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小泉悠氏が解説。苦戦するロシアと粘るウクライナで「踏み込めない西側」の見えぬ出口

ロシアがウクライナ侵攻を開始してから1ヶ月。ウクライナの粘り強い抵抗により、将官が7人も死亡するなどロシアが苦戦し一進一退と見るのは、ロシアの軍事・安全保障政策が専門の軍事評論家・小泉悠さんです。今回のメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』では、海外の情報機関やニュースサイトが伝える情報を分析。この先の戦いのカギとして、ロシアに対し譲歩しない代わりに、ゼレンスキー大統領が求める強力な軍事的支援にも踏み込めずにいるNATOが、4月の会合で具体的な支援策を出せるどうかに注目しています。

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※ 本記事は有料メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年3月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール小泉悠こいずみゆう
千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

 

苦戦続くロシア、粘るウクライナ、踏み込めない西側

開戦1ヶ月で戦況は一進一退

ウクライナでの戦争は、開戦から1ヶ月を経ました。当初の予想を大きく裏切ってロシアはウクライナを攻めあぐね、戦争の出口はいまだに見えてきません。

この状態が膠着を意味するかどうかはまだわからないと前号(第169号(2022年3月21日)ロシアの非核エスカレーション抑止攻撃|note)では述べましたが、それから1週間を経ても、戦況は大きく変わっていません。相変わらずキーウやハルキウは陥落せず、むしろ前者の周辺ではウクライナ軍が部分的に反撃に出てロシア軍に防勢を強いてさえいます。

米国防総省によると、ロシア軍はキーウ北西部15-20km地点で前進を止め、塹壕を掘って防勢に入っており、東部では20-30kmまで迫っていたロシア軍が55kmのところまで後退したとされています。
Battle in Eastern Ukraine Heats Up as Russians Are Driven Back East of Capital > U.S. Department of Defense > Defense Department News

また、ベルジャンスクでは何らかの手段でロシア海軍の揚陸艦を撃沈するという成果を挙げたらしいことはNEW CLIPSのコーナーで紹介したとおりであり、さらに3月25日には6人目の将官(南部軍管区第49諸兵科連合軍司令官のヤコフ・レゼンツェフ中将)が戦死したという情報も出回りました(これ以外に国家親衛軍の将軍も一人戦死しており、ロシア全体では計7人)。ウクライナ軍がロシア軍の攻勢を凌ぎながら、可能な範囲で逆襲を続けていることが見て取れます。
ロシア軍将官7人死亡、1人解任 西側当局:AFPBB News

また、ロシア軍に関する公開情報分析で有名な『インフォルム・ナパーム』は、戦死した兵士に贈られる勲章のシリアルナンバーから判断するに、ロシア軍の戦死者は最初の1週間だけで4800人近くに上っていた可能性を指摘しています。
Medal count: OSINT analysis of real Russian losses for the first week of hostilities in Ukraine – InformNapalm.org

ただし、米国防総省によると、ロシア軍はアゾフ海に臨む要衝マリウポリの市内にまで侵入しているほか、東部のドンバス地方でも活動を活発化させているとのことです。また、ウクライナも占領地域を大幅に奪還できるほどの大攻勢に出られているわけではありません。3月28日はウクライナ軍が北東部のスムィでロシア軍の大隊戦術グループ(BTG)を撤退させたとされていますが、米戦争研究所(ISW)は再編成のための撤退であったとしています(それでもBTGを丸ごと撤退させるのはこれが初めてのようですが)。

全体として言えば、戦況は一進一退で、どちらも決め手を欠く状況が続いているということになるでしょう。

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西側の圧力は強まるが…

こうした中の3月24日、ベルギーのブリュッセルでは3つの首脳級国際会議が開催されました。NATO、EU、そしてG7の緊急首脳会合がそれで、議題は当然、ウクライナ問題に集中しました。

まずNATOについて見てみると、加盟30カ国の首脳はロシアのウクライナ侵略を強く非難するとともに、即時の停戦とロシア軍の撤退を要求。さらに「各国が外部からの干渉なしに安全保障上の取り決めを選択できる」という原則を確認するとともに、ワシントン条約第10条に基づく「NATOのオープンドア政策」を再確認すると明言しました。ロシアの侵略を受けてもNATOの東方不拡大には同意しないということです。
NATO – News: Statement by NATO Heads of State and Government – Brussels 24 March 2022, 24-Mar.-2022

他方で、実力でロシアの侵略を排除するという文言はここには見られません。ロシアが世界最大級の核保有国であることを考えるとこれは当然とも言えますが(つまり、NATOが介入すれば第三次世界大戦になってしまう)、ウクライナのゼレンシキー大統領(ビデオ参加)が求めた戦闘機供与などのより突っ込んだ軍事援助要請についてもなんら明確な回答は盛り込まれませんでした。

これに先立つ16日、米メディアではスロヴァキア政府が旧ソ連製のS-300長距離防空システムをウクライナに供与する準備があるという消息筋の見方が報じられており、今回の緊急首脳会合では何らかの成果があるかとも思われたのですが、結局そこまでは踏み込まなかったということでしょう(ただしNATOの共同声明では4月に外相会合を開き、ロシアの侵略に対抗するための具体的な支援案について話し合うとしている)。
Slovakia preliminarily agrees to send key air defense system to Ukraine – CNN

この点はEUやG7についても同様で、ロシアに対するさらなる制裁の強化は打ち出されたものの、今進んでいるロシアの侵略を止めるために強制力を発動するという話にはなっていません。(メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年3月28日号より一部抜粋。全文はメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』を購読するとお読みいただけます)

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image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

 

ロシアの軍事や安全保障についてのウォッチを続けてきました。ここでは私の専門分野を中心に、ロシアという一見わかりにくい国を読み解くヒントを提供していきたいと思っています。

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