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軍事アナリストが提言する、台湾「邦人避難」計画と自衛隊法改正

12月13日の国会で岸田文雄首相は、海外での危機対応として、在外邦人の安全を確保するために自衛隊法改正の検討をすると語りました。今年8月のアフガニスタンでの失敗を繰り返さないためにはどのような法整備が必要なのでしょうか。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、万一「台湾有事」が発生した場合を例に、約2万人の在留邦人をいかに避難させるのかをシミュレート。具体的な事態を想定した上で、相手国(台湾)の了解も得て、自衛隊の派遣はもちろん武器使用も可能な法律にする必要があると提言しています。

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台湾有事と邦人避難

いよいよ国会の論戦でも台湾有事が取り上げられることになりました。

「岸田文雄首相は13日午前の衆院予算委員会で、危機時に在外邦人らを迅速に退避させるため自衛隊法改正などを検討すると明言した。政府は8月にアフガニスタンへ自衛隊機を派遣したが、初動が遅れたとの指摘があった。首相は『さらに改善できないか指示した』と話した。

 

海外からの邦人らの輸送について規定する自衛隊法84条の4を例示し『よく整理する必要がある』と述べた。自民党の高市早苗政調会長への答弁」(13日付日本経済新聞)

私はかねてから台湾有事について、次のように整理しておくべきだと提言してきました。

最も可能性が高く、緊急な邦人避難が必要になる恐れがあるのは、台湾の防空識別圏に侵入した中国軍機と緊急発進した台湾軍機の偶発的な衝突です。そのとき、組んずほぐれつの格闘戦を展開する両軍機が日本の国境線を越えて石垣島、宮古島に雪崩込んでくる場合も考えておかなければならないでしょう。

これに対しては、緊急発進した航空自衛隊機が警告射撃などで退去を求めるほか、普段はスクランブル任務に就いていない嘉手納基地の米空軍戦闘機が、特に退去しない中国軍機を攻撃することも起きる可能性があります。

普通に考えれば、そのまま事態が収まって両軍機は日本の空域から出ていくと思われますが、それで済まない場合、台湾にいる約2万人と言われる日本人の安全を図る問題が生じます。例えば、事態がエスカレートし、その混乱に乗じて親中国の勢力が台湾に傀儡政権を樹立し、台湾のそこかしこで衝突が起きることは充分に考えられます。

そのとき、在留邦人はあらかじめ決められ、訓練したとおりに、まずは所定のシェルターに避難する必要があります。そして、混乱が一定以上は拡大しないと思われた段階で、確保してあるバス、トラックなどで基隆などの港に急行し、これも確保してあるか、日本から派遣した民間船舶で与那国、西表など日本側の島を目指します。

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このような展開だと自衛隊の投入は必要ありませんが、船舶を使った避難に間に合わず、取り残された邦人が出た場合、そして自衛隊の活動が紛争に巻き込まれないと思われる場合、台湾側の了解のもと、自衛隊の輸送機と大型ヘリを投入し、日本側の島に避難させることになります。

また、中国側のハイブリッド戦の動きの中で台湾国内に不穏な空気が立ちこめ、邦人避難が必要だと判断された場合、手遅れになったアフガニスタンからの退避の轍を踏まないよう、まずは民間のチャーター機で多くの邦人を退避させ、やはり台湾側の了解のもとに自衛隊の輸送機と大型ヘリによってピストン輸送することになります。

自衛隊法の改正は、上記のような事態を想定して実効性のある内容で行い、同時に台湾側の了解を得ておく必要があります。武器の使用も、各国の交戦規則(ROE)などを参考に、整備しておくべきです。

むろん、日本、台湾、米国はリアルタイムで情報を共有する体制を構築しておき、ハイブリッド戦の兆しが感じられたら、場合によっては自衛隊と日本を拠点とする米軍部隊が日本と台湾の国境に緊急展開する能力を、日常的な訓練によって中国側に見せつけておき、台湾や日本の離島への手出しを躊躇わせるようにしておくことが基本であることは、いうまでもありません。(小川和久)

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image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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