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ワクチンも政治利用。変異株の危機感足りぬ菅首相に国民は殺される

基礎疾患のない20代という若い世代が命を落とすなど、これまでとは明らかに様相を異にする新型コロナ感染の第4波。変異株が猛威を振るいだしたことがその原因ですが、ワクチンの接種も遅々として進まないのが現状です。このような菅政権の新型コロナ対策について「ことごとく見通しが甘い」と批判するのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、菅首相の変異株への危機感不足を指摘するとともに、医療の論理を優先しコロナを抑え込むことこそが経済の復活につながると断言した上で、首相はその責務を果たすべきとしています。

菅首相には変異株への危機感が足りない

恐れていたことが起きている。ほとんど英国型変異株に置き換わったといわれる新型コロナウイルスは、2回目の緊急事態宣言の解除から3回目の宣言にいたる不徹底な対策のおかげで、関西から首都圏、そして全国の地方都市にあっという間に広がった。

当初は4月25日から5月11日までだった東京、大阪、兵庫、京都の緊急事態宣言。期間が短すぎると疑問の声が上がるなか、案の定、感染者が減ることはなく、菅首相はたまらず5月末まで期間を延長した。それでも菅首相は「人流は減った」と、いつもの“ごはん論法”でかわそうとする。

自分の政策は間違っていない、批判はあたらないと、強気一辺倒なのだ。それなら初志を貫けばいいのに、あっさり変更する。頑固一徹なのか、脆いのか。これまでも変更を繰り返し、そのたび「申し訳ない」と、謝罪の言葉を乱発してきた。

例えば1月7日、首都圏1都3県へ2回目の緊急事態宣言を決めたさいの記者会見で「1カ月で何としても感染拡大を防止したい」と言いながら、2月2日には「3月7日まで、1か月延長」に変更、「誠に申し訳なく思っております」と謝罪した。

全面解除を決めたのは結局、3月18日。そのとき「再び宣言を出すことがないように対策をしっかりやるのが、私の責務だ」と、固い決意を示したものの、4月23日、またしても4都府県への緊急事態宣言を決定。「再び多くの皆さまにご迷惑をおかけする。心からおわび申し上げる」。

さらに、5月7日、4都府県に出していた緊急事態宣言の延長と、福岡、愛知両県への追加発出を決めたさい。「引き続き御負担をおかけする皆様に深くおわびを申し上げます」。

謝罪もこう軽々しいと、何もかも信用できなくなる。時短要請の最中、官僚や政治家が多人数で夜の会食に及んでいたというお粗末もあって、とうとう人々は「仏の顔も三度」とばかりに怒り爆発、自粛をゆるめて街に繰り出した。

おりから、世界で変異株が猛威をふるい、水際対策の不徹底をついて、英国型が関西に上陸。大阪では100万人あたりの新規死亡者数がインドを上回る事態になった。インドの悲惨な状況は周知の通りだ。

入院すらできず自宅や施設で亡くなる人が続出する医療崩壊のさまは、経済とコロナ対策の両立を言い募る菅政権と経団連に、冷厳な現実を突きつける。

菅首相が期待を寄せるのはワクチンだ。「私たちが安心した日常を取り戻せるかどうかは、いかに多くの方にワクチン接種ができるかにかかっている…私自身が先頭に立って、ワクチン接種の加速化を実行に移します」(5月7日記者会見)

従来型や英国型にワクチンがかなり有効であるのは確かだろう。筆者が心配するのは、インド型が蔓延し、やがて主流になるのではないか、いやもっと厄介な変異株が生まれるかもしれないということだ。

インド型は、ウイルスのスパイクタンパク質に、「L452R」と「E484Q」という2つの変異が見られるのが特徴で、日本人の6割は免疫力が働きにくいとされる。マスクをしていても感染することがあるという。英国型と同じく、若者でも重症化しやすく、死亡率が高い。

おまけに、ワクチンの効果が半減するという報告もある。変異のリスクは感染拡大が長引くほど高まる。だからこそ、ワクチン接種はできるだけ早く進めなければならないのだ。

ところが、日本のワクチン接種は他の先進国に比べ、おそろしく遅れている。厚労省のまとめによると、5月6日時点の累計接種回数は約419万回。人数で言えば、高齢者が約24万人で、先に接種が始まった医療従事者を加えると約309万人である。1回目分の接種率は2%、2回目の完了率は0.8%に過ぎない。

それに比べ、米英は順調だ。2回の完了率は、イギリスが22%、アメリカは30.9
%だが、同じペースでいけば、両国ともこの夏か秋には「集団免疫」に達する見込みだという。

菅首相は就任以来、ワクチンに期待をかけてきた。それなのに、なぜこれほど遅れたのか。ファイザーやモデルナ、アストラゼネカといった、ワクチンメーカーからの調達に問題があったからだ。

昨年12月25日、菅首相は記者会見でこう述べた。

「これまでの取り組みによって、製薬企業3社から合計で2億9,000万回分、2回接種の場合は1億4,500万人分、この供給を受けることで合意はされています」

すでに英国ではワクチン接種がスタートしていた時期だ。「供給を受ける」と言い切らず、「供給の合意はされている」と回りくどくなったのは、確信が持てていないからだった。

ワクチン調達の責任者は、なぜか厚労省の災害担当審議官、大坪寛子氏であり、官邸側のコロナ担当は和泉洋人・首相補佐官である。

この二人の親密な関係は週刊誌でおなじみだ。つまり、和泉補佐官を通じて、ワクチン調達状況についてはつぶさに菅首相の耳に入ってくる。その内容が芳しくない。日本側の要求する数量と時期について、製薬会社からは「検討します」とか、「がんばってみます」とか、曖昧な“口約束”しか得られなかったのだろう。

危機感を抱いた菅首相は、得意の人事で手を打った。今年1月18日、河野太郎行革大臣を、新型コロナワクチン接種担当に任命したのである。厚労省、総務省といった所管官庁のほか、製薬会社、医師会、物流業者など、多くの関係者間を調整し、スムーズにワクチン接種を進めるという触れ込みだが、菅首相には、ワクチン調達の促進役としての期待感があったに違いない。

事実、河野大臣は得意の英語を駆使して製薬会社と交渉していたという。だが、あきらかに「運び屋」の領分をこえた仕事ぶりで、大坪氏ら厚労省サイドの反感を買ったらしい。

4月17日に菅首相が、ファイザー社CEOに、わざわざアメリカで、ワクチン追加供給の直談判をした後、フジテレビの番組に出演する河野大臣がこの件に関する田村厚労相の国会想定問答集の提供を依頼したが、大坪氏ら厚労省側に拒否されたという話も漏れ伝わっている。

菅首相は「1日100万回の接種を目標とし、7月末を念頭に、希望する全ての高齢者に2回の接種を終わらせる」と記者会見で語った。ワクチンが大量に入荷する5月中旬から本格スタートし、7月末までに、3,600万人といわれる高齢者に2回分のワクチンを接種できれば、東京五輪の開催にも格好がつくというわけだ。

そこから逆算すると、1日100万回を目指さねばならないということなのだろうが、注射を打つ医師や看護師が足りない現状からみて、容易な数字ではない。どうせ実現不可能な目標をぶちあげ、出来なかったときは「申し訳ない」で済ますつもりではないのか。そんな疑念も湧いてくる。

菅首相は4月19日、新型コロナウイルスのワクチンについて、接種対象となる国民全員分を9月までに供給するメドが立ったと強調した。だが、あくまで供給のメドであって、接種が進むかどうかはわからない。しかも、たとえ高齢者の接種が7月に完了するとしても、それ以外の対象者の接種がスタートするのは8月からになる。

下村博文自民党政調会長が言うように、全員が接種を終えるには来年春を待たねばならないかもしれない。その間に、インド型など、より厄介な変異ウイルスがはびこっていく恐れがある。

菅首相の新型コロナウイルス対策は、ことごとく見通しが甘い。経済との両立をめざすあまり、希望的観測が幅を利かせ、対策の逐次投入で後手にまわった。専門家の意見に耳を傾けない姿勢も目立っている。

新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は緊急事態宣言について、感染状況が「ステージ2」(感染漸増)相当にまで落ち着いた段階で解除することが望ましいと強調するが、菅首相は「ステージ4」(感染爆発)の脱却が解除基準になると言って譲らない。

尾身会長が5月7日の衆院厚労委員会で語ったところによると、緊急事態宣言に福岡、愛知両県とともに追加すべきだと、メンバーの多くが、ある県の名前をあげたが、却下された。おそらく医療がひっ迫している北海道のことだろう。

尾身会長は政府の却下説明をひとまず了承したものの、「多くのメンバーが追加した方がいいと言ったことは議事録に残してもらった」と言う。

政治家として、菅首相には「総合的判断」が求められることもあるだろう。しかし、玉虫色の政策では解決につながらない。ここは、医療の論理を優先するべきところではないか。コロナを抑え込むことが、経済の復活につながる。

反対意見はあろうが、補償をしっかりし、心底からの言葉で国民を説得するべきだ。もちろん、その役割と責任は菅首相にある。

image by: 首相官邸

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