オミクロン株の急拡大により、新型コロナウイルスの検査キットの不足問題が浮上。政府は検査なしでの陽性判定に言及するなど、混乱の様相を呈しています。2年も続くコロナとの戦いのさなかに、なぜこうした事態が生じてしまうのでしょうか。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、日本人に戦略的ロジスティクスが欠けているためと解説。コロナ対策だけでなく、ウクライナ情勢や台湾有事論においても、現実的な分析のためにはロジスティクスの面から見る必要があると鋭く指摘しています。
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ロジスティクスからコロナ、ウクライナ、台湾を眺めると
1月29日朝、ジャーナリストの柴山哲也さんのツイートを読んで、コロナ対策からウクライナ情勢や台湾有事論まで、様々な思いが頭の中を駆けめぐりました。まずは柴山さんのツイートから。
「抗原検査やPCR検査キットはワクチンと違い国産のはずだから政府の指導で量産は可能のはず。非常事態宣言出せば指令は可能だろう。自由の国アメリカには国防生産法があり国の非常事態には大統領令でワクチン等の戦略物資の緊急増産ができる。日本はなぜ検査キット増産を業界に指示できないのか」
まったく同感です。それに、実を言えばわが家の食卓でもカミさんから同じ感想が漏れており、国民の多くも同じ思いなのではないかと感じました。
今回の有り様を戦場に置き換えると、コロナの奇襲から反撃に転じるのに大幅な後れをとった日本が、戦闘が始まってからも必要な武器・弾薬の調達・確保を怠り、再び劣勢に追い込まれているのに等しい無様さと言えます。
こんなことになるのは、厚生労働省の官僚の視野の範囲でしか問題を眺めていないからです。広い視野の官僚が担当すればともかく、普通は自分のデスクの上でしか物事をとらえられないので、国家としての戦略的思考にならないのです。同じ問題はワクチンの生産にも通じることですが、これは日本人が苦手な戦略的ロジスティクスの問題なのです。そんな官僚機構に丸投げでは戦略など描くことなど無理といわざるを得ません。
ウクライナ情勢も然りです。
「米国のオースティン国防長官は28日、ウクライナ国境周辺に集結した10万人規模のロシア軍は『複数の都市や大規模な領土を奪取可能だ』と述べ、プーチン大統領の決断で侵攻が可能な状態だとの認識を示した」(28日付共同通信)
ウクライナ情勢について、マスコミでは3方向からのロシア軍の侵攻ルートが図示され、脅威を掻き立てていますが、私の同僚の西恭之さん(静岡県立大学特任准教授)は「トラックを数えればロシア陸軍の外征能力がわかる」(1月17日号)で、集結したロシア軍部隊のロジスティクス能力を見ると、侵攻できるのは国境から100キロ圏と分析しています。
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その条件を補助線として眺めると、3ルートのうちウクライナの重要目標への侵攻の可能性が現実味を持つのはベラルーシ国境から首都キエフをうかがうルートです。
これなら他の2ルートのように100キロ圏を越えて兵站の問題で作戦が頓挫したり、ドニエプル川の渡河作戦で阻止されたりする恐れもなくなります。軍事作戦の条件となる地面が凍結する短期間の決戦も可能です。
だからこそロシアはベラルーシとの大規模軍事演習を2月に計画し、強い圧力を加えようとしていることがわかります。これに加えて黒海沿岸のオデッサ周辺への強襲上陸作戦の構えも、圧力の一環として無視できないレベルになるでしょう。
このように、ロジスティクスの面から眺めると違った風景が見えてきます。
それなのに、いまだに台湾有事について、中国の海上輸送能力や台湾側の上陸適地という本格的な上陸作戦の条件がすっぽり欠け落ちた議論が横行しているのは、どうしたことでしょう。
日本は、戦略的にロジスティクスを考えることの重要性を第二次大戦の教訓から学んでいないと言わざるを得ません。
コロナもウクライナも台湾も、日本を戦略的に鍛える教材ばかりです。岸田文雄首相も、高市早苗自民党政調会長も、そういう角度から国家の司令塔機能を機能させてもらいたいものです。(小川和久)
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