古き良き日々のように語られることも多いものの、現代の視点で見れば、さまざまなハラスメントや「非常識」にあふれていたと言っても過言ではない昭和時代。そして残念なことに、令和の今となってもそんな時代の意識のまま日々を送っている向きも存在します。今回、iU情報経営イノベーション専門職大学教授を務める久米信行さんのメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』に届いたのは、そのような「悪しき昭和ノリを続ける人」との付き合い方に悩む読者からの相談。久米さんが提示したのは、相談者のお子さんの未来にフォーカスした「発想の転換的回答」でした。
オトナの放課後相談室「悪しき昭和ノリの人との付き合い方」
Question
世の中的には、コンプライアンス遵守や個人情報保護、ハラスメントに対する意識が高まっている気がしますが、私の周りは相変わらずの悪しき昭和ノリの人が多くて困ります。
会社の若い社員にパワハラ、アルハラ、セクハラになりそうなことをしたり、言ったりする同僚、歩きタバコや吸い殻のポイ捨てをする友人、犬の散歩で糞を片付けないご近所さん、息子が通うサッカークラブで罵声を飛ばすコーチなどなど。
昭和ノリの人が多数派なので、やんわり注意しても、「意識たかいねぇ~」と冷やかされるばかり。
むしろ「空気が読めないヤツ」「変わり者」「融通が利かないヤツ」と思われているフシさえあります。
昭和ノリのある意味でおおらかで、人と人との関係が濃い部分も大事だとは思いますが、せっかく昭和ノリの悪い部分を変えようと、世の中が進んでいるなら、そこは頑張ろうよと思っている今日この頃です。
こういう悪しき昭和ノリを続ける人とのいい付き合い方があればアドバイスをお願いいたします。(千葉県・45歳、男性)
久米さんからの回答
君子危うきに近寄らず。時代に淘汰される人たちと付き合い悩むより、意識高い系の師匠や同志と付き合おう
昭和生まれの私には耳の痛い話です。そう言えば、私が20代にお世話になった某大手証券会社なんて、昭和ノリそのもの。まさに「ハラスメントの帝国」でありました。それが、昭和のモーレツ日本企業の常識だったわけです。
私は、2年前、新大学iUの教授になるにあたり、eラーニングでコンプライアンスとハラスメントの研修を受けさせられました。ここで習った今どきの令和基準に照らし合わせるなら、当時の証券会社に代表される昭和のモーレツ企業の管理職は、誰もが確認テストで0点になってしまうでしょう(ちょっと厳しすぎの感もありましたが)。
つまり、まともな企業や団体なら、こうしたコンプライアンス、ハラスメントの研修を、管理職はきちんと受けるはずです。そして、半沢直樹に出てくるような昭和ノリの管理職は、いずれ排除されるはずです。また、昭和の悪習を引きずり、新しいルールに対応できない会社は、令和をDX革命や環境問題に対応にできない企業と同様に、生き残ることは難しいと考えます。
ですから、あと10年もすれば、そんな昭和ノリの人たちは停年か早期退職となりますし、コンプライアンスの甘い会社は市場から退場させられることになるでしょう。
ですから「世の中は10年で変わる。少しずつ良くなっていく」と気長に考えましょう。そして、今だけ威張っている存在に惑わされず、これから進化論で淘汰される可哀そうな存在だと思うようにしてはいかがでしょうか。
また、歩きタバコや吸い殻のポイ捨てをするガサツな友人やご近所さんについては、昭和ノリの企業文化というより、生まれと育ちの問題でありましょう。
残念ながら、人間は、生まれ育った環境、日々接する人々に左右されます。属するコミュニティでの常識を見につけ、行動を習慣化する動物なのです。今さら、長年ガサツに生きてきた人々の意識や行動を変えるのは大変難しいことです。
ご自身は、幸いにして、そうではない真っ当な環境で、生活と行動の様式を身に着けてきた のでしょう。きっと、親御さんの見えない努力もあったはずです(反面教師という場合もありますが)。
ですから、ガサツな人を直すことに努力するよりも、お子さんに、新時代にも世界に通じる考え方、生活の仕方を教えることに全力を傾けた方が生産的だと考えます。
私がいちばん気になったのは、今どき「サッカークラブで罵声を飛ばすコーチ」です。そんな環境にいては、お子さんも「それが正しいこと」と誤解して育つことになります。
私が尊敬する勉強会仲間の先輩は、海外経験が長いこともあり、母校のテニスクラブにはびこっていた昭和ノリの根性主義を一掃しました。そして、科学的なトレーニングやコーチングを導入したことで、連戦連勝の黄金時代を築き上げたのです。
つまり、親が子供にできる最善のことは、自分自身が正しく心地よいと感じるコミュニティを探して、この人みたいになって欲しいという師匠と日常的に接するようにすることなのです。
私は、問題児だったため、小学校5年生でボーイスカウトに無理やり入れさせられました。幸いにして、そこは今考えても素敵な大人たちの集まりでした。子供たちの中には悪ガキも多かったのですが、隊長やリーダーは、神社神道とボーイスカウトの精神に基づいて接してくれたので、少しずつ私も変わっていきました。
もちろんオトナたちは、誰もポイ捨てなどもしませんし、掃除や警備などの奉仕活動も多かったため、「何か善いことを行うのが当たり前で、善行するとなんだか気持ちいい」と体感することができました。
即ち「君子あやうきに近寄らず、正しき道を歩め」。
会社勤めでは、上司、同僚、部下を選ぶことは難しいかもしれませんが、子育てや自己啓発をするコミュニティで付き合う人は選ぶことができます。
スポーツであれ、NPO活動であれ、「ご自身がこうありたいと思う人たちが集まるコミュニティ」に親子で参加するようにしましょう。
そうすれば、イライラすることもなくなりますし、子どもたちも自然にそこに集まる大人たちの考え方や立ち居振る舞いをマネします。
さらに、そうした「意識高い系」の人たちとのおつきあいは、スポーツNPOや活動をきっかけに、より広く深いものになっていきます。それこそ、生涯のおつきあいになるかもしれません。
おかげさまで、いま私は、尊敬できる各界の先輩や後輩と、勉強会やNPOなど、仕事以外のコミュニティで交流を続けさせていただいております。こうしたご縁こそ、お金や地位よりも大切で、幸せな暮らしに欠かせないものだと実感しています。
今回のご質問を受けて、なぜ、私ごときが、こんなありがたいご縁に恵まれたのか考えてみました。
私は、絶滅危惧種の国産Tシャツメーカーの後継者で、20年以上も、日々、金融機関、仕入先、販売先に少なくないイヤな人とタフなつきあいをせざるを得ない状況にあったのです。仕事だけの人づきあいだったら、もともと学生時代に半鬱状態だった私のことですから、おかしくなっていたかもしれません。
だからこそ、仕事以外のお付き合いを広げ、「この人みたいになりたい」という人とだけつきあうように心がけたのです。
世の中は「2:6:2の原則」で動いていると、ちょうど先日の大学教授会でも話題になりました。今回の質問に当てはめるなら、2割が気の合う意識の高い人、6割は普通の人、2割が相容れない昭和ノリの人がいるということになるでしょう。だとすれば、仕事以外のコミュニティでは、2割の気の合う意識高い系の人と、親子共々付き合うようにされてはいかがでしょう。
そうすれば、ダメな昭和ノリの人を直すという不毛な労力を、こうなりたい憧れの師匠をマネして近づこうという努力に振り向けられます。そんな真っ当で向上心あふれる親の姿を、お子さんも目の当たりにして、きっと真似をしたくなるはずです。
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