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イスラム国は中国をも敵視。米に代わってテロの標的になる習近平

米軍撤退後のアフガニスタン統治を担うタリバンと、彼らへの協力姿勢を示し続けている習近平政権。しかしその新生アフガニスタンを巡っては、中国に対する「不穏な動き」も見られているようです。今回、外務省や国連機関とも繋がりを持ち国際政治を熟知するアッズーリ氏は、米国に代わり中国がテロの標的になるリスクが高まっている現実を伝えるとともに、その背景を詳細に解説。さらに中国がタリバンとの関係強化を求めている「抜き差しならない理由」についても明らかにしています。

イスラム過激派に狙われる中国

反政府勢力だったタリバンが実権を奪還して以降も、アフガニスタンでは女性の人権やテロ、食糧危機など多くの課題が残っている。タリバンが事実上のアフガン政府となるが、中国やロシアなどはタリバンとの関係構築に積極的な姿勢を示す一方、欧米諸国の中にはタリバンを懐疑的に見る国が少なくない。

そのような中、アフガニスタン北部クンドゥズにあるイスラム教シーア派モスクで10月8日、大規模な自爆テロがあり、50人以上が死亡、100人以上が負傷した。このテロは8月31日に米軍がアフガニスタンから完全撤退して以降、最悪の被害となった。しかし、このテロ事件で注目されるのは、イスラム過激派「イスラム国のホラサン州」が犯行声明を出し、「タリバンとシーア派住民を狙い、自爆犯はウイグル人で、タリバンが中国の要求に従ってウイグル族を排斥しようとしている」と動機を示したことだ。

要は、イスラム国が中国を敵視していることが示されたのだ。2014年6月、当時の指導者アブ・バクル・アル・バグダディ容疑者がイラク・モスルで一方的な建国宣言をして以降、イスラム国はイラク・シリアで一時期広大な領域を支配したが、イスラム国のホラサン州は2015年にアフガニスタンで台頭した。実は、イスラム国が中国に敵意を示すのは今回が初めてではないが、中国はアフガニスタンを一帯一路上の要衝と考え、同国に眠る天然資源を獲得する狙いがある。

米国信用格付大手のフィッチ・ソリューションズによると、新タリバン政権の誕生となるが、アフガニスタン経済の成長率が著しく低下する見込みで、今年の成長率はマイナス9.7パーセント(以前は0.4パーセントを示したが大きく下方修正)、来年はマイナス5.2パーセントになると予測した。そのような中、たとえば、中国の産銅会社である江西銅業は首都カブールから南東40キロメートルの地点にあるメス・アイナク地区の銅鉱山(推定で1,108トンもの銅が埋蔵されている)について、今後の情勢にもよるが時期を見て開発を進めていく方針を明らかにしている。他の中国企業もアフガニスタンでの活動、展開を今後進めていくとみられる。

アフガンに多数存在する中国を敵視するイスラム過激派

だが、イスラム国ホラサン州だけでなく、アフガニスタンには中国を敵視するイスラム過激派が多く存在する。9.11同時多発テロを実行したアルカイダの残党勢力、アルカイダを支持する「インド亜大陸のアルカイダ」、中国西部新疆ウイグル自治区の分離独立を目指す「東トルキスタン・イスラム運動」などは依然としてアフガニスタン国内において数百人レベルで活動しており、中国のアフガニスタンへの影響力拡大は必然的に反中テロの増加を招く。

そして、それを連想させる出来事は、既にパキスタンで長年発生している。最近でも8月、西部バルチスタン州グアダルで中国人が乗る車列に対する自爆テロがあり、中国人1人が負傷した。このテロでは、地元の武装勢力「バルチスタン解放軍」が犯行声明を出したが、バルチスタン解放軍は長年中国の一帯一路権益へのテロを断続的に続けている。2018年11月には、最大の都市カラチで武装した集団が中国領事館を襲撃し、警察官2人を含む4人が死亡した。その後、バルチスタン解放軍が犯行声明を出し、中国が地元の資源を搾取し続けているので、それを停止しない限り攻撃を続けると警告した。

また、今年7月には北西部カイバル・パクトゥンクア州で中国人技術者たちが乗るバスが谷に転落して多くの中国人が死亡した事件で、パキスタン治安当局はイスラム過激派「パキスタン・タリバン運動」の戦闘員が爆発物を積んだ車両でバスに突っ込んだと発表した。さらに、今年4月には、バルチスタン州クエッタにある高級ホテルで爆発テロが発生し、パキスタン・タリバン運動が犯行声明を出した。当時、このホテルは駐パキスタン中国大使の宿泊先だったが、同大使は当時ホテルにはおらず難を逃れたという。パキスタン・タリバン運動はアフガニスタンのタリバンとも関係があるだけでなく、バルチスタン解放軍との関係を強化しているとみられ、中国の同地域への影響力拡大は反中テロの増加を招くことだろう。

中国がタリバンとの関係強化を求めているもう1つの理由

一方、中国がタリバンとの関係強化を求めている理由はもう1つある。それは、上述した東トルキスタン・イスラム運動をタリバンとの協力のもと弱体化させ、新疆ウイグル自治区における分離独立の動きを消したいからだ。国連のレポートによると、東トルキスタン・イスラム運動は中国との国境付近を中心に500人程度が活動しているとされるが、中国はアフガニスタンが再び不安定化し、東トルキスタン・イスラム運動が中国国内で活動を活発化させることを警戒している。しかし、タリバンの中には米国と積極的に和平交渉を進める穏健派もいれば、アルカイダや東トルキスタン・イスラム運動などのイスラム過激派と密な関係にある強硬派も少なくない。よって、中国がタリバンと関係を強化したところで、果たしてどこまでテロ問題で効果があるかは分からない。

新タリバン政権のアフガニスタンを巡って、米国に変わって中国がテロの標的になるリスクが高まっている。

image by: Mark Time Author / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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