さまざまな分野で重要課題として位置づけられ取り組みが求められる「持続可能性」。アパレルファッション業界においてもサスティナブルファッションを謳うブランドや製品が登場していますが、まだまだ商売のためのキャッチフレーズのニオイがすると指摘するのはメルマガ『j-fashion journal』著者でファッションコンサルの坂口昌章さん。そもそも日本を席巻するファストファッションが「顧客という資源」をも食い尽くす「収奪型」であり、漁業のような「養殖型」やかつてのパリのような固定客相手の丁寧な商売をヒントに、本当に持続可能なビジネスモデルを探っています。
収奪型から養殖型への業態転換を
1.収奪から持続可能な養殖へ
昔から続いている漁業では、漁師は漁の解禁日になるといち早く海に飛び出し、とにかく魚を取りまくった。最近は周辺国が漁業に参入し、競合相手が増えた。皆で魚を取り合えば、やがて漁業資源は枯渇してしまう。
そこで、育てる漁業、養殖への取り組みが増えている。資源を見つけ、取り尽くすビジネスモデルから、資源を育てる持続可能なビジネスモデルへの転換である。
ファッション産業も同様ではないか。売れるブランドの噂を聞けば、他社より先に駆けつけ、ライセンス契約を締結する。売れ筋の商品が分かれば、他社より先に市場に出して、素早く売り切る。これまでのファッションビジネスは、限られた資源を他社より先に収奪するというビジネスモデルだったのではないか。
2.ファッション資源の枯渇
ファッション資源は限定されている。安い商品を大量に市場に出せば、あっという間にニーズが枯渇してしまう。ファッションを感情を動かす力と考えてはどうだろう。高所得の顧客の感情を動かせば、売上は増えるが、低所得者の感情を動かしても売上は増えない。
ファッションを消費する顧客も資源と考えることができる。多くのブランドが顧客を奪い合えば、顧客資源は枯渇してしまう。ファストファッションは、資源が増えることを前提にしていた。供給を増やすほど、需要も増える時代のビジネスである。こういう市場環境であれば収奪ビジネスが通用する。しかし、ファストファッションの時代は終わったのだ。
3.アパレル業界は恵まれていた
日本のアパレル業界は、デザイナー、パターンナーの人材育成はファッション専門学校に依存してきた。ファッション専門学校はアパレル業界の要請で作られたのではなく、洋裁学校が発展したものだ。ファッション専門学校はアパレル業界に依存せずに、独自の教育ビジネスを展開してきた。従って、日本のアパレル業界は技術職の人材育成の心配をすることなく、売れる商品を追いかけることができたのである。
また、テキスタイル産業は和装、輸出、官需等で技術を磨き、あるいは合繊メーカーや紡績の下請けとして技術を磨いており、世界一流のテキスタイルが存在していた。縫製に関しても、世界一の技術を誇る日本の工業ミシンメーカーが縫製工場を指導してきた。
販売先に関しても、百貨店、量販店はアパレル産業が育てたわけではない。アパレル産業が生れた時には既に存在していたのだ。日本のアパレル産業は、ビジネスに関する全ての資源が用意されている環境の中で成長してきた。そして、自らの利益だけを追求すること、つまり収奪だけを考えれば良かったのである。
4.目指すべきファッションビジネスモデル
今後は、ファッション資源、顧客資源を育成しながら、それを枯渇させることなく、循環させなければならないと思う。まず、目指すファッションビジネスのイメージとはどんなものか。
欧米のトレンド情報を素早く収集し、人件費の低い国で生産し、所得の高い地域で販売する。これは、ファストファッションのイメージである。ファストファッションがなくなることはないだろうが、日本のように人件費の高い国でこれを行うのは難しくなるだろう。また、このビジネスモデルは既にピークを過ぎている。
かつての高級プレタポルテは、ファッション可処分所得の高い顧客を囲い込み、安定したビジネスを展開していた。かつてのパリのオートクチュールやプレタポルテもこれに近い業態だった。大きな成長は見込めなくても、固定客を相手に丁寧なビジネスを行うこと。これは、ファッションビジネス、特にアパレルビジネスの基本になることは間違いない。
このスタイルは先進国型のファッションビジネスでもある。人件費の低い国で安価な商品を大量生産するのではなく、顧客に近い場所で付加価値の高い商品を少量生産、あるいは手工業的生産を行うというビジネスモデルである。
5.ライセンスビジネスを前提にする
もう一つ、注目したいのがライセンスビジネスだ。日本の大手アパレルは欧米ブランドのライセンシーとして成長してきたので、ライセンシービジネスは得意だが、ライセンサーになるという発想は希薄だ。しかし、デザイナーアパレルを基本に考えれば、ライセンスビジネスは重要な収益の柱である。
一般のプロダクトデザインは余分な装飾を排し、合理的かつ機能性を追求したものが多い。生産性が高ければ、その分コストを抑えられるからだ。しかし、合理的で機能性を追求したデザインは、感情を揺り動かすことが苦手だ。そこにファッションの出番がある。気分の記号としてファッションブランドがあると言ってもいい。
ライセンスを軸に考えるならば、服のデザインよりも、ブランドの気分を優先すべきだろう。ブランド名とロゴタイプ、そして、ブランドカラー。場合によっては、ブランドのオリジナルモチーフやキャラクターがあってもいい。
アパレル商品でいえば、まず、強いメッセージとロゴタイプのTシャツを基本に考える。その上で世界観、ライフスタイル等を設定していく。どんな商品のライセンスができそうかを予め設定しておく。ファーストコレクションの段階で、ライセンス商品も含めたコレクションや展示会ができれば理想的だ。ライセンスビジネスを前提にするか、しないかによって、ブランドコンセプトも大きく変わるはずだ。
■編集後記「締めの都々逸」
「売れ筋探して 素早く作り さっさと売り切り 店じまい」
持続可能なサスティナブルファッションと言っても、本当にファッションビジネスを根底から変えようと思っている人は少ないようです。単なるセールスプロモーションとして、キャッチフレーズとしてサスティナブルを使っているに過ぎません。
しかし、本来は収奪型のファッションを脱して、本当の意味での養殖型、言い方を変えれば育成型のビジネスモデルへの転換が必要だと思っています。具体的な方策については、次週お伝えしたいと思います。一週間で構想をまとめたいと思います。(坂口昌章)
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