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中国と“全面衝突”は不可避か。G7首脳宣言に「台湾明記」の大バクチ

新型コロナのパンデミック後に初めて行われるG7サミットは、世界を大きく変えるターニングポイントとなる可能性が高いようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、当サミットの首脳合意文書に「台湾」が明記される見通しが強まったとする情報を紹介。その上で、G7による台湾へのコミットメント強化宣言が世界に与えるさまざまな影響及び、その波をまともに受けることになる日本はどう振る舞うべきかについて考察しています。

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G7が仕掛ける「中国包囲網ギャンブル」の行方

対中包囲網の強化。
クワッド。
日豪での久々の2プラス2会合。
ASEANと中国の間で高まる軍事的な緊張…。

これらの問題が5月末あたりから一気に鮮明化してきていますが、ミャンマー問題やアフリカで広がる混乱、そしてまだ出口の見えないコロナとの闘いなど諸問題が世界を悩ませる中、国際情勢はやはり米欧と中国との間で激化するメンツのぶつかり合いに行方を左右されているように思われます。

その最中、英国が議長国となり、英国・コーンウォールでG7サミットが開催されます。

コロナウイルスの感染拡大(パンデミック)が外交的な動きも封じてきた中、久々にG7の首脳たちが顔を突き合わせて会合を行うという貴重な機会になります。

脱炭素への道筋、コロナとの戦いにおける国際協力、ミャンマー問題といったイシューが山積する中、今回の会合の目玉の一つが【台湾に対するG7を挙げたコミットメントの明記の可否】です。

今回、G7各国の複数の情報筋によると、高まる中国による強硬姿勢と軍事的な緊張に対する脅威を共有するということで、最もシンボリックだと考えられる【台湾の防衛・現状維持】が選択され、今回の首脳合意文書に、G7始まって以来初めて、台湾が明記されることになったとのことです。

シンボリックと申し上げたのには、大きく2つ理由があります。一つ目は、以前から何度かお話ししている【習近平国家主席が夢見る大中華帝国の復興のラスト・ミッシングピースとしての台湾の併合をG7が一体となって阻止する】という【中国との徹底的な対決姿勢】をサミットレベルで明記するということです。

中国(北京)の猛烈な反発は予想でき、この先、日米米欧陣営(自由主義陣営)と中国陣営(国家資本主義陣営)の間の緊張と対立は、以後容易には戻れないレベルにまで高まると思われます。

不謹慎な言い方かもしれませんが、これはある意味、日米欧(G7)諸国にとっての外交・安全保障上の大博打だと言えるでしょう。

今回のG7サミットでの宣言は、G7各国が望んだ“微妙な協調体制への復帰”を意味するものになりえますが、そのために台湾へのコミットメントの明記を選択することで、各国は様々なレベルで中国への“宣戦布告”ともとれる結果になるかもしれません。

それは同時に、これまでG7諸国が進めてきた経済・技術・資源面での中国への依存を脱却し、中国離れを急ぐと同時に、G7とその仲間たちでの経済的な統合と戦略的な物資供給体制の構築を急ぐ必要性を指します。

もし、その動きに乱れが見えたら、そして少しでも遅れるようなことがあれば、中国による貿易と戦略物資の供給をめぐる“嫌がらせ”によるG7とその仲間たちの引き離し工作の連続波状攻撃に晒されることになります。果たして各国、特に欧州各国(そして特にドイツ)はそれに耐えることが出来るでしょうか?

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日米首脳会談後に3割減少した台湾海峡上空への“領空侵犯”と威嚇行為

二つ目は、あまり強調されることはないのですが、G7各国の外交政策・戦略上の方針大転換です。

言い換えると、これまで中華人民共和国(北京)と国交を樹立し、代わりに台湾政府(中華民国)との国交を断ってきたはずの国々が、“公式な”外交関係がないはずの台湾を名指しでサポートし、中国(北京)に公然と挑戦状を突き付けるという動きになります。

私には非常に大きな動きに見えるのですが、実際には先週もお話ししたとおり、日米は少なくとも(そして欧州各国も)今後とも台湾と国交を回復するつもりはなく、北京との国交は残すことに変わりはないでしょう。もちろん、それは北京政府も“同意”すればの話ですが。

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では、G7サミットを控えて、北京はどのような反応を示しているのでしょうか?

もちろん黙っていることはなく、常にあの手この手で牽制球を投げつけてきていますが、その牽制球の投げる先には変化が見えてきています。

ターニングポイントになったのは、おそらく日米首脳会談直後だと思われます。日米両国が大きく踏み込み、台湾へのコミットメント強化を明言し、加えてアメリカ政府が、日本のインド太平洋地域での軍事的なコミットメント強化を“容認”する方向に出たことで、中国の戦略の転換が見られます。

その顕著な例が、緊張の舞台を台湾海峡から東南アジア・南シナ海へ移したということです。

実際に、日米首脳会談後、台湾海峡上空への“領空侵犯”と威嚇行為が、なんと3割減少したという傾向がみられています。

別に人工知能による解析ではないと思いますが、このまま台湾海峡という“狭いエリア”を舞台にした中国と米(プラス日本)の直接的な対峙が、今後、軍事的なテンションに急発展することを避ける戦略に出たようです。

その代わりに、5月末ごろから中国による軍事的な威嚇行為の舞台がASEANに移されたように思われます。

驚いたのは、比較的親中国というイメージが強いマレーシアに対する領空侵犯を強行したことです。表面的には、南シナ海での救難救護の訓練のための飛行という説明をしていますが、対中包囲網の各国の注意を、台湾海峡から南シナ海にスイッチしたのではないかと思われます。

それと並行して、今年3月から継続し、フィリピンとの間で紛争事案になってきた【数百隻レベルの中国船舶の長期停泊】については、中国側からの解決の意図が示されず、代わりに空からの威嚇を加えることで、ASEANへの力の行使と威嚇を鮮明化させ、強硬的に勢力の拡大を急ピッチで進めているようです。

このような強まる中国の威嚇に危機感を感じ、6月7日に開催された中国とASEANの外務大臣会合(目的は、南シナ海での紛争防止、ミャンマー情勢、そしてコロナ対応)の機会に、各国から王毅外相への直接的な抗議が行われたと聞いていますが、王毅外相がどのような反応を示し、ASEAN各国とどのような結論に至ったかはなかなか聞こえてきません。

ただ、中国がASEAN各国に対して謝罪を行ったり、態度を軟化させたりするというケースは考えづらく、逆に各国からの“抗議”を機に、多方面からの締め付けを強めたのではないかと思います。

例えば、これまで継続し、経済的に支配を進める一帯一路政策を通じた締め付け(特に累積債務関連)に加えて、昨年来、拡大している新型コロナウイルス感染症に絡んだ戦略物資と医療物資を用いた社会・衛生政策の支配がそれにあたります。

コロナのパンデミック当時は、マスクと医療物資の優先的な供与(しかし、無償で提供は限定数で、それ以上のサプライについては有償での供与として、ここでまた政策的・財政的な締め付けを強化)を通じた支援で対中依存の基盤を固め、今はワクチンの供与を餌に各国への揺さぶりをかけています。

つまり経済・社会的な側面での対中依存度を高めることで、真っ向から中国に対抗できなくしてしまい、その隙に、中国が狙うOne Asia戦略の実行のための軍事的な威嚇行為と一方的な占領によって安全保障上の脅威を鮮明化して、中国に逆らえない素地を確立してしまっているようです。

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台湾海峡を舞台にした軍事的な全面衝突の可能性も

これから英国で開催されるG7サミット国とその仲間たちは、その拡大する中国による脅威に対抗すべく結束を固める方針のようですが、このギャンブルともいえるハンドリングは、インド太平洋地域および東アジアにおける米中両陣営による覇権争いの激化を招いているように思います。

特に習近平国家主席がこだわる【台湾へのコミットメントの明記】は中国政府のレッドラインを超え、おそらく米中間の対立構造をG7各国にも広げるPoint of No Return(引き返せないポイント)となるのではないかと恐れています。

中国政府の拡大路線(軍事・経済・情報など)は、経済指標で示されている【コロナ禍からの回復】では示すことが出来ていない、中国覇権主義の自転車操業的な拡大がもたらす様々な綻びを、近いうちに表面化させることになるかもしれません。

もしそうなったら、中国政府を追い込み、結果として暴発を招き、台湾海峡を舞台にした軍事的な全面衝突の火ぶたが切って落とされる可能性が高まるでしょう。

その際、これから表明しようとしているG7の対中結束、QUADの拡大と強化、そして経済的な中国離れにおける陣営の結束をどこまで保つことが出来るのか?

または、中国が仕掛ける揺さぶりに屈するようなことになるのか?

その際のカギを握るのは、ASEAN諸国の態度かもしれません。ミャンマー情勢への対応を見てもわかるように、非常に実利主義の傾向が強く、これまでの歴史的な問題への反動と教訓から、自分たちの利益になることを最優先に、ケースバイケースでの対応を選択しがちですので、結局、どちらの味方かわからないという状態になるかもしれません。

または、最近強まる中国からの軍事的な威嚇に業を煮やして、本格的に中国との距離を置き、対中包囲網への何らかの参加もオプションに入ってくるかもしれません。この場合、これまであまりアテにならなかった日米欧からの経済的なコミットメントが得られることがとても重要になりますが…。

そして、ASEANとは違った意味で、結束の強度を試しそうなのが、韓国の存在と揺さぶりです。

今回のG7サミットにはゲストとして招待されていますが、シェルパ会議および準備会合時点から、日本への批判を持ち込んだり、空約束をしてみたりして、議長国英国を激怒させたという情報もあります。また、米韓首脳会談を“成功”と発表していますが、アメリカ政府側の認識は異なるようです。

先週号でも触れましたが、G7各国と豪州などの対韓国共通認識は、【すでに韓国政府は中国に首根っこをつかまれ、Red Team入りしており、too muchな韓国のG7サイドへの接近は、ただの中国のエージェントにすぎない】との内容があります。

ゆえに、先週号でも申し上げましたが、今後、対中包囲網を強化する際に、QUADなどには韓国を入れてはいけないというのが共通認識になりつつあると聞いています。そのような状況下で、今回のサミットにおいて、どのようなふるまいを見せるのか非常に注目しています。

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G7「台湾へのコミットメント強化宣言」の影響を最前線で受ける日本

では、日本政府はどのように振舞っていくのでしょうか?

日米首脳会談の結果を受けて、すでにアメリカと一蓮托生の外交・安全保障政策を選び、中国との友好をあきらめる方向に行くのか?

それとも、困ったときの近い強国という別の外交方針を受けて、より中国との距離感を狭めるような戦略を取りに行き、代わりにアメリカの外交方針との距離を少し広げるような方向に進めるのか?

それとも、これまでのように、米中双方とうまくのらりくらりと付き合うような奇跡的な外交姿勢を貫く秘策を見つけ出すことが出来るのか?

どのような結論を出すにしても、今回、出されようとしている【G7による台湾へのコミットメント強化宣言】とそれが与える中国への印象の影響を、一番もろに受けるのは、誰でもない、日本であることは明確だと考えます。

いろいろとご意見あるかと思いますが、皆さんはどうお考えになりますか?

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島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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