9月11日に突如長距離巡航ミサイルを打ち上げるや、その後も国際社会の非難をよそにミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮。その狙いについては様々な分析がなされていますが、国連の調停官として世界各地の紛争を収めてきた経験を持つ専門家は、金正恩総書記の思惑をどう読んでいるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では、著者で各国に独自の情報網を持つ島田久仁彦さんが、考えうる3つのパターンを挙げそれぞれについて詳細に解説。さらに、もし北朝鮮が今回も「瀬戸際外交」を企んでいるとしても、国際社会が見せる反応はこれまで通りでは済まないとの見解を記しています。
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再起動? 瀬戸際外交? 北朝鮮のミサイル実験連発が意味すること
米中対立の激化。ミャンマーで起こったクーデター。アフガニスタンにおけるカブール陥落とタリバンの復権。きな臭さを増す台湾海峡。中ロの戦略的接近。エチオピア情勢の緊迫化。
それらの国際情勢に世界が注視している間、北朝鮮情勢はいろいろな意味で意図的に無視されていました。
その理由は「特に何も目立ったことが起きなかったから」ともいえますが、その背後には「国内でのコロナ感染拡大を受け、中国との国境を閉鎖したことで情報のフローも止まった」ことと、北朝鮮情勢をクローズアップすることで国際情勢の舞台に上がろうと目論んできた韓国と文大統領が、実質的に国際社会から“追放”され(相手にされなくなり)、北朝鮮絡みの動きが停止したことがあるでしょう。
そこにバイデン政権が取る“戦略的忍耐”(実質的には戦略的無視)方針により、より北朝鮮問題が国際案件の第一線に出ることはありませんでした。
日本のメディア、特に情報番組においては、時折、金正恩氏の動向や、その妹の与正氏の動向や発言、エピソードなどが紹介されていましたし、遅々として進まない拉致問題が、自民党総裁選前のトピックスとして持ち出されていましたが、実際には、国際政治のフロントラインに北朝鮮は存在しないのが2021年の前半だったと言えます。
その典型例が、9月に開催されていた国連の年次総会においてリーダーレベルで話し合われるべき最重要案件に、今年は常連の北朝鮮情勢(ミサイル、核開発、人権侵害など)が含まれないという、とても珍しい事態が起きました。
それに焦ったからかどうかは分かりませんが、その頃から北朝鮮の動きが活発化しだします。
最近のSLBMの発射実験や列車からの弾道ミサイル発射実験、真偽のほどは分かりませんが、極超音速ミサイルを開発し、その発射実験に成功したというエピソード、そしてテレビ画面を通じて並べられる様々なミサイルたちの映像の公開は、その例でしょう。
さらに、北朝鮮側からの発表やリークではないのですが、また寧辺の核施設が再稼働した兆候がアメリカなどの衛星で確認され、さらにはIAEAの最新報告書でも、再稼働の痕跡があるとの報告が出されました。
情報にも幅がありますが、「濃縮ウランの製造が加速した」という内容もあれば、「十数発相当分の核弾頭を有する」との内容もあります。
ミサイル技術が著しく向上し、核開発も再開していたとしたら、おそらく核弾頭の小型化も相当進んでいる可能性が高いと分析されています。
それが何を意味し、どうして北朝鮮はこの時期に、国際社会から圧力をかけられる核開発の痕跡をチラ見せし、多種多様な弾道ミサイルの発射実験をおこなったのでしょうか?
その理由は何通りか考えることが出来ます。
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一つ目は、文字通り「核による先制攻撃に対する抑止力の増大」を図ったというものです。
どの国が先制攻撃を行うのかは分かりませんが、仮に攻撃を察知した場合、多様な反撃策を有することを示したと思われます。
神出鬼没な列車による弾道ミサイル発射、本当に完成したかどうかは分かりませんが、実在すればほぼ発射後、レーダーでの捕捉は不可能で、かつ迎撃も不可能と言われる極超音速ミサイル、そして最近、チラ見せした潜水艦からの弾道ミサイル発射(SLBM)、さらには、国連安全保障理事会の決議により禁止されているICBMの存在は、攻撃国を無傷ではいさせない可能性を高めたと言えるでしょう。
クリントン政権時に一度は、真剣に北朝鮮への限定的な攻撃が計画され、ぎりぎりで回避されたということがありましたが、現在では、その時とは比べ物にならないほどの攻撃能力を備えていると言われており、仮にアメリカが北朝鮮を攻撃するようなことがあり、そして中国やロシアが反撃に参加しないとしても、アメリカとその同盟国(おそらく日本)は無傷のままではいられない可能性が高まったと言われています。
二つ目の理由は、【最近冷たくなった中国とロシアの出方を見極めたいとの願い】があると考えます。
第1回米朝首脳会談前には、中国を素通りして実施されたと認識されたことから、習近平国家主席の中国は、北朝鮮と距離を置く対応で答えました。
北朝鮮としては、韓国の行き過ぎた大ハッスルのおかげでアメリカ大統領(トランプ氏)との会談が実現するのですが、韓国に激怒し、そして北朝鮮には踏み絵を踏ませる行動を中国は取っています。
その踏み絵とは、中国国営航空(Air China)のB747を金正恩氏と北朝鮮代表団に使わせるとのオファーを、北朝鮮が受けるか否かという内容だったようです。
結果はご存じの通り、中国の国旗が付いた飛行機でシンガポール入りするのですが、機内での会話内容はもちろん、シンガポールでの一挙手一投足まで、すべて中国側が把握するという事態に発展しています。
その後も金正恩氏と北朝鮮は、中国に近寄ったかと思うと、突然離れるという混乱作戦に打って出ます。しかし、回を追うごとに中国側の反応は薄れ、どこか北朝鮮を突き放す姿勢を取り始めました。
それを決定的にしたのが、世界を恐怖に陥れ、現在も影響が続くコロナのパンデミックで、中朝国境が閉鎖されたことでしょう。
これにより物理的に人・カネ・物資・情報などの流れが停止し、それに並行してロシアも停止させたため、実質的に北朝鮮が孤立し、そして非常に分厚いベールに包まれて、国内で何が起きているのかが完全に隠れたことも、国際社会からの孤立を一気に加速させた要因と思われます。
しかし、この“決定”は北朝鮮経済と社会をさらなる苦行へと導き、それは金王朝の存続さえ危ぶまれるような緊張状態を生み出したと言われています。
その引き締めと、中国とロシアを振り向かせ、支援を引き出そうとして行ったのが、今回の一連の動きにある理由ではないかという分析も届いています。
勝手な想像に過ぎませんが、「助けてほしい。我々はもう暴発寸前だ。もし助けてくれないなら、破滅覚悟で最後の手段に出る。ミサイルの行方は、ミサイルにしかわからない。YesかNoか?」といったところでしょうか。
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実際の中国側の反応については、はっきりとは知りませんが、習近平国家主席とその周辺、そして軍がシェアしている分析によると、「北朝鮮のミサイルの精度はまだ信頼性が低いと思われるが、射程距離は中国全土に及び、国家安全保障上の脅威にはなってきている」「核を持つことを良しとはせず、これ以上の拡大は絶対に阻止しなくてならない」「北朝鮮経済は実質的には破綻しており、生活苦が広がるなか、金王朝の基盤は崩れてきていると思われ、金正恩氏には統率能力はもうない」「北朝鮮の存在の可否は、中国のさじ加減次第」との内容があり、有事に備えた対北朝鮮即応プランが導入されたとのこと。
現在のデリケートな状況を崩し、レッドラインを超えたと判断されるのは、北朝鮮による核実験の実行がトリガーとなると考えられているようで、仮に実験強行の暁には、中国当局は北朝鮮を完全に切り離し(とはいえ、レッドチーム内には、名前だけ入れておくようですが)、中朝国境を閉鎖し、同時に対北朝鮮制裁強化の輪に加わることになるだろう、とのことでした。
つまり、最近のミサイル実験の連発は、中国に対するメッセージとしては、ポジティブにも、ネガティブにも捉えられており、中国自身も対応に苦慮しているようです。
さて、どう転ぶでしょうか?
さて、三つめのポイントは【国際社会で話題に上ることで、北朝鮮の影響力を対内的に示す狙い】です。
これは、情報が完全に統制されている中ではいくらでもできるかと考えますが、これが崩れる一方の金王朝への支持と服従の回復につながるかは不透明というよりは、期待薄でしょう。
ただ、日米韓の北朝鮮問題担当のトップが緊急会議を開催したり、G20の場で話題になりそうな状況になったりしているのは、北朝鮮問題を国際問題のテーブルに戻したという点では成功しているのかもしれません。
しかし、聞くことによると、その場で話されているのは、北朝鮮関連の情報共有の徹底という従来通りのアジェンダに加え、金王朝が崩壊し、北朝鮮が暴発した際の対応策についても触れられているとの情報があります。
日米韓の緊急会合に加え、ここに6か国協議の当事国で、一応は北朝鮮の後ろ盾と考えられている中ロが加わり、長年停止していた5か国での協議が再開されたとの“噂”も入ってきています。
そうだとすると、すでに北朝鮮は一線を越えてしまったと判断されているのかもしれません。
個人的は、すでに触れたとおり、北朝鮮が中国とロシアの制止を振り切り、核実験を強行した場合には、それは中ロが絶対に許さないと公言し、また北朝鮮にも再三伝えている内容だそうなので、北朝鮮の命運はついに尽きるのかもしれません。
そうなってしまうと、もう完全に空想の域を出ませんが、朝鮮半島を起点に、北東アジア、中央アジア、そして東南アジアにまで及ぶような、アジア地域全体の再編にまで発展するかもしれません。
今月に入ってからいろいろと話している方たちの話によると、「ここ数週間から2~3か月のあいだにどうなるかわかるだろう」とのことでした。
それが“これまでのようなギリギリの線で思いとどまる瀬戸際外交”なのか。それとも“地球上最後の全体主義独裁国家の終焉”なのか。
仮に前者であったとしても、もう今回は「またかよ!」という反応では済まされないような気がしてなりません。
不確定要素も多い中でのお話になってしまいました。
ところで、皆さんは今回の件についてどうお考えになりますか?
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image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト