MAG2 NEWS MENU

武田教授が痛感。“大失敗”ゆとり教育の犠牲となった若者の思考停止

「生きる力を育む教育」として鳴り物入りで導入されるも、国際学力テストの順位低下が報じられるや国民の間で批判が高まり、追われるように廃止された「ゆとり教育」。理念自体は崇高と言っても過言ではないゆとり教育は、なぜこのような末路を辿る結果となったのでしょうか。今回のメルマガ『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』では中部大学教授の武田邦彦さんが、ゆとり教育が失敗に終わった理由を検証するとともに、教育の現場で自身が痛感したある事実を記しています。

武田教授のメルマガご登録・詳細はコチラ

 

失敗に終わったゆとり教育が生んだのは〇〇できない日本

1990年に「ゆとりの教育」という話が持ち上がり、政界、学会、産業界はもとより、芸能人に至るまで「全員賛成」で初等教育の大改革が実施された。その時のうたい文句は「今までは生産の拡大だけが日本に必要だったが、これからは頭で考える人材でなければ国際競争には勝てない」ということであり、それを「全員」で賛成した。これも「日本的」である。

「考えさせる教育」だから、それまでの「詰め込み教育」よりも教えるのに時間がかかり、一時的には成績が下がったように見えるのは覚悟の上だ。それに学校の先生が慣れていない。日本は文科省が威張っていて「学習指導要綱」というのを作り、先生は教科書とこの要綱にそって教えるだけだから、まず先生の「ゆとりの教育」が必要だったが、それを省いたので、何を教育すればよいのか先生が自ら考える力がない。

日本中が賛成したので、ゆとりの教育がスタートしたが、もちろん、失敗した。準備なし、能力なしでのスタートだから当然のことだった。でも、それなりに成果を上げ始めたころに「国際テストの結果」がテレビで報道され、「ゆとりの教育の結果、日本の子供は世界のトップクラスから中堅に落下した」とされた。

ビックリした国民は「ゆとりの教育が悪い。あれを止めてしまえ!」という大合唱となった。特に話題となったのは、円周率(π)を従来の3.14という数値から3として教えるということだった。「3.14という数値ぐらい覚えないで勉強と言えるのか?」「むしろ3.141592ぐらい覚えさせても」という声が起こった。

でも、それは大変な誤解だ。

円周率を計算する式は、L=πD(Dは円の直径)で例えば1メートルの直径の場合、円周は3.14メートルというわけだ。だから、日本の子供は、

  1. 3.14を覚え、
  2. L=πDの公式を覚え、
  3. 直径Dを与えられると、円周率と式を思い出して掛け算をして求める、

という順序を踏む。

ところが、この計算の本質はそんなことではなく、「直径がわかればその3倍が円周」というのである。つまり、例えば陸上競技で400メートルのトラックを作ろうとしたら、400メートルを暗算で3で割り「およそ長さが120メートルぐらいの土地があればできるのだな」ということがわかることだ。

つまり、人に使用される場合は言われたことにそって計算すればよいが、自分で仕事をするときには概算で検討をつけることが大切になる。だから3.14と3では「質が違う」のである。

せっかくゆとりの教育で「自分で考えられる人」を作ろうとしているのに、召使の勉強から離れたくないというのであるから実に馬鹿らしい。これでは日本は自立できないのだ。

この問題は実は極めて深く、深刻な課題を示している。

武田教授のメルマガご登録・詳細はコチラ

 

戦後の教育は計画通りじゃない?実際に見た教育現場の現実

戦争が終わり、日本で新しい教育をどうするかについて政府は優れた(本当に)教育学者に戦後教育の骨格作りを依頼した。実に立派な人たちだったので、新しい教育の概要や具体的な項目をまとめた本は素晴らしかった。しかし、問題は新しい教育をする「教師」をどうするかという問題があった。

本の中に「計画は立ったけれど、この計画を進める力を持った教師がいない」と認識され、「教師は戦前の教育を受けている。その教師が全く概念の違う教育はできない。しかし、教師は全員が戦前の人だ。この矛盾は解決できないので、この計画は基本的には失敗する」と書いてあった。とても正直でよい表現だが、実際には進駐軍と共産党の影響で、計画とはかけ離れた教育が実施された。

この戦後の教育の論理的失敗をゆとりの教育ではどのように考えられたか。日本の教育界はこんな高度なことを咀嚼できる体制ではなかった。

本当は、

  1. 戦後の教育は計画通りはできなかった、
  2. GHQと共産党の思想で教育が行われた、
  3. 学習指導要綱の存在で教師自身が考える力を失っていた、
  4. 文科省の役人が自分の功績にしようとした、

などが原因して失敗したが、そんなことはメディアが伝える愚劣なニュースに入らず、将来の日本を考えた教育をどうしようかということも考えられず、単に「国際テストの順位が下がった」ということだけに集中してしまったのだった。

かくして「思考停止の若者」ができたが、教育現場にいた私はそれを痛感した。(メルマガ『武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」』より一部抜粋)

武田教授のメルマガご登録・詳細はコチラ

 

初月無料購読ですぐ読める! 6月配信済みバックナンバー

※2021年6月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、6月分のメルマガがすべてすぐに届きます。

2021年6月配信分
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(5) 政府と業界の騙しかた、加担するマスコミ~(5/19)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(4) 環境問題を題材に・・・プラスチックをなぜやめる?~(5/12)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(3) 環境問題を題材に・・・リサイクルは何のため?~(5/5)

いますぐ初月無料購読!

こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー

※ 初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。
2021年5月配信分
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~日本人は何回でも騙せる?(1) なぜ、日本人は騙されるのか?~(5/26)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(5) 政府と業界の騙しかた、加担するマスコミ~(5/19)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(4) 環境問題を題材に・・・プラスチックをなぜやめる?~(5/12)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(3) 環境問題を題材に・・・リサイクルは何のため?~(5/5)

2021年5月のバックナンバーを購入する

2021年4月配信分
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(2) 少しずつ話ができる環境を作る~(4/28)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~よく考えよう(1) 奇妙な今の日本、考えられる人はいない~(4/21)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~日本人は引き返せるか?(その6) 女性は幸福になるか?~(4/14)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~日本人は引き返せるか?(その5) 文化人のヨーロッパ信仰の原因~(4/7)

2021年4月のバックナンバーを購入する

 2021年3月配信分
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~日本人は引き返せるか?(その4) 「恩」と「誠」のある社会を保てるか?~(3/31)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~日本人は引き返せるか?(その3) お金を目的としない人生を取り戻せるか?~(3/24)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~日本人は引き返せるか?(その2) 笑いの絶えない家庭を取り戻せるか?~(3/17)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~日本人は引き返せるか?(その1) 本当は素晴らしい日本~(3/10)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~不条理世界に生き残る(6) 世界的不条理に負けるな!~(3/3)

2021年3月のバックナンバーを購入する

 2021年2月配信分
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~不条理世界に生き残る(5) 差別とレッテル~(2/24)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~不条理世界に生き残る(4) 日本文化と憲法の「国民の不断の努力」~(2/17)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~不条理世界に生き残る(3)人は「良いこと」も「悪いこと」も同時にできる?~(2/10)
  • 武田邦彦メールマガジン『テレビが伝えない真実』~不条理世界に生き残る(2) 不条理の癖がついたマスコミ~(2/3)

2021年2月のバックナンバーを購入する

image by: Shutterstock.com

武田邦彦この著者の記事一覧

中部大学教授の武田邦彦です。主に環境問題や資源に関して研究を行っております。 私のメルマガでは、テレビや雑誌新聞、ブログでは語ることが出来なかった原発やエネルギー問題に鋭く切り込みます。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 武田邦彦メールマガジン「テレビが伝えない真実」 』

【著者】 武田邦彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 水曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け