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焦り隠せぬ安倍晋三元首相。掴みどころのない岸田首相に抱く不安の中身

総理の座を退いてもなお影響力を行使し続けたい安倍晋三氏にとって、岸田首相の「したたかさ」は想定外だったようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「安倍離れ」を進めているかのような岸田首相の動きと、そうした出方に焦りを隠せない安倍氏の言動を紹介。さらに二人の微妙な関係性と、安倍氏が岸田政権を支えていく姿勢を変えられない理由を解説しています。

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岸田首相の意外なしたたかさに焦る安倍晋三氏

久しぶりの衆議院予算委員会。国会がようやく動き出した。岸田首相にとっては、初陣だ。

野党の論客が手ぐすねひいて待ち構えるなか、岸田首相は質問のトップバッター、高市早苗政調会長とはかり、懸案の10万円給付について、クーポン抜きの現金一括給付も認めると言明した。

ブレまくった挙句、本格論戦を前にした方針転換。良く言えば柔軟、悪く言えば頼りない。いずれにせよ、前途多難を感じさせた。

が、この10年近く見続けてきた強行一辺倒の政権よりはマシかもしれない。

5万円を現金、あとの5万円はクーポンということになれば、1,000億円近い事務経費が余計にかかることが、野党議員の指摘で判明。各自治体からも現金一括給付を望む声が続出した。その状況を無視できなかったということ。そしてなにより、岸田首相自身、この政策に納得していなかったのではないだろうか。

誤りを正すことなく、反対意見をむりやり押さえつけ、屁理屈とウソとごまかしで国会を切り抜けてきたのが、アベ・スガ政権だった。そんなやり方と決別したと考えれば少々のことは我慢しよう。

たとえ、野党の追及をかわすため先手を打ったに過ぎないとしても、自治体の混乱は避けられないとしても、愚策を通すよりはいいに決まっている。

安倍元首相の傀儡ではない。岸田首相が世間にアピールしたいのはそこだろう。その意味で、安倍氏の意に沿わぬのを承知で林芳正氏を外務大臣にしたのは効果的だった。

新型コロナ対策でも違いを鮮明にした。11月29日。オミクロン株をめぐる首相官邸でのこの発言。

「外国人の入国について、11月30日午前0時より全世界を対象に禁止する」「状況がわからないのに、岸田は慎重すぎるという批判については、私が全て負う覚悟でやっていく」。

アベ・スガ政権を反面教師とした水際対策の徹底である。しかも、批判に対しては「責任を負う」とはっきり言った。これには「おっ」と驚いた人も多いのではないか。

むろん、国際航空便の新規予約の停止をめぐって混乱を招いたのはお粗末だったが、新型コロナ感染が沈静している幸運も手伝って、さしたる失点はついていない。

現に、内閣支持率は上昇傾向だ。最初の期待が大きくなかったがゆえの有利性がある。

“キングメーカー”というより、実質的なキングとして君臨したい安倍氏は内心、面白くないだろう。岸田政権が崩れるのも困るが、あまり自信をつけられると、もっと困る。とにかく、自分が一番でないと満足できないのだ。

安倍氏の想像とは異なり、首相としての岸田氏は思い通りにならない人だった。首相に就任すると、安倍政権の看板政策だった「一億総活躍」「働き方改革」「人生100年時代構想」など引き継ぐ価値がないとばかりに、それらの推進室を廃止した。

辞任した甘利明前幹事長の後任には、「平成研究会」(旧竹下派)の茂木敏充氏を充てた。そこに、平成研と麻生派を味方にしたい岸田氏の思惑がのぞく。

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安倍氏は総裁選で支援した高市早苗氏を幹事長にしたかったに違いない。茂木氏とは親しい間柄だが、茂木幹事長の誕生が岸田首相の派閥「宏池会」と平成研の“復縁”につながるのは嫌なのだ。

これまで平成研は安倍氏と共同歩調をとってきたが、これからは、どうなるのか。田中角栄氏と大平正芳氏の間柄がそうだったように、もともと平成研と宏池会は連携してきた歴史がある。宏池会、麻生派、平成研が手をつなげば、その分、安倍派の影響力は低下するのだ。

このところ、安倍氏があちこちで意気軒高に発言を続けている。

12月1日、台湾のシンクタンクが主催する会合にオンラインで参加していわく。「中国にどう自制を求めるべきか。台湾有事は日本有事、すなわち日米同盟の有事でもある。この点の認識を、北京の人々は、とりわけ習近平主席は断じて見誤るべきではない」。

12月9日の安倍派会合。北京冬季五輪に政府代表を派遣しない「外交的ボイコット」で米国に追随するべきかどうかについて。「ウイグルで起こっている人権状況については、政治的な日本政府のメッセージを出すことが求められている。日本の意思を示すときは近づいてきている」。

親中派の林外相を擁する岸田首相にプレッシャーをかけると同時に、党内、とりわけ右派に存在感を示したということか。

中国軍機が台湾の防空識別圏内を飛び回り、差し迫った危険として台湾有事が懸念されるおり、安倍氏らしい発言とはいえるのだが、やけに勇ましさが目立つのも気になるところだ。

しかし、こうした派手な言動のなかに、安倍氏の焦りのようなものを感じるのは筆者だけではあるまい。掴みどころのない岸田首相に抱く安倍氏の不安。その裏返しとはいえないだろうか。

どこから見ても、岸田氏は善人だ。委員会の総理席でヤジを飛ばすようなこともしないだろうし、人を敵味方に分けて、敵を徹底的に叩く安倍流の生き方とは無縁に見える。しかし、それだけに安倍氏にとっては不気味な面がある。いくらお人好しでも、いったん権力を握れば豹変するかもしれないのだ。

首相の座の禅譲をちらつかせながら、岸田氏を軽く扱ってきた安倍氏への怨念は心中深く沈殿しているかもしれない。

とりわけ、2019年参院選で、岸田派重鎮、溝手顕正候補の10倍もの資金1億5,000万円を、対立する河井陣営に配った安倍首相と党本部への不信感は、いまだ岸田首相と自民党広島県連に渦巻いている。

1億5,000万円については、河井夫妻による買収工作に使われたほか、一部を安倍氏がフトコロに入れたのではないかと勘繰る向きもある。また、日大事件で逮捕された医療法人「錦秀会」前理事長、籔本雅巳被告と親しいことから、安倍氏をめぐるカネの噂は絶えない。

もし安倍氏に何らかの心当たりがあるなら、岸田首相と反目し合うのは得策ではないだろう。特捜が有力政治家の捜査をするさい、検事総長の任命権を持つ総理の意向を無視できないからだ。

これまで岸田氏を軽んじるかのごとき仕打ちをしてきたことは、安倍氏の負い目になっているはずである。岸田首相は安倍氏の機嫌をそこないたくないだろうが、安倍氏もまた岸田首相の腹のうちが気になるに違いない。

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安倍派は95人の党内最大勢力を誇るが、必ずしも一致結束という状況にはない。それゆえにこそ、“キングメーカー”として岸田政権を応援するポーズが必要なのである。当面、岸田政権を支えていくという姿勢は変えられないだろう。

岸田首相は、いわば安倍氏の弱みを握り、麻生派、平成研の主流派意識を操って、政権の基盤を固めているようにも見える。意外にしたたかな計算のもとに“安倍離れ”を進めているといえるかもしれない。

対中国政策を含め難題が山積みのなか、岸田首相の柔軟路線が今後、どのように展開していくのか、今のところ見当がつかないが、優柔不断だけは禁物である。「私が責任をとる」という毅然とした姿勢を続ければ、道が開けるのではないか。

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image by: 岸田文雄 - Home | Facebook

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