単なるキャラクタープリント等ではなく、コンセプトや価値観といった根幹部分で、これまで「漫画」と向き合ったことがなかったファッション業界。しかし昨今、『鬼滅の刃』をはじめとする日本漫画は、世界を席巻していると言っても過言ではありません。そんな今こそファッション業界は漫画との「連携」を探るべしとするのは、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは自身のメルマガ『j-fashion journal』で今回、その具体的な方法を考察するとともに、世界市場に進出する可能性を模索しています。
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漫画をコンセプトにするブランドは?
1.日本漫画の世界観
漫画は日本が誇るべき文化である。特に、現実世界とは異なる独自の世界観を持っている作品が多いのも特徴の一つである。
海外の漫画は過去か現在か未来かという違いはあるが、キリスト教的な神と悪魔の対立のような二元論がベースにあり、善と悪の戦いが主題になっている。そして、悪をやっつけるヒーローが存在するものが多い。
それに対し、日本の漫画では、現実には存在しない独自の歴史と地理と宗教的価値観を持った世界が登場し、その世界の中で様々なストーリーが展開されるのだ。
もちろん、現実離れした設定だけでなく、身近な設定もある。しかし、身近な設定の中に非現実的な要素も潜んでいる。日本の漫画はストーリーを追うだけでなく、世界観に浸るという楽しみ方があるのだ。
いずれにしても、人気漫画には読者を魅了する要素がある。それは、読者の価値観に呼応している。
2.ファッションブランドの世界観
ファッションも時代の気分を映す鏡である。ブランドは世界観であり、シーズンテーマはストーリーである。
ファッションの世界観はファッションショーであれば、アパレルだけでなく舞台装置、照明、音楽、モデル、ヘア&メイク等で表現される。ショップであれば、やはり商品だけでなく、ショップデザイン、床、天井、照明、什器、VMD、販売員等で世界観を演出する。
ファッションの世界観は漫画ほど具体的ではない。非現実的な商品は現実世界では売れないからだ。その意味では、ファッションよりも漫画の方が過激だ。逆に言えば、漫画が持つ過激な世界観の中に、新たなファッションの可能性があるのではないか。
コスプレは、漫画やアニメの世界をファッションとして楽しむものだ。そして、漫画の主人公として人々の注目を浴びている。
コスプレとファッションとは何が違うのか。コスプレの要素をファッションに取り組むことはできないのだろうか。
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3.例えば『鬼滅の刃』をファッションに
例えば、『鬼滅の刃』を事例に考えてみよう。大正時代が舞台であり、大正ロマン、大正モダンという背景の中で、和洋折衷、人と鬼などが共存する不思議なバランスを持つ世界観となっている。
鬼のイメージには疫病のイメージがダブっているようだ。そして、鬼を退治する超能力を持った少年や少女たち。
こうした世界観や価値観をファッションに生かせないだろうか。といっても、鬼滅の刃のキャラクターをTシャツにプリントしたり、グリーンと黒の市松模様を使うという安易な方法ではない。あくまで、コンセプトや世界観を共有できないだろうか、という話である。
大正時代のグラフィックデザインは、アールヌーボーやアールデコの影響を強く受けている。服の形はともかく、大正モダンのアールヌーボーやアールデコのプリント生地を基本に考えてみる。
また、和洋折衷もキーワードだ。例えば、市松格子や青海波、麻の葉模様といった伝統柄をベースにリバティの花柄を重ねてみるのはどうか。
また、甘く装飾的なイメージの中に、鬼のイメージを重ねてみるのも面白いだろう。
デザインもきもののイメージを生かす。例えば、ラップドレスやラップスカート。ディティールはリボンや紐結び。
こうした条件のもとに、現代でも着られる服をデザインしてみる。
「何となく鬼滅の匂いがするね」という程度に感じてもらえれば良いのだ。
4.漫画とファッションの連携
世界観やコンセプトだけを取り入れるならば、直接的なライセンス契約は必要ない。むしろ、「デザイナーが漫画のファンで漫画の世界観を生かしたコレクションを作った」といえば、顧客にも伝わるし、漫画家や出版社も嫌な顔はしないだろう。
それでも、もし、漫画家とデザイナーが連携できれば様々な可能性が生れる。
例えば、漫画家とコラボして限定商品をプロデュースする。あるいは、漫画の中に着せる服をデザイナーがデザインする。あるいは、デザイナーのショップで漫画の原画展を行うなど。分野の異なるクリエイターが連携することで様々な可能性が生れるのである。
ビジネスの広がりも期待できるが、何よりも楽しいではないか。
漫画をコンセプトにすることで、世界市場に進出することもできるかもしれない。ファッションだけで世界に進出することは大変だが、もし、漫画と一緒に進出するのならば、その可能性も大きくなるだろう。
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編集後記「締めの都々逸」
「漫画の世界に 入っていけば 二次元彼女と 出会うかも」
漫画とファッション。相性が良いように見えて、全く交流がない世界です。どちらもそれなりのスケールを持つ産業であり、どちらも日本独自の世界観を持っています。
ファッションが欧米コンプレックスを脱し、日本のコンテンツと向き合う時、漫画との連携が起きるかもしれません。あと、何年先の話かは分かりませんけど。(坂口昌章)
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