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ロシアが「泥将軍」に苦戦。日本が国土を守るために学ぶべきこと

ウクライナに侵攻したロシア軍が徐々にキエフまでの距離を縮め、予断を許さない状況が続いています。ただし、その進軍速度はプーチン大統領とロシア軍が思い描いていたよりかなり遅いと伝えられています。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、軍事アナリストの小川和久さんが、ロシア軍の苦戦の原因は「泥将軍」との戦いにあると指摘。日本を守る自衛隊もこの戦いを教訓として、実戦を見据えた演習を計画すべきと伝えています。

ロシア軍が足を取られた「泥将軍」という大敵

原発攻撃、人道回廊、亡命政権への言及…と、ウクライナをめぐる情勢はめまぐるしく変わり、それを追いかけていると目が回りそうになります。その中から、日本の安全保障に関係する教訓を学ぶとしたら、一体なにがあるでしょうか。

一つだけ選ぶとしたら、机上の軍隊であるほどに「泥将軍」に足をすくわれる、という問題かも知れません。「泥将軍」の恐ろしさを知っている研究者は皆無、海上自衛隊、航空自衛隊でも知っている人は限られるでしょう。陸上自衛隊だって、実際に経験した人は少ないと思います。

泥濘地では、キャタピラを履いた戦車や歩兵戦闘車、自走砲でも慎重に操縦しないとスリップして、お尻を振りまくることになります。まして、装輪装甲車やトラックは、たとえ全輪駆動であっても、そして6輪、8輪など全輪にタイヤチェーンを巻き付けても、スリップして横転することさえあります。装輪装甲車が戦車に随伴しようとすれば、部隊としての進撃速度を極端に遅くしなければなりません。

ウクライナの首都キエフを目指してベラルーシから南下したロシア軍部隊は、特に緒戦で「泥将軍」の問題に直面しました。原野や村落の間の未舗装の道路を使って多方面からキエフを目指すことができず、主要な接近経路として限られた幹線道路を使わざるを得なかったのです。当然、車両がひしめき合いますから進撃の速度は遅くなります。

ロシア軍の進撃ルートが絞り込まれ、速度も遅くなるほどに、それを足止めするウクライナ側の遅滞行動も効果を上げるようになっていきます。

ここに自然発生的な「歩戦分離」という条件が加わります。歩兵が随伴していないと戦車は裸同然となって本来の打撃力を発揮することができません。戦車の至近距離から対戦車火器を撃ち込まれ、背後から火炎瓶で攻撃されれば、いかに防護力に優れた戦車であってもひとたまりもありません。そうした肉迫してくる敵を排除するのが戦車に随伴する歩兵の重要な役割なのです。

守る側は、当然、戦車と歩兵を引き離して、それぞれの弱点を攻撃しようとします。これが普通に言う「歩戦分離」ですが、今回は、それが泥濘地によって引き起こされたのです。

キエフ正面では幹線道路に部隊が集中して進撃速度が落ちている。その状況を打開しようとして、キャタピラを履いた戦車や歩兵戦闘車が十分な歩兵を伴わないで原野を走って進んでくると、ウクライナ側の遅滞行動の餌食となる、ということなのです。

海外のメディアに登場した専門家のコメントでも、ロシア軍が泥との戦いに難渋していると指摘したのは英国陸軍のトップのOBくらいでした。

だからこそ、ロシアのウクライナ侵攻は道路も原野もカチカチに凍る厳冬期になるだろうと予測され、ロシア側も同じように考えていたはずです。しかし今年は暖冬で、キャタピラの車両が走った後の原野は泥濘地になる悪条件で、「泥将軍」との戦いは避けられなかったのです。

そこで日本です。ロシア軍が北海道などに上陸侵攻してくることは海上輸送能力や航空優勢の問題から基本的にはありませんが、それでも陸上自衛隊はロシア軍のウクライナ侵攻を踏まえた演習を、矢臼別演習場の泥濘地でやる計画を練っていなければなりません。

平和が続くことは素晴らしいことですが、その中で軍事組織は「机上の軍隊」と化し、ややもするとハイテク装備が充実していく反面、「泥将軍」を実感することがなくなる恐ろしさが出てきます。演習では、泥にまみれることのない海上自衛隊、航空自衛隊も交えて、ウクライナの教訓に学んでもらいたいものです。多分…、今年の6月頃には実施されるでしょう。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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