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活用しなけりゃ意味がない。マーケティングこそ「論より証拠」なワケ

先日掲載の「『モノを売ったら終わり』じゃない。今さら聞けぬマーケティングの本質とは」では、変化し続けるマーケティングの定義と概念を順を追い解説し、具体的事例を挙げ「マーケティング的発想」を説き明かしてくださった、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。今回坂口さんは自身のメルマガ『j-fashion journal』で、マーケティングの歩みを改めてレクチャーするとともに、そのマーケティングこそが「論より証拠」である理由を詳説しています。

【関連】「モノを売ったら終わり」じゃない。今さら聞けぬマーケティングの本質とは

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マーケティングは遅れてやってくる

1.マーケティングの歩み

マーケティングは大量販売から始まった。「大量生産された大量の商品をいかに販売するか」が「マス・マーケティング(マーケティング1.0)」である。

マス・マーケティングが主流だったのは、需要が供給を上回っていた「モノ不足時代」である。需要が多いので、作れば作るほど売上は伸びたし、大量に作った商品を大量に販売することこそ、マーケティングの目的だったのだ。

やがて、供給が需要を上回る「モノ余り時代」が到来する。そして、「生活者主導のマーケティング(マーケティング2.0)」が提唱された。

作ったものを売るのではなく、売れる商品を作るという発想の逆転が求められるようになったのだ。売れるものを見いだすために、マーケットインの発想が重要だと言われるようになった。こうして「我々は商品を売るのではない。顧客満足を売るのだ」と言われ、顧客満足がマーケティングの新たな指標となった。

現在はグローバル化とICT化が加速し、「価値主導のマーケティング(マーケティング3.0)」の領域に高度化したと言われる。

企業活動は、利益追求から社会的貢献が求められるようになり、マーケティングは世界を良くするための事業や活動のための戦略と定義されるようになった。

グローバル化やICT化は、経済格差や環境汚染を引き起し、その反省のもと、国連ではSDGsを提唱している。これも価値創造活動の一環と言えよう。

2.実ビジネスとの時間差

マーケティング理論は、時代の先端で発生する新しい事象やビジネスを分析し、新しいマーケティング概念を創造する。

しかし、実際の市場の変化には時間が掛かる。最先端のマーケティングを実践するのは、一部の企業に過ぎない。

時代の変化に対応しない企業活動の一例として、「新聞の勧誘」があげられる。景品を配って新規購読契約を促すのは、市場シェアの拡大のためである。

高度経済成長の時代、地方から都会へと人口が集中し、団地や郊外の住宅開発が盛んだった頃こそ「新聞の勧誘」が最も盛んだった時代である。他の新聞より早く契約を取ることで市場シェアが確保できたのだ。

新規顧客獲得が最も効果的なのは市場拡大時期である。人口が減少し、新聞の発行部数が減少している市場縮小時期には、リピーター顧客獲得が需要になる。

例えば、契約期間が長期になるほど割引率が高くなるとか、長期購読者だけにサービスを提供することが求められる。

あるいは、「マイレージ」のように、買えば買うほど得をするサービスが求められているのである。

多くの企業はマスマーケティングの原理で活動しているし、経営者もマス・マーケティングの常識から抜けていない。あるいは、未だにマス・マーケティングさえ十分に取り組めない企業が多いのだ。

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3.生活者主導のネット販売

インターネットは、メーカーが直接消費者に商品を販売できる手段を与えた。

しかし、メーカーの生産体制が大量生産のままであれば、直販ビジネスでは販売数量が伸びず、工場の稼動には貢献できないだろう。

直販ビジネスは利益率は高いが、不良在庫を抱えれば損失が発生する。「いかに売れる分だけ作るか」という「生活者主導のマーケティング(マーケティング2.0)」の発想に立たなければならない。

つまり、工場のダウンサイジングやフレキシブルな生産システムの導入が不可欠になる。更に言えば、自社工場を閉鎖し、アウトソーシングに切り替えるという手段が必要になるかもしれない。

そもそも国内メーカーの衰退は、海外生産との価格競争に破れたからである。海外には、最新の機械設備と豊富な労働力がある。グローバリズムが維持される限り、海外で調達できる商品を国内で生産しても意味がない。

インターネットで自社製品を販売するとは、海外でできない製品を生産し、しかもそれを直接販売するという難事業であることを認識すべきだろう。

4.マーケティングも論より証拠

マーケティング論は、欧米のケーススタディを基本にして理論を組み立てている。もちろん、合理的な思考方法は参考になるし、日本市場にも応用できる理論もある。しかし、日本市場の特殊性から、欧米のマーケティング理論をそのまま日本に当てはめるのは無理があると思っている。

例えば、消費者、生活者の分類にしても、階層社会の欧米とは異なる。欧米は、高所得者が住む地域と貧困者が住む地域が明確に分かれているが、日本では一つの地域に混在して住んでいることが多い。

また、欧米では階層毎にブランドが分かれており、価格も段階的に設定されているが、日本では階層で分類するよりも、感性やセンスで分類されることが多い。したがって、価格設定も欧米市場のように段階的に設定されることは少ない。

マーケットを構成するのは生活者であり、生活者のライフスタイルや嗜好の違いを理解しないまま、欧米のマーケティング理論を日本に当てはめても通用しないのである。

それでも、例えば、プラダが日本市場に参入する際、3年かけて日本のファッション市場の特性、アパレル業界の構造、競合他社の状況、日本人消費者の特性等を徹底的にリサーチしたという話は参考になる。アジア市場に進出する際に、ろくにリサーチもせずに、役員が出張して街を歩いた印象だけで出店場所を決め、結局失敗して撤退する日本企業も少なくないからだ。

マーケティング論の書籍を読み、流行のマーケティング用語を覚えても、企業経営において活用しないのであれば意味はない。論より証拠なのだ。

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編集後記「締めの都々逸」

「流行り言葉で 身を飾りたて 勘で動いて ミスしてる」

私が「マーケティング」という言葉と出会ったのは、「マーケティングコンサルタント」の先生を知り合ったことによる。そのときに、「マーケティングコンサルタントって一人でも独立できるんだな」と思った。

それでマーケティングを勉強しようと思って、書店に行ってマーケティングの分厚い本を5~6冊買い込んだ。必死に読んだのだが、どうにもピンと来ない。別世界の出来事のように感じたのだ。

そこでマーケティングコンサルタントの先生に、「全然理解できないんですが」と質問したところ、「アメリカの理論なので、日本人が読んでもピンと来ないのは当然です。大切なことは、ゴールから逆算で考えることですよ」というお答え。それなら納得できると思った次第である。

実は、欧米企業が日本市場に進出したものの、対応できずに、撤退するケースも少なくない。多分の欧米のマーケティングは勉強しているはずだし、その通りに戦略立案して実行したのだと思う。理論とはそういうものだ。

私は日本のビジネスの現場で育ったので、日本のビジネスの論理は理解しているつもりだし、常に情報や事例は更新している。分からないものは分からないし、役に立たないものは役に立たない。でも、何が役に立つかは分かるのだ。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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