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首都高以外が大渋滞に。変動料金制度「ロードプライシング」は天下の愚策か

東京五輪開催中の現在、首都高速で実施されている変動料金制度「ロードプライシング」。その煽りを受け周辺の一般道が深刻な大渋滞に見舞われましたが、国交省は当制度の本格的導入の検討を開始しました。その裏には「思惑」めいたものが存在しているのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、この夏のロードプライシング実施に至るまでの過程を朝日新聞の記事を引く形で紹介。その上で、国交省が何を画策しているのかについて推測しています。

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五輪開催に伴う交通規制の一環として急激にクローズアップされた「ロードプライシング」を新聞各紙はどう報じてきたか?

きょうは《朝日》から。

「ロードプライシング」についての記事に注目。

五輪開催に伴う交通規制の一環として急激にクローズアップされた言葉ですが、元々「五輪」とは関係なく、将来の無料開放を含めた高速道路行政のキー概念の1つ。

《朝日》のデータベースを調べると、サイト内は35件、1年以内の紙面掲載記事では6件にヒット。

【フォーカス・イン】

まずは今朝の《朝日》1面の記事。見出しと【セブンNEWS】第2項目の再掲から。

高速道「変動料金」
国交省が導入検討

国交省は、高速道路料金を混雑時に値上げする変動料金制度「ロードプライシング」を本格的に検討する。利用者を分散して渋滞を減らすためで、繁忙期に休日割引の適用をやめるなど、今の仕組みを見直す。法律で定める2065年までの無料開放は延期する方針。

以下、記事概要の補足。有識者らの会議に国交省が提示した中間答申案の中に、ロードプライシングが盛り込まれたもの。現在は、開催中の東京五輪とパラリンピックの期間だけ、首都高限定で実施されていて、期間中、日中から夜間は乗用車の料金が1千円上乗せされ、深夜から未明に掛けては逆に半額に値引かれている。

導入が検討されるのは、大都市圏の渋滞区間。時間帯や曜日を区切って導入する。

また、大型連休やお盆などに行われている休日割引の適用をやめる。

答申案では、法律に定めのある2065年までに高速道路を無料開放することについて、延期する方針も示した。国交省は具体的な無料開放の時期を法律からはずそうとしており、それでも「将来的に無料開放する原則は維持している」と言い張っている。

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【サーチ&リサーチ】

* 2017年の記事に登場する「ロードプライシング」は、「環境ロードプライシング」と呼ばれるもの。神戸と大阪を結ぶ国道43号線の制限時速が40キロになっているのは、「国道43号線訴訟」が起こったほど、公害問題が著しかったからで、その他、横断する歩行者が多いことなどもあって、スピードが通例以上に制限されている。加えて、大型車を迂回させるために阪神高速湾岸線の通行料を値引きしていて、これが「環境ロードプライシング」と呼ばれるもの。

* 東京五輪・パラリンピック大会組織委と東京都が「首都高速道路の料金を時間帯によって変動させるロードプライシング(道路課金)制度の導入を、大会期間中の交通渋滞対策として検討していることを明らかにした」のは、2019年2月のこと。このときはまだ2020年開催が前提(2019年2月6日付)。

* 当初想定されていた値上げ幅は大きかった。「競技が行われる時間帯は、300~1,300円の通常料金(ETC利用の普通車)に500~3,000円を上乗せする案」(2019年2月7日付)。

* 東京五輪の交通対策の最難関は「首都高」。交通量を休日並みにする目標を立て、モデルはシンガポールだった。「ロードプライシングはシンガポールで1998年に導入され、都心部の交通量が15%減少したとの実績がある」(2019年2月7日付)。

* 今回実施された変動料金案が浮上したのは6月。「ロードプライシングは開会式2日前の20年7月22日から閉会式のある8月9日までを想定。昼間の値上げは、都心環状線とその内側を走るマイカー(全体通行量の48%にあたる49万台)を対象とし、物流トラックや福祉車両は除く。平日1日あたり2億1,000万円の増収を見込む一方、料金システムの改修や事故対策などに1億7,000万円を要し、夜間割引で4,000万円の減収を見込む」(2019年6月8日付)。

* その他、五輪期間中の交通規制については、「関係者用レーンの設置」(2010年1月10日公表)が提案された。さらに、議論されたとされているのは、「高速道路のETC専用化」(2020年7月)。

* そして2021年7月19日から「ロードプライシング」実施。影響は、「値上げされた首都高を避けた車が一般道に集中」、「首都高が値上げした結果、環七と国道20号、国道246号が一般道とは思えないレベルで渋滞」、といった形で出た。悪影響は、郵便や荷物の配達にも及んだ模様。

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●uttiiの眼

首都高限定の「ロードプライシング」は、東京五輪が無観客になって、移動する車両が大幅に減ったはずなのに、各地の一般道で深刻な渋滞を引き起こした。おそらく想定外だったのではないかと思われるが、外環など、一般の高速道路でも「首都高ロードプライシング」による渋滞が起きていたようだ。

勿論、どんな良いシステムでも、人々が慣れるまでに時間が掛かるという面は確かにあるだろうが、都心部を首都高の高い壁で覆うような今回のあり方には問題があるのではないだろうか。

既にETC装着率は9割以上で、首都高をETC専用にしてもあまり影響はないように思われるかもしれないが、わざわざ選択肢をなくしてしまうのは、何か“野心”があるからと言われても仕方がないだろう。“野心”にも色々あるが、「首都高ロードプライシング」の料金設定次第で、首都高の交通量を「必要」に応じてコントロールすることが可能になるかもしれない。警察や治安当局にとっては間違いなく「利益」があるだろう。

国交省は、高速道路の無料化という法的な義務を回避しようと画策していて、期限を削除しようとしているようだ。「ロードプライシング」は「無料化回避」の有効な手段と見做されている。

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image by: Hirohito Takada / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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