脱中国を明確化し事実上の「台湾大使館」を開設したリトアニア。数多くの小国が習近平政権のカネの力に屈する中、なぜリトアニアは公然と中国に反旗を翻すような行動を取るのでしょうか。今回の無料メルマガ『【今アメリカで起こっている話題を紹介】欧米ビジネス政治経済研究所』では同研究所代表理事で経営コンサルタントの林大吾さんが、リトアニアが何より人権と自由を尊重するに至った歴史を紹介。さらに民主主義の衰退が叫ばれる今こそ、世界は行動の本質に「確固たる人道主義」があるリトアニアに学ぶべきとの意見を記しています。
民主主義の衰退を防ぐなら、リトアニアから学べ
今、アメリカでは、バイデン政権が中国、ロシア、イランなどの専制主義国家をコントロール出来ない状況をみて、「民主主義の衰退」「リベラルな国際秩序の崩壊」と言った論調が起こっていますが、そんな時にこのリトアニアを見て思う事は、勿論リトアニアにも計算はありますが、計算以外の、この行動の本質に、アメリカの政権がとうに無くしてしまった「確固たる人道主義」がある、ということです。
リトアニアに対して思うこと
私はリトアニアには、主都のビィリニュスは勿論、一度はエストニアのタリンから、ラトビアのリガ、そしてクライペダからヴィリニュスまで車で回ったことがあるくらい何度も仕事で訪れたことがあります。そこで感じたことは、リトアニアの、権威主義の大国から受けた圧政や弾圧への記憶は全く過去のものにはなっていない、ということです。
まず、1940年にソ連に占領されてから1950年代までのスターリンの時代の苦しみですね。罪を犯さなくても、共産主義にとってマイナスと思われたらそれだけで逮捕されて収容されるという時代がありました(当時はシベリア送りでした)。
その後も厳しい政治的弾圧は1991年の独立まで続き、50年以上、専制主義、共産主義の弾圧と戦った歴史があり、その独立も、旧ソ連加盟国の中で最も早く独立を宣言したはいいものの、ソ連の強力な弾圧を受けて戦車の下敷きになる市民が出ながらも、決して弾圧に挫けずに勝ち取った自由です。
リトアニアの脱中国行動のきっかけとアメリカでの民主主義の衰退
そんな中で、今回の脱中国へと大きく舵を切った最大のきっかけは、2019年に起こったビリニュスでの中国人の暴動と言われていますが、実は、中国の香港への弾圧を目の当たりにしたことが大きかったと思います。
現政権発足の直前、2020年の7月から国家安全維持法が制定され、徹底的に自由を求める香港市民が弾圧される映像が毎日世界中に流されました。あれを見て、自分たちと重ね合わせたリトアニア人は少なく無かったと思います。
それだけでなく、チベット、ウイグルがあり、そして今渦中の台湾です。リトアニアは、現政権発足直後の2020年11月9日に、「人権や民主的自由のいかなる侵害にも積極的に反対していく。ベラルーシから台湾まで世界中で自由のために戦う動きを擁護していく」ということを表明しています。
今、台湾が同じ状況に置かれている中で、まさに台湾はリトアニアと一緒である、という思いは非常に強くて不思議は無いと思います。
冒頭申し上げたとおり、今、アメリカでは民主主義の衰退と言われだしていますが、アメリカも、人権問題に毅然と対応、と言いながらも、アメリカの優先順位は、安全保障上の問題、若しくは経済問題で、それが自国優位に動く前提である、という本音が透けて見えることが、権威主義国家に多国間的な世論形成で勝てない理由の一つでは、と思います。
リトアニアの行動を参考にしつつ、民主主義陣営が優位に立つ為の、基本的な外交戦略を見直す機会にしてほしいと思います。
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