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サクラ不起訴で逃げ切り成功。はしゃぐ安倍晋三元首相が取るべき「責任」

以前掲載の「安倍氏『桜を見る会』責任は全て秘書。118回の嘘で固めた悪の顔」でもお伝えしたとおり、「桜の会」問題を巡っても頑なに自身の責任を認めない姿勢を貫いてきた安倍元首相。昨年末に東京地検が不起訴としたことで、捜査は終結、安倍氏の罪は問われない結果に終わりました。この決定に異を唱えるのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、当案件の悪質性と元首相の罪の重さを指摘。さらに、政治的な存在感を誇示するかのような言動を繰り返す安倍氏とその内容について、強く批判しています。

【関連】安倍氏「桜を見る会」責任は全て秘書。118回の嘘で固めた悪の顔

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サクラ不起訴の安倍元首相。日本有事を煽るより道義的責任をとれ

御用納めの昨年12月28日、東京地検特捜部は公職選挙法違反と政治資金規正法違反の疑いで告発されていた安倍元首相を、再び不起訴処分とする旨の発表をした。

公的な行事であるはずの「桜を見る会」を、総理大臣があたかも支持者集会のごとく私物化してきた事件の捜査は、安倍氏の後援会代表だった元公設第一秘書を略式起訴しただけで終結するかたちになった。

しかし、これで醜悪きわまる政界劇の幕引きをさせてはならない。アベ・スガ政権でまかり通ってきたウソとゴマカシによる「逃げるが勝ち」の成功法則を打ち砕き、腐敗と堕落の病根を取り除かなければ、この国に民主主義をとり戻すことなどできないからだ。

安倍元首相は、「桜を見る会」前夜パーティーで、参加者が個別にホテルと契約して会費を支払ったなどと、国民を小馬鹿にした荒唐無稽な答弁を100回以上も国会で繰り返した。

2020年2月17日の衆議院予算委員会で、その件に関し野党議員から「事実と違ったらきちんと責任をとられるということですね」と問われた安倍首相はこう答えていた。

「私がここで総理大臣として答弁するということについては、全ての発言が責任を伴うわけであります」

しかし、ウソはすぐにバレる。東京地検特捜部は、2016~19年の政治資金収支報告書に、計約3,022万円の収支を記載しなかったとして、政治団体「安倍晋三後援会」代表の公設第一秘書を略式起訴した。

後援会が訂正した収支報告書によると、例えば19年前夜祭の場合、参加者767人から集めた金額は383万5,000円なのに、約644万円がホテルニューオータニに支出されている。

これにより、実際には一人当たり8,400円ほどかかり、5,000円の参加費では足りない分を後援会が補てんしていたことが明らかになった。そして、ホテルから出ているはずの領収書は無くなったとして「亡失一覧」が添付されている。

これだけの事実があっても、安倍元首相は、議員辞職をすべきという声を拒んだ。その理由について、秘書が事実を隠していたから自分は知らなかったとか、検察が自分を不起訴にしたから問題はないとか言っている。誰がみても、ウソの上塗りであり、ごまかしだ。民主主義国家の国会で首相たるものがウソをつき続けた罪は重い。

モリ・カケ・サクラ。いずれの疑惑でも総理の関与は明らかである。しかるに、安倍氏はいっさい責任をとっていない。それどころか、安倍氏は政治的な存在感を誇示するかのごとき言動を繰り返している。とりわけ「やっぱり、安倍さんだ!」(「月刊Hanada」特集)などと右派論壇を沸かせたのが、台湾防衛に関する対中発言だった。

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昨年12月1日、台湾のシンクタンクが主催するシンポジウムにオンライン参加し「新時代の日台関係」と題して講演した内容の一部。

「中国にどう自制を求めるべきか。私は総理大臣として、習近平主席に会うたびごとに『尖閣諸島を防衛する日本の意思を見誤らないように』、そしてその意思が確固たるものであることを明確に伝えてきました。尖閣諸島や先島、与那国島などは台湾からも100キロ程度しか離れていません。台湾への武力侵攻は、地理的、空間的に必ず日本の国土に対する重大な危険を引き起こさずにはいません。台湾有事、それは日本有事であり、すなわち日米同盟の有事でもあります。この点の認識を北京の人々は、とりわけ習近平主席は断じて見誤るべきではありません」

もし、中国が台湾に攻め込んだら、台湾防衛のため日本は米国とともに戦うという考えを表したものと受け止めることができよう。

その理由としてあげているのは、「尖閣諸島や先島、与那国島などは台湾からも100キロ程度しか離れていない」という地理的な問題のみである。だが、距離が近いからといって、戦争に巻き込まれるとは限らない。例えば朝鮮戦争。日本は経済的利益を除き、なんら影響を受けなかったではないか。

安倍氏は最も重要なポイントを語っていない。安倍政権が憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認し、2015年9月に強行採決の末に成立させた安全保障関連法があるからこそ、「台湾有事は日本有事」と言えるのだ。

集団的自衛権は「存立危機事態」において行使できることになっている。それは「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃により、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるとき」だ。

同盟国である米国が台湾をめぐって中国と戦争をすれば、安保法に基づき、集団的自衛権の名のもとに日本も参戦せざるを得なくなる。そうなると、全国に131か所の米軍基地と、約160カ所の自衛隊駐屯地がある日本の国土が攻撃され、一般市民にも被害が及ぶ可能性が高まる。

ここまで安倍氏が説明すれば、「台湾有事は日本有事」の意味が理解できるだろうし、同時に、戦争を避けるための外交努力がなにより大切だということにも思い至るであろう。

つまり、安倍氏の言う「台湾有事=日本有事」は、一面の事実だが、それに関するきちんとした説明がなければ、可燃性のナショナリズムを刺激し、戦意をあおるだけに終わる恐れがある。

その意味でも、右派論客の異様なはしゃぎようは気になるところだ。安倍発言への賛意は、その分量だけ岸田政権の対中政策批判に向けられる。以下は、「月刊Hanada」に掲載された櫻井よしこ氏と安倍氏の対談の一部だ。

櫻井氏 「岸田政権は中国に甘いのではないか、と見える側面もあります。林芳正外相は11月21日、BS朝日の番組で、中国の王毅国務委員兼外相と電話会談をした際、訪中の要請を受けたと明かしました。外務省は、すでに日程調整に入っていると言います。ウイグルや香港、台湾の例を見るまでもなく、中国は横暴な国であり、尖閣諸島にも毎日のように中国の公船が入っているのに、『いったい何を考えているのか』という気持ちです」

安倍氏 「林外相の真意は分かりませんが、外務大臣という立場上、どんな状況にあったとしても、対話の窓は開けておこうということなのだろうと思います。(中略)いま、日中間にはさまざまな問題があります。だからこそ、外務大臣はチャンネルをつくりながら、対話の窓を開いておく。会談のタイミングなどは状況を勘案しながら決めていけばいいですが、対話の窓を閉じることは、外交上すべきではないと思います」

櫻井氏 「もちろん、対話はすべきですが、なぜ、いま日本が『訪中』する必要があるのか、非常に理解し難い。(中略)日本の外務大臣の訪中は、中国の弾圧政策を支持することになります。岸田政権の対中姿勢に不安感を覚える国民は多いと思います」

安倍氏は岸田政権を支えると言明している立場上、林外相を擁護せざるを得ない。だがそれは、櫻井氏の林外相批判に納得しているからこそ繰り出せる建前論といえよう。

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現実に台湾有事の懸念が高まった今、政界の大立者である安倍氏の発言は、日本国民の一部にみなぎる嫌中感情や好戦的な気分を、いたずらに刺激しているのは明らかだ。平和を守りたい大多数の国民の思いは無視されている。

むろん筆者とて、中国に寛容であるべきとは思わない。ウイグル族への人権侵害、香港市民への弾圧。およそ一流国家とはいえない野蛮なふるまいを続ける中国が、台湾を奪い、尖閣に手を伸ばし、やがてアジアはおろか、世界の覇者になるのでは、などと考えるだけでも気分が悪くなる。そうさせないための外交、防衛、経済戦略が必要なことは言うまでもない。

しかし、戦争は絶対に避けねばならないのである。国民の感情を煽り、メディアの目を曇らせ、軍を“気分本位”の行動に駆り立てることほど無益で残酷なことはない。太平洋戦争において、旧日本軍が夜郎自大の自信、人情過多、希望的観測の迷路をさまよって、合理的作戦を立てられなかったのは、まさに“気分本位”のなせるわざである。

権力私物化の責任をとって議員辞職してしかるべき元首相が、いつまでものさばって、あれこれと現政権の政策に口をはさむような発言をするのはどうしたことか。

安倍氏の政治的言動には、支援者や友人から誉めそやされて満足を得たいという願望が見え隠れする。やれ台湾有事、日本有事と勇猛心を鼓舞する軽々しさも、モリ・カケ・サクラといった数々の疑惑も、全て同じ根っこから生まれているように思えてならない。

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image by: 首相官邸

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