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“ハマのドン”暴露で露呈した菅首相の求心力低下。横浜市長選「候補乱立」ウラ事情

8月22日に投開票が行われる横浜市長選挙。自らの地盤での選挙を絶対に落とせない一戦と位置づける菅首相は、国家公安委員長の職をなげうち名乗りを上げた小此木八郎氏を推し必勝を期しますが、事は思うように進むのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、菅首相の計算違いと求心力の低下により、「思わしくない結果」に終わる可能性を示唆。そのような事態となった場合、自民党内で「菅降ろし」の動きが本格化するのは間違いないと記しています。

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菅首相の弱体化が招いた横浜市長選の候補者乱立

広島の平和記念式典で、核兵器のない世界の実現に言及する肝心な1ページ分を読み飛ばし、最後まで辻褄が合わないことに気づかなかった菅首相。意味も分からず原稿を読んでいたことがバレて、世界に恥をさらしてしまった。

役人に作文をさせるのは仕方がないとして、それをまともに読めないのは困ったものだ。言質をとられないようにするあまり、官房長官時代の記者会見や国会答弁で、断片的な官僚メモに頼りすぎたツケがまわっているのではないか。被爆国日本の首相として大切な式典である。ふつうなら、官僚の草稿に手を加えるなりして、事前に何度も読み返すものだろう。

さて、東京オリンピックは閉幕したが、菅首相がもくろんでいたように、メダル獲得に沸く世間のムードが政権の評判を好転させた、とはいいがたい。むしろこの間、デルタ株の猛威で新型コロナ感染は急拡大し、打つ手を見失ったかに見える政権への風当たりは強くなる一方だ。

こんな調子では、菅首相と二階幹事長が描いていた総裁再選シナリオは実現できそうもない。すなわち、菅首相による衆議院解散・総選挙で及第点といえる戦果を挙げ、国民の信任を得たとして総裁再選に持ち込む目論見は、いまにも崩れそうである。

こういう状況のなか、8月22日の投開票をめざして真夏の陣が繰り広げられているのが横浜市長選だ。菅首相にとって、単なる地方選と片づけられない戦いである。

全面支援を菅首相が明言している前国家公安委員長、小此木八郎候補が敗れるようなことがあると、菅首相では選挙を戦えないとして、「菅降ろし」の機運が党内で一気に高まるだろう。なにしろ、横浜市といえば、菅首相の選挙地盤であり、金城湯池とされているのだ。

ところが、小此木氏が必ずしも勝てるとは限らない風向きになっている。菅首相の第一の計算違いは、四選をめざす林文子氏の出馬だ。おかげで、自民党市連が分裂して戦うことになった。

林氏は市長として菅氏の牙城をしっかり守ってきた。財政難に陥っている市政を立て直すため、カジノを含むIR(統合型リゾート)の実現を推進しようとしているのも、菅氏の意向を受けたものだった。

しかし今回、菅首相は林氏の出馬を望まなかった。多選批判がどうだとか、年齢がどうだとかは関係ない。菅首相がIRを実現したいのなら、林市長のままでいいはずだ。どんな事情があったのか。

内幕の一端を、「ハマのドン」こと、藤木幸夫氏が外国特派員協会の記者会見で暴露した。

藤木氏は2年前から「ミナトにバクチ場はつくらせない」とIRに猛反対し、山下ふ頭の独自の開発案をひっさげて「横浜港ハーバーリゾート協会」を設立、IR推進派の自民党市議らに「落選運動をやるぞ」と脅しをかけ続けてきた。

港湾荷役業「藤木企業」の会長として、ミナトの発展にかかわってきた藤木氏は、横浜エフエム放送や横浜スタジアムの会長でもあり、繁華街、観光地、ビジネス街をかかえる中区と西区での影響力が強い。

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藤木氏の奇怪な話は、次のようにはじまった。

「江田も友達でね。江田に任したの。林以外なら誰でもいい。林はロボットだ。操り人形だから。菅の言う通り動いてるだけだから」

立憲民主党の衆院議員、江田憲司氏に、候補者を立てるよう要請したのだという。菅首相の言うなりになってIRを推進する林市長の四選を阻止するため、まずは野党に働きかけたのだ。

「そのあと八郎がね、ああいうこと言い出したんですよ」

まぎれもなきIR推進派の小此木八郎氏が国家公安委員長と国会議員の地位をなげうって横浜市長選に出馬すると表明。当選したら「IRの誘致を取りやめる」と発言したことをさす。

小此木氏の八郎という名の名付け親は、父、彦三郎氏と親交のあった藤木氏である。いまでも、「八郎は俺の言うことなら聞く」と藤木氏が豪語するほどの仲だ。

菅首相に対しても、彦三郎氏の秘書だったころから目をかけてきたという自負が藤木氏にはある。

その小此木氏と菅首相に対し、藤木氏がこれみよがしにとったのが、立憲民主党と「IR反対」で手を組むポーズだった。

この話はすぐに小此木氏に伝わった。藤木氏自身が小此木氏に知らせた可能性もある。言うまでもなく、菅、小此木両氏にプレッシャーをかけるためだ。

IRには市民の大多数が反対、という世論調査の結果が出ている。その声を背景に、自民党員であるはずの「ハマのドン」が、なぜか野党陣営に自民党との喧嘩をけしかけている。

小此木氏はこう考えたに違いない。ただでさえIR推進で批判を浴びてきている林市長が出馬して勝てるだろうか。前回選挙では、IR誘致の白紙化を公約に掲げて林氏は当選し、その後公約を破ったが、同じ手はもはや使えない。ただし、別の人間が出るのなら、どうか。

導き出した結論は、自らの出馬だ。日本の市区町村トップ、378万人もの人口を誇る政令指定都市、横浜。その市長ともなれば、衆議院議員から転身するだけの値打ちがある。

「IR誘致とりやめ」を打ち出して小此木氏が名乗りを上げ、IR反対の票を吸い取ろうとする野党陣営の力を削ぐ。このアイデアを菅首相は受け入れた。長引くコロナ禍にあって、IR誘致は当面の課題ではない。まずは、横浜を死守することが大事、と菅首相は割り切ったのだろう。

かくして、小此木氏は出馬表明をした。林市長は四選出馬を断念し、藤木氏の気分も変わるだろうと、菅氏サイドはにらんでいたはずだ。

ところが意外なことに、林氏は立候補に踏み切った。IR推進派の自民党市議や地元経済界の一部に強く推されたらしい。なんだかんだ言っても、林氏には現職の強みがある。しかも、8人の立候補者のうち6人が「IR反対」であり、林氏は「IR賛成」の票をごっそり集める可能性があるのだ。

ただし、誰も予想できなかったのは、元長野県知事の田中康夫氏、前神奈川県知事の松沢成文氏ら有力候補者が次々と名乗りをあげたことだ。巷では、票が割れて誰も法定得票数に届かず、再選挙になる可能性も取り沙汰されている。

さて、藤木氏から要請を受けた江田憲司氏は元横浜市立大学教授の山中竹春氏に白羽の矢を立て、山中氏を連れて藤木氏のもとを訪れた。藤木氏はこう述懐する。

「この間、江田が急に山中さん連れてきて、こいつどうですか。あんたは目が鋭すぎると、それだけ言いました。江田が責任もって進めているんだから」

これだけ聞くと、藤木氏は山中氏を支援する気持ちを固めたかのようである。しかし、続けてこうも言った。

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「聞いてみるといい人だ、山中さんは。だけど当選するのは八郎でしょ。八郎が当選しなきゃしょうがないでしょ。八郎の母親からも毎日のように手紙が来るし、ミナトの連中もどうするんだと。横浜市は横浜の人が行方を決めましょう。私も91歳ですよ」

たまらず記者が「藤木さんは山中氏支持なのか、それとも小此木氏でもいいのか」と聞くと、こう答えた。

「小此木は考えをすぐ変えさせますから。カジノは横浜港以外なら、どこででもやっていい。国はやることに決めてるんだから」

どうやら、風向きが幾分、変わってきたらしい。菅、小此木両氏の対応に、藤木氏はまんざらでもなさそうなのである。

それにしても、与野党ともに土地の有力者の意向で右往左往する現実にはうんざりさせられる。

藤木氏をなだめることに成功したとしても、小此木氏が勝てるという保証はない。現職市長が出馬し、自民党市連が分裂して戦っているうえ、立憲民主党の推薦候補と、知名度のある元県知事二人が立ちはだかっているのだ。

このような状況になること自体、菅首相の弱体化を物語っているのではないか。菅首相に求心力が維持されているなら、小此木で決まりと見て、他の候補者は容易に近づけなかったにちがいない。だが、ここで小此木氏が勝てば、菅首相にまだ踏ん張る力が残っているとも見られよう。

自民党総裁の任期は9月30日まで。衆院の任期満了が10月21日である。菅首相と二階幹事長は9月5日にパラリンピックが閉幕した後、オリ・パラの熱気が冷めないうちにできるだけ早く衆院解散に持ち込み、総裁選より前に総選挙を終える算段だった。

むろん、総裁への無投票再選を狙ってのことだが、ここへきてメディア各社の世論調査で内閣支持率が過去最低を更新するなど、党内合意を得るための前提が崩れつつある。

菅政権が誕生して以降、自民党の選挙は苦戦続きだ。北海道、長野、広島で行われた4月25日の補欠、再選挙では1人として当選者を出せなかったし、千葉と静岡の二つの県知事選でも敗北、7月の東京都議選は過去2番目に少ない議席に終わった。

このうえ、お膝元の横浜で市長選を落とすようなら、「選挙の顔」不適格という党内世論が決定的になるだろう。

すでに党内からは、総裁選を催促する動きが出はじめている。高市早苗前総務相が8月10日発売の月刊誌『文芸春秋』で、総裁選に出馬する意向を明らかにした。高市氏が呼び水となって、総裁選をめぐる動きが活発化しそうな雲行きだ。

菅首相への支持を表明していた安倍前首相も、いつ豹変しないとも限らない。政治家・菅義偉にとって、これほど厳しい夏は、かつてなかったのではないか。

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image by: 首相官邸

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