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「コロナ禍」は「コロナ“暇”」だ。池田教授が実感した老化の加速

高齢者にとっては、新型コロナに感染し重症化したり後遺症に苦しむのはできる限り避けたい事態。しかし、感染を避けるため外出を控え人と会わなくなることで、健康寿命が短くなってしまうことにも注意が必要なようです。ここのところ心身の衰えを実感していると語るのは、メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』著者でCX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田教授。友人である養老孟司教授の入院も暇になったせいだろうと推測し、「コロナ禍」ならぬ「コロナ“暇”」の中でも楽しみを見つけていくことの大切さを綴っています。

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コロナ禍は老化を加速する

コロナ禍で自宅に蟄居している間に、ずいぶん歳をとったような気がする。最初のうちは暇で、溜まりに溜まった昆虫の未整理標本を整理するのに絶好の機会だ、くらいに思っていた。しかし、数か月もの間、毎日虫の標本を作っていると、さすがに飽きる。気晴らしに外出したくても、採集旅行を計画していた沖縄にも台湾にも行けなくなり、近郊の採集地に行こうにも、他府県のナンバーが付いている車には石が飛んでくるよ、などと脅かされて、自宅で、うじうじしている間に、心身ともに老け込んできた。

対面の講演はほぼ中止になって、時々、テレビ出演、リモートの講演やトークショーに出る以外は、対外的な仕事はめっきり減った。仕事が無茶苦茶忙しい時は、もう少しゆっくりしないと体を壊すわ、と思っていたが、いざ暇を持て余すようになると、暇な方が体の衰えが早いということがよく分かった。

恐らく私よりはるかに忙しい養老さんは、2020年の3月に箱根の「バカの壁ハウス」に女房と共に伺った時はまだ元気だったが、4月に入ってコロナ禍が酷くなり、養老さんにCOVID-19を感染させては大変だと思った、友人や編集者などが全く来なくなり、ほとんど他人と会わなくなってから、徐々に体の具合が悪くなったようで、『どこも痛いということもないんだけど、どうにもやる気が出ない。これはどこか悪いんじゃないか』と東大病院で検査したところ、無痛性の心筋梗塞と診断され、即、集中治療室に入院となった。今は元気になられたようで何よりだが、急に暇になったので、病気になったのではなかろうかと、私は思っている。

3密を避けないで、COVID-19になって亡くなったり、重症化して後遺症が残ったりするリスクと、人に会わないで鬱になったり、フレイル(要介護予備軍)になったり、ロコモになったりするリスクは、本当の所どちらが大きいのだろう。短期的に死亡する確率は、もちろん前者の方が高いとは思うけれど、QOLを維持できずに健康寿命を縮める確率は後者の方がずっと高いと思う。

私はほとんどテレビを見ないので、自宅にいるときは、昆虫の標本を整理する、本を読む、原稿を書く、ネットで面白そうな話を探す、野菜や植物の世話をする、以外のことはしない。あっ、そうだ。午後5時になると酒を飲みだす、というのが一番重要なイベントだな。それ以降は寝るまで、ちびちびと酒を飲んでいる。

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最初に飲むのは芋焼酎のお湯割りで、専ら「薩摩白波」という紙パックの、1800ml、1500円くらいの安酒を飲んでいる。芋焼酎の中では、私はこれが一番気に入っている。例えば、「森伊蔵」というプレミアム芋焼酎は、確かに洗練されていて飲みやすいけれど、芋臭さが全くなく、物足りない。そうかといって、一昔前の芋焼酎のようにあまりにも芋臭くて、「えぐみ」が残るようなものも、ちょっと飲み辛い。「薩摩白波」はその辺りのバランスが丁度よい。

焼酎を飲んでから、風呂に入る。最近は暖かくなってきたので、シャワーで済ますことが多い。もう少ししてヒグラシが鳴く頃になれば、窓を開けて山を眺めて、ヒグラシの声を聴きながら湯船につかると、極楽気分が味わえる。

風呂から出ると、毎回必ず風呂を洗う。これは私の仕事である。洗剤で湯船や床や壁を洗った後、シャワーで洗剤を流し、水滴をふき取る。手入れを怠ると、暫くすると天井にカビが生える。この段階で対処しないとカビが根を張って、こうなるともはや手遅れである。毎日風呂を洗って乾かしておけば、10年経ってもほぼピカピカのままだ。老人は新しいことに挑戦するのは苦手でも、同じことをするのはさほど苦にならないのだ。

風呂が済むと夕食である。夕食は女房が作る。私は、後片付けをするくらいで夕食は作れない。通常の夕食では日本酒を飲むことが多い。最近飲んでいるのは、山梨県白州の蔵元、七賢の純米酒「風凛美山」である。1800ml、2200円の安酒だが、これが結構すっきりしていて、後口も悪くない。それにしても、「風凛美山」という命名はいかにも山梨県である。風林火山の語呂合わせだが、山梨県人は語呂合わせが好きなのだ。

山梨大学に勤めていた頃、甲府駅の北口に「弁当弁」という弁当屋が開店したことがあった。「ほかほか弁当」という弁当屋が大流行りしていた頃で、店主は素晴らしい命名だと思っていたのだと思う。知り合いの音楽専攻の女子学生が、ベートーベンを馬鹿にするのか、とカンカンに怒って、呪いをかけて潰してやると息巻いていた。

音楽より、食いものの方が大事だろ、と思っていた私は、まあそんなに腹を立てなくともよいではないか、と思ったが、この子の剣幕が並ではなかったので、口に出しては言わなかった。呪いが効いたのか、この弁当屋さんは暫くして本当につぶれてしまった。余り、キッチュな名前は付けない方がいいということだね。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋)

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image by: Shutterstock.com

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