日々激しさを増すロシアによるウクライナ侵攻。アメリカは一貫して参戦する意思を示さず、経済制裁をするのみにとどまっています。建前としての理由は伝わってきますが、その裏にはどんな意味があるのでしょうか?そんな世界平和の神話が崩れようとしている中、今回のメルマガ『1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』』では、 今こそ知るべき「安全保障」について詳しく解説した一冊を紹介しています。
【一日一冊】言ってはいけない!?国家論
『言ってはいけない!?国家論 いまこそ、トランプの暴走、習近平の野望に学べ!』
渡部悦和 , 江崎 道朗 著/扶桑社
ロシアのウクライナ侵攻もあり、安全保障について勉強したくて手にした一冊です。著者の渡部さんは、陸上自衛隊のキャリアで外務省出向も経験し、東部方面総監で退職。その後、ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー、日本戦略研究フォーラム・シニア・フェローを歴任しています。
印象的だったのは、トランプ大統領が誕生した後の2016年頃、著者はハーバード大学で安全保障を議論していましたが、当時のハーバード大学は親中派の巣窟であったということです。つまり、国際協調主義、グローバル化を進め中国の平和的成長を信じるリベラリズムを信奉する学者が多かったということです。
その証拠に、「中国の平和的台頭なんてあり得ない」と主張したハーバード大学のミアシャイマー教授が、シカゴ大学に飛ばされています。アメリカには、パンダ・ハガー(親中派)とドラゴン・スレイヤー(対中強硬派)があり、対立しているのです。
著者の渡部さんはハーバード大学の中で、「中国に覇権の意思がない」のは本当だろうか、と質問して議論をしていたという。すると中国から派遣されている教授やスタッフから監視されるようになったという。アメリカにも中国の工作活動が浸透しているということなのです。
ミアシャイマー教授は…「米中対立は不可避である」という指摘をした…そのミアシャイマー教授が出ていかざるを得ないほどハーバード大学には親中派が多い(江崎)(p19)
さらに驚いたのは、日米同盟とは決してイコールパートナーではない。日本は米国の従属国であるという事実です。なんとなくわかってはいましたが、改めて明確に説明されると驚きました。
著者がアメリカの米軍関係者から教えてもらったことでは、日本では評価の高い中曽根総理は「ロンヤスの関係」「日米はイコールパートナー」などと発言していましたが、アメリカの評価は中曽根総理はアメリカに守られている従属国という日本の立場がわかっていないのではないかと、不評だったというのです。
逆に小泉総理や安倍総理は日本の従属国であるという立場を理解したうえで、うまくアメリカを持ち上げて利用したしたたかな政治家と評価されているというのです。
例えば、小泉総理は北朝鮮から拉致被害者の一部帰国を実現しましたが、万が一のときにはアメリカが爆撃するというところまでアメリカ政府が支援していたのです。
さらに変わり者のトランプ大統領から信頼された安倍首相は、したたか、かつ偉大な政治家であったということなのでしょう。
Japan-US Alliance、日米同盟…アメリカの政治家や軍幹部たちが使うAllianceっていう言葉は、従属国っていう意味合いが含まれているんだよ(p78)
この本で語られるのは、アメリカ、イギリス、ロシア、インド、中国の国際政治、インテリジェンス業界での存在感に比べ、日本の存在感がほどんとないということです。著者はこれまでの経験の中で、米英、米中、米ロ、米印の関係がいかに深く、人材が厚いのか、思い知らされてきました。
そうした国家群にくらべて、日本では国会議員やスタッフが安全保障について、基本的なことから肝心なことまで、まったく知らないという体たらくです。世界には日本とまったく違う価値観で生きている人たちがいる、という著者の言葉が、今回のロシアのウクライナ侵攻を見て納得しました。これまでは憲法改正、自衛力強化、核兵器などはタブー視されてきましたが、やっと普通の議論ができる環境ができてきたということでしょう。
最後に著者の推奨は、習近平に学ぶことです。いくら国際社会から批判されても、スパイが何名捕まろうと、工作活動、サイバー攻撃、軍備拡張をやめない。国民全員をスパイにしてまで中国の夢、国家目標、国益を達成するために、必死に行動しているのです。日本も国際社会のリアリズムに目覚めないとウクライナのようになってしまうかもしれないと感じさせてくれる一冊でした。
渡部さん、江崎さん、良い本をありがとうございました。
【私の評価】★★★★★(93点)
<私の評価:人生変える度>
★★★★★(お薦めです!ひざまずいて読むべし)
★★★★☆(買いましょう。素晴らしい本です)
★★★☆☆(社会人として読むべき一冊です)
★★☆☆☆(時間とお金に余裕があればぜひ)
★☆☆☆☆(人によっては価値を見い出すかもしれません)
☆☆☆☆☆(こういうお勧めできない本は掲載しません)
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