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Xデーは2月21日?北京五輪閉会翌日に決まる「ウクライナ危機」の行方

各国首脳や外相が最悪の事態を回避すべくプーチン大統領と交渉を重ねるも、一向に出口が見えてこないウクライナ危機。我々はこのまま座して成り行きを見つめるほか手はないのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、対ロシア交渉の戦略についてアドバイスを求めてきたという、“とあるリーダー”に向けレクチャーした内容を紹介。ロシア側に選択を迫る3つのオプションを、誌上で特別公開しています。

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ウクライナ情勢、もしプーチン大統領と交渉するなら?

先週号でもお話いたしましたが、ウクライナ情勢をめぐる欧米諸国とロシア・ベラルーシとの対立は日に日に緊張を高め、双方に対する非難合戦が激化しています。

ベラルーシ国内で行われたロシア軍とベラルーシ軍との合同演習が終わり、ロシア軍が撤退を始めたという情報が流れたり、16日にはロシアはウクライナに侵攻するらしいという噂が流れたりと、情報面でも混乱が深まり、ウクライナ情勢は当事者と周辺国、そして世界のマーケットを巻き込んだ心理戦の様相も強まってきました。

ロシア軍の“撤退”については、どの観点から見るかによって分析は変わりますが、ロシアはただ単に軍の再編成・再配置を行っているだけで、実際にはウクライナ包囲網は変わっていません。

欧米メディアが伝えるとおり、確かにいつでもウクライナに北側・東側・南側の大きく分けて3方面から侵攻が可能になる陣形を取っていると言えます。

とはいえ、さすがプーチン露大統領。軍事的な圧力をかけ、目先を変えつつも、いつでも侵攻できる状態をキープしつつ、外交的な解決、つまり交渉も諦めていません。

これまでのところ、マクロン仏大統領のモスクワとキエフ訪問に始まり、英国外相とラブロフ外相との外相会談、ドイツのショルツ首相のモスクワ訪問、そしてジュネーブで継続される米ロ外相会談、さらには電話会談という形式ながら、米ロ首脳会談も行われています。

欧州の首脳・外交筋は、「ロシアとの対話によって緊張緩和への道筋を開いた」とそれぞれの“調停”努力の成果をアピールしていますが、実際のところ、上手にプーチン氏の掌の上で踊らされ、ロシアに時間稼ぎのタイミングを与えているように思われます。

その間に真偽が分からない情報が乱れ飛び、世界はロシアが演出するショーに右往左往させられています。結果的に、最近ずっと脆弱でかつ不安定だったエネルギー価格が乱高下を繰り返し、各国の株式市場では投資家たちが見事に情報と、それによって作られる印象と心理に踊らされています。

見事にハイブリッド戦争を展開しているわけです。2014年のクリミア半島事変の再来です。

そのような中、「もしあなたがプーチン露大統領を相手にウクライナ情勢の解決について話し合うのであれば、どのようにするのか?」とアドバイスを依頼されました。

具体的な相手は明かせないのと、どちらかというと中立の調停人というステータスを好むものとしてはなかなか困難な宿題だったのですが、以下のように戦略を描いて見せました。

具体的な内容については明かせないのですが、要点のみをご紹介いたします。

「あなたは交渉の相手であって、決して本件の調停人ではないことを自覚してください。つまりロシアとアメリカ、欧州各国との間に立って、本件を仲裁する立場にあるのではなく、NATO加盟国のリーダーとして、NATOとしてのポジションを代表する立場にあることを肝に銘じてください。決して調停人のようにふるまわないことです。調停プロセスは、UNやOSCEのような“中立”である国際機関や、スイスのように永世中立の立場を堅持する国、もしくはプロの調停人に任せてください」

このように「立ち位置」の再確認をしました。これは、マクロン大統領をはじめ、これまでにモスクワやキエフを訪れたリーダーたちがものの見事に調停役を買って出て、プーチン露大統領などの戦略に踊らされたのを見た結果、たどり着いた“あるべき立ち位置”です。

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そのうえで、整理しますと、以下のような分析を行い伝えました。

「まだ現時点では対ロシアのプレッシャーを弱めることはせず、可能な限り、軍事的な対峙も含めて、圧力をかけ続けるべきです。いろいろな分析から分かってきたのは、ロシア軍のプレゼンスは減っておらず、いつでも作戦を実行できるステータスが維持されていますが、準兄弟とも例えられる中国の北京で現在、オリンピックが開催中で、その成功に投資している習近平国家主席の顔に泥を塗ることになる、つまり国際的なattentionを取り上げてしまうようことになる軍事的作戦の遂行をプーチン露大統領が命令することはありません」

「ですが、北京冬季オリンピックが閉会した次の日、2月21日を機に、ウクライナ情勢に対するロシアの姿勢が見えてきます。ウクライナ侵攻に向けた動きが本格化し、もしかしたらロシア軍が国境を越えてウクライナに侵攻することもありますが、もしこの日にもまだロシア側が皆さんとの交渉のテーブルに就く姿勢を維持しているのであれば、まだまだ武力紛争に発展するという最悪の事態を避けるための交渉に、チャンスが与えられることになります」

「その際には軍事的な緊張がかなり高まっていることになりますが、こちら側から話し合い、つまり交渉のためのチャンネルを閉ざすことはしないでください。最悪の事態を防ぐための最後のチャンスであると覚悟し、プーチン露大統領との交渉機会を作るように働きかけましょう。その際には、緊張緩和のため、最悪の事態を回避するための最後の機会であることを強調して臨みますが、ぜひ解決のための選択肢を示してください。その際、繰り返しますが、絶対に調停人的なマインドセットにはまらないようにすることが大事です。あくまでも交渉相手という立場であることを言い聞かせてください」

「ロシア側に選択を迫るオプションですが、私は大きく分けて3つあると考えます。

1つ目は、【平和のためのパートナシップ形式】で、オーストリアのケースがこれにあたります。ウクライナはNATOとの枠組み合意を締結するにとどまり、NATOへの加盟はしないというものです。

このケースの場合は、オーストリアがそうであるように、NATO加盟国の軍はいかなる理由においてもウクライナ領内を通過・利用することは許されないことが確約され、それをロシアにも約束させることで、ウクライナを不可侵の中立ステータスに置くという落としどころと考えられます。いわゆる【緩衝地帯化する】提案です。

2つ目は、【ウクライナのNATO加盟を認めるかわりに、ウクライナ国内にNATOの軍事基地を設置しないという合意】です。

これは、東西ドイツが再統一された時に使われた2+4合意(東西ドイツ、米国、フランス、英国、ロシア)の方式が参考になります。

確か西ドイツは1955年にNATOに加盟していますが、1990年に西ドイツに東ドイツが加わって1つのドイツになった際に、旧東ドイツ側にはNATO軍基地を設置しないという合意がなされたと記憶しています。もし間違いであれば、引用は控えますが、ただ【加盟は許すが、基地は設置しない】という選択肢が有効であるのなら、それは日本の北方領土問題交渉の解決オプションとしても使えるかもしれません」

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「3つ目は、【ウクライナのNATO加盟問題を議論の対象から除外し、関係国間での合意内容は、合意に参加するすべての当事国の現状の保障および安全の保障を確約することを明示する】ということ内容です。

これはウクライナの不可侵と主権の保全の確保に貢献すると考えられますが、ロシア側がウクライナ領内におけるロシア系住民(主にウクライナ東部やクリミア半島)の権利の保護を交渉のテーブルに挙げてきた場合、NATO側のスタンスが一枚岩でない場合、ロシアの時間稼ぎになります。

またこれは同時に、ウクライナだけでなくジョージアの加盟の道を閉ざし、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やポーランド、ルーマニアなど、ロシアに隣接する国々からのNATO軍の撤退とミサイルなどの撤去という要求を、ロシア側が国家安全保障を脅かすものとの観点から主張した場合、それをNATOが受け入れられなければ、合意は成立しないと考えられます。

それぞれのオプションには様々なバージョンが考えられますが、大きく分けてお話しした3つの方向性が存在し、“最後”の交渉のテーブルに載せられているべきものかと考えます。

オプション(選択肢)はこちらが用意し、それをプーチン露大統領に選んでもらうというスタイルが適切かと思います。選択が決まったら、それをベースに詳細な内容を詰めるように導くことが出来れば、軍事的な衝突はlast minuteで回避でき、あとは交渉の役割になるでしょう」

このような提案をしてみました。実際の内容から諸々の詳細を省いていますので、要約になってしまいますが、概ねの感じは伝わりましたでしょうか?

最後に私から皆さんへの質問です。仮にこれらの3つの提案が交渉のテーブルに挙げられた場合、皆さんがプーチン露大統領の立場であればどれを選択しますか?

そして、これらの提案を受け取るリーダーの立場にいらっしゃったら、皆さんならばどうされるでしょうか?

次回号がお手元に届くまでには事態は急転しているかもしれませんが、もし間に合えば、ぜひ皆さんのご意見を窺えればうれしいです。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2022年2月18日号より一部抜粋。この続きをお読みになりたい方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Photographer RM / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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