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現実と大きく乖離か。当てにならぬ文科省「問題行動調査」への違和感

文部科学省が先日発表した、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」。しかしその内容は、いじめ件数の前年からの「大幅減」や自殺者の警察庁発表数との大きな開きなど、不可解さが目立つものとなっています。何がこのような結果を招いたのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、その原因を徹底究明。根底にあったのは、「独立性の強い教育行政のあり方」でした。

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文科省「児童生徒の問題行動調査」に異議あり!!

2021年10月13日、文部科学省は毎年行っている「児童生徒の問題行動調査」の結果を公表した。

今回は令和2年度のまとめであり、ちょうどコロナ禍での「いじめ」の認知数などが報告されているが、過去最多であった令和元年からはおよそ10万件減って51万件であった。

もはやこの認知数はあてにならない

2020年10月、過去最多だとして61万件を超えるいじめの認知数があったと大きく報道された。新聞によっては一面で報じていたから、いじめがめちゃくちゃ増えたような印象をもった人も多かっただろう。メディアはやはりわかりやすい数を追うから、なんでこんなに増えたんですか?という質問が相次いだことを私も覚えている。

ところが、この認知数はさほどあてにならないのだ。

過去10年の記録を記すだけでもよくわかる。

2010年7万7,630件、2011年7万231件、2012年19万8,109件、2013年18万3,803件、2014年18万8,072件、2015年22万5,132件、2016年32万3,143件、2017年41万4,378件、2018年54万3,933件、2019年61万2,496件、2020年51万7,163件となっている。

ちなみに、いじめ防止対策推進法ができたのは平成25年だから、2013年のことになるが、その前後に認知数の動き大きくはない。

では、何がこの10年で起きたのかと言えば、法施行以外は特に何もないのである。

強いて言えば、新型コロナ感染症の蔓延から休校期間があったり、分散登校があって生徒らの接点が減ったということくらいだろう。

この数値は学校から文科省への報告で成り立っているが、結局発表しているのは文科省だ。文科省は省庁であるから、その省庁が発表した数字はどう考えても他の数値よりも信ぴょう性が高いと言えるわけだ。

しかし、こうした数値が、十万件単位で、特に大きな動きがないのに、減ったり増えたりするだろうか?

答えは「NO!」ではないだろうか。

例えば、平成17(2005)年は「2万143件」、最多であった令和元(2019)年は「61万2,496件」である。この差は、けた違い過ぎると言えるだろう。

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現場感

いじめの現場にいると常に感じるのは、どんな学校にもいじめはあるということだ。

実際、過去最多となった2019年度の数値の際も、これを発表した文科省は、数が増えたのは、実数に近くなってきているだけで、むしろ良いことだと評価した。

但し、この文科省の言いようだと、まだ実態数には程遠いとも受け取ることができよう。この時期(令和元年発表)1,000人当たりのいじめの発生数は、46.5人である。

1クラスが35人だと仮定すると、絶対に1クラスに1件はいじめがあることになる。

今年の発表を見ても、1,000人当たり39.7件の発生だから、同様に1クラスに1件は必ずあるということになる。

ところが、何クラスもあるはずの学校が、今年の発表ではおよそ21%もの学校が、いじめはなかったと報告をしているのだ。

では、このいじめはなかったとする学校群は、何か特別なことをしているのだろうかと言えば、そんな報告は一切上がってないし、予防教育に詳しい専門家に聞いても、何も見いだせないのだ。

強いて言えば、「発生しているいじめを察知できないほどの能力しかない」もしくは「隠ぺいした」ということだろう。

つまり、全体のおよそ2割は無能か隠蔽かのいずれかだと言っても過言ではない。今はやりの言葉で言えば、公立校の学区制で勝手に振り分けられることを考えれば、学校全体の2割は、「学校ガチャ」の大外れなのだ。

文科省と警察庁の数値があまりに違う

今回の児童生徒の問題行動調査の報告で、注目を浴びたのは、自殺者数だ。

この数は、過去最多とされ、415人の自殺があったと報告された。

しかし、警察庁が発表した若者の自殺者数は、未成年のデータなので、文科省のデータとは基準に差異はあるものの、数が全く異なるのだ。

警察庁、厚生労働省自殺対策推進室警察庁生活安全局生活安全企画、「令和2年中における自殺の状況」より

この数値の差は誤差とは言えないだろう。もはや別物と考えてもいいのではないか。

こうした差については、結局、学校などが挙げた数値を集計しているだけなのでと、文科省はいうだろうが、それでは、「学校がいい加減な数字をあげてくるので」というのと同じだろう。

もはや、こうした文科省の数値は、ちょっと大丈夫なんだろうか?と思えてしまうだろう。

ただ、やはり、この自殺者数の多さは、問題だと思える。今回は令和2年度の分の集計ということもあるから、コロナ禍でなかなか先が見えないということなどで、そもそもの自殺者数は多かった。

10月現在、1日の感染者数が大幅に減って記憶が薄れてきているかもしれないが、確かにコロナの問題は未曽有の感染拡大であった。生活や行動の在り方も変化が求められ、経済的な不安も大いにあった。いわゆる社会不安が子どもたちに影響したという見方は確かにあったといえよう。

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もう1つの着目点

文科省の児童生徒の問題行動調査の発表においては、もう1つ指摘された問題があった。それは、インターネットを通じたいじめが急増したということだ。また、不登校が増えたというところも問題として挙げられている。

まず、いじめの現場にいて思うことは、すでにSNSなどはコミュニケーションインフラとして使われているから、話す聞くのと同じように、インターネットはいじめには使われている。ただし、インターネットだけを使ったものとなるとその数は全体の中では極めて少ないと言える。

データでは、パソコンや携帯電話を使ったいじめは、1万8,870件であるとされ、全体のおよそ3.6%程度であるとされている。ただし、この数は過去最多と言える数であった。

これをまるで、児童生徒に1人1台端末を渡すというGIGAスクール構想への批判に使おうとする一定の勢力もあろうが、この批判はあまり馴染まないと言えるだろう。

一方で、90日以上の欠席を長期欠席としているが、この長期欠席の数だけでも、小中でおよそ10万人強、高校に至っては8万人で、合わせるとおよそ18万8,000人になる。

こうした背景は、新型コロナ問題をメインに報じられることが多いが、果たしてそれは事実なのだろうか。例えば、ヤングケアラーやいじめ、現状の教育制度に馴染まなかったり、様々な問題がここには複合的にあると思える。

仮に、日本の教育制度に柔軟性があれば、この数は相当数減らすこともできるだろう。例えば、GIGAスクール構想をするのであれば、インターネットを介して、同様に授業を受けることができるだけでも、それなりの範囲は対応ができるだろう。

そもそも調査とはなにか

こうしたいわゆる白書に近いような調査報告は、単に報告することが目的ではないはずだ。

冒頭にもあるように、あてにならないと思える数値のブレや差などは、結局、報告することのみが目的になっているから起きているのではないだろうか。

そもそも、このようなアンケート集計や統計的調査は、現状を知ってもらうという報告をする側面が省庁として強いというのは理解できるが、その先には、解決したい課題があり、そのために現状を正確に知るために行われるものである。

もしも、真に解決したい課題が文科省や国の教育トップにあるならば、むしろ、このような数値のブレにこそ、問題意識を持つのではないだろうか。

いや、むしろ解決したい課題もないから、こんな数値になっているかもしれないが…。

国にはこうした調査の在り方について、問題意識をしっかり持ってもらいたい。

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編集後記

いじめの認知数は、だいたい20万件前後を推移していた時期がありました。ここから、数年で30万件くらい増えたというのが今です。

このあたりの時期、私はある文科省の関係者から聞いた話ですが、いじめが無いと報告してくる地域など、ちゃんと報告していないだろうと思わるところに「ちゃんとやって」という連絡を入れたりしていたそうです。

文中にも書きましたが、過去最多となった昨年の結果でも、文科省はこれを正確な実数とは思えないという趣旨のコメントを出しています。

根本にあるのは、独立性の強い教育行政のあり方で、これは良い面もあれば悪い面もあるということでしょう。教育委員会は独立した行政機関という位置づけですから、基本的に上下関係がありません。つまり、組織の中で「いじめなど無い」という意識が強ければ、「無い」としたところで、特にそれを指摘する機関が無いわけです。

私は日本全国、様々な隠ぺい問題に関わりますが、そうした事実を暴いても、結局アンケートを捨てたり燃やしたり、なくしたことにしたり、データがあるのに無いことにしてしまった不正役人はせいぜい訓戒程度の処分しか受けません。さらに組織としてなぜ起きたのかの調査もしないのが普通です。きっと、深堀りの調査をすれば、都合の悪い偉い人がいるのでしょう。そうした偉い人の権限で各処分が決まるわけですから、訓戒=ちょっと叱られたというくらいなのかもしれませんね。

いじめの被害者やご遺族の多くは、しっかりとした処罰を法的に求める動きがあります。原則私は、これに賛成です。特に隠蔽に関与した者は裁かれて当然のはずです。

ただこれを話すと、必ず2点の批判を受けます。1つは地方公務員法などで処罰の規定があるから処罰が被るということです。では訊きます。学校は公立校だけではなく、私学もあります。さらに国立もありますから、地公法だけの話ではありません。

次の批判は、どこがそれを取り締まるの?ということです。確かに取り締まるような権限を持った機関がありません。作るにしても、そうした機関ができるには法的な背景をしっかり作り、整備する必要があります。ただ、無いということが問題ではなのでしょうか?つまり、これは問題のすり替えです。

他にも教員が委縮するとか、そういう話もありますが、委縮して隠蔽しないなら、結果良いことではないかと思えてなりません。

ちょうど今の時期は衆院選挙ですから政治的な問題に関心が向く時期です。ぜひとも投票は必ずして、身近な問題からも、様々な問題に目を向けてもらえればと思います。

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image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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