてこの時期、自民党の最有力者である二階氏が予算委員長をしていました。二階氏は和歌山県出身です。
もちろん日本の社会インフラがボロボロになるのは当たり前です。2014年の広島県の豪雨災害から4年後の2018年、広島を中心とした西日本地域の豪雨災害が起きます。この2018年の豪雨災害は、4年前の被害よりもさらに大きく、犠牲者は263人にも達し、平成で最悪の豪雨災害となりました。中でも広島県の被害がもっとも大きく、144人の死者、行方不明者を出しました。こういうことの積み重ねが、世界の災害死者ランキングでワースト10に入り続けるという結果を招いているのです。日本はもはや途上国なのです。
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