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「最悪の気分」母国を愛するロシア人たちを板挟みにさせたウクライナ侵攻

ロシアがウクライナに侵攻してから1カ月以上が経過しました。さまざまな協議が行われているものの、依然として停戦に向かう雰囲気はありません。そんなロシアに対して、母国を出て海外で暮らすロシア人たちは悲痛な思いを抱いているようです。そこで今回は、メルマガ『出たっきり邦人【北米・オセアニア編】』の中で、カナダ在住のミセス・サンシャインさんが、争いの渦中にいるロシアについて紹介しています。

カナダ・ブリティッシュコロンビア州【日付変更線の向こうから】17号 ロシアより愛を込めて

世界中に混乱と恐怖を巻き起こしたコロナ騒ぎもまだ落ち着かぬうちに、ロシアがとうとうウクライナに軍事侵攻を決行し、人類の負の歴史にまた一つ大きな足跡を残してしまいました。

ウクライナ侵攻が始まってから早1ヶ月が経ち、ウクライナの必死の抵抗やロシアへの国際的な圧力にも関わらず、私がこの記事を書いている3月末の時点では撤退どころか停戦の兆しさえ見えず、死者数は2万人を超えています。

第二次大戦下の日本やナチスドイツも、国際社会においては今のロシアのような状態だったのでしょう。その結末は悲惨なものでした。だからこそ、私たちは歴史に学ばなければなりません。え、軍事侵攻?戦争?いつの時代の話?ってならないと…。

が、プーチンや他の独裁者、欲深く好戦的な政治家達は自分勝手な愛国心と正義を掲げ、帝国主義に向かって暴走機関車のように驀進していくのですね。

突っ走ってる方は気持ちが良いかも知れませんが、暴走機関車に乗ってる乗客、つまり国民はたまったものではありませんよね。軍事侵攻によりロシアも大打撃。逆に国民にとってどんな利点があるのか、学の浅い私の脳みそでは想像がつきません。

そして多くのロシア人は、自分達の祖国が親類国とも呼べるウクライナに対して仕掛けた戦争を、恥ずかしく悲しい気持ちで見ています。

ウクライナ侵攻が始まって数日後のこと、用事があって久しぶりに友人に電話をしました。話し出すなり彼女は

「え、元気かって!?そんなわけないわよ~!最悪の気分!ロシアがあんなことするなんて、ホント有り得ない!バカよ、狂ってる!」

と興奮して話しだし、あ、そうだった彼女はロシア出身だったわ。と思い出しました。

カナダ人の夫との結婚を機にロシアから引っ越して来た彼女とは、私がウィスラーに来て以来ずっと、沢山の事を話し合える良い友人です。

思いやりと行動力があり頑張り屋の彼女は数年前にカウンセラーの資格を取り、そしてカナダの国籍も取得しました。彼女がまだロシア国籍だった頃に私が、「ロシアに里帰りとかする?」と聞いた時に

「うーーん、、まだちょっと怖いかな。何かあってカナダに戻って来れなかったりしたら怖いし」

とさらりと答えたことにゾッとしました。え、まだそんな感じなの?それともあなた、まさかスパイ(鍛えられた身体の金髪美女で数カ国語を話す彼女はまさにボンドガール)!?

でも国の政治体制はさておき、私は彼女や、これまでに会った数人のロシア人達との経験に関して言えば、嫌な思い出は残っていません。

残念ながらロシア国内をゆっくり旅したことは無く、何度か乗り継ぎでモスクワの空港を訪れただけなのですが、それだけでも、いくつか面白いエピソードは心に残っています。

今からもう20年くらい前になりますが、当時添乗員としてヨーロッパに旅をした時のこと。格安のツアーでは時々ロシアのアエロフロート・ロシア航空を利用することがありました。

古い機体、なんだかよく分からない外国語(ほぼロシア語)映画、ひんやりと暗く小さなモスクワ空港での乗り継ぎ、コロコロ変わる搭乗案内。スーツケースに鍵をかけるだけでなくしっかり梱包しておかないと度々中身が盗難に遭うし、自社の便の遅れが原因なのに乗り継ぎ便がさっさと出発しちゃって大騒ぎになったり。

それだけで共産圏情緒たっぷりですが、一見愛想も何も無さそうなロシア航空のサービスも、実はそれなりに楽しいものでした。

例えば機内エンターテイメントの映画!英語の吹き替え付きロシア映画(ドラマ?)があったので見てみたのですが、吹き替えの声がずっと同じ人!男性のセリフも女性のセリフもずっと同じ女性が、しかも棒読み状態で吹き替えてる(笑)!

なので最初はそれが吹き替えとは気付かなくて、「何この声?」と聞きながら見ているうちに「これ、まさかセリフ!?」って気付いてビックリ&大ウケ!色々な航空会社のフライトを体験しましたが、こんな投げやりで笑えるエンターテイメントは希少です。

機内食やサービスは北米系航空会社並みで、アジアやヨーロッパの航空会社に比べるとお世辞にも良いとは言えませんが、機内食にいつも必ず入っているポテトサラダだけは酸味の強さがやけに美味しくて印象に残っています。

後で知ったのですが、ロシアは世界トップのマヨネーズ大量消費国で、ポテトサラダも「ロシアンサラダ」と欧米では呼ばれており、本国ではなんと「オリヴィエ・サラダ」という美しい名前を持っています。

私の友人のロシア人もポテト料理が得意。根菜が大活躍するのは北国ならではの食文化ですね。そしてこの芋文化(?)はロシアを代表するお酒、ウォッカにも活かされます。

ウォッカは麦やトウモロコシを原料としたものが主流ですが、ロシアの中でも寒冷地では芋を原料としたウォッカが作られます。

このウォッカに関しても、ほんわかした思い出が。ある時、モスクワ空港での乗り継ぎ時間が長すぎるため、空港ホテルにて一夜を明かすことになりました。

ところが、観光ビザを持っていない私のグループはホテルステイこそ許可されたものの、ホテルの部屋とそのフロアから一切出てはならず、パスポートもフロントで全て回収されてチェックアウトまで預けることになりました。

誰も勝手に動き回らないように、空港からホテルのフロアまでずっと物々しいガード付き。添乗員である私は、お客様の部屋に不備が無いことを全て確認して自室に戻り、レポートを書きます。その後もなんとなく眠れずに、フロアに出てみました。

誰もいなくなった廊下を歩いた先に守衛さんの部屋があり、そこにはいかにも“屈強なロシアン”といった風態の守衛が1人。挨拶をすると「なんだ?」と厳しい顔を上げて私を見たのですが、その後ろにはウォッカの瓶が。

「眠れなくて。あなたウォッカ飲んでるの?少しもらっていい?」と聞くと、その守衛の顔が一気に緩まり「お、飲むか?!」とグラスを渡してきました。

初めて本国で飲むロシアンウォッカ。「これとっても美味しいー!ありがとう!」と言う私に彼は本当に嬉しそうに「そうだろうそうだろう」と優しい笑顔を見せてくれました。やっぱり食を共有するって大事!たとえ一杯のお茶やお酒でもね。

ほんの束の間他愛のない会話をしてまた部屋に戻りましたが、怖そうだった守衛が“優しいおっちゃん”の顔で手を振って見送ってくれた、印象深い思い出です。

ついでに、翌朝の朝食(これもガード付き・笑)のデニッシュ類が驚くほど美味しかった事も。ホント、私って食いしん坊。

ロシア人は自分達の国と文化・伝統に誇りを持っています。抑圧的な政治を嫌う人は多くいますが、おっちゃんのウォッカ、今はカナダ国籍となった友人がずっと大事に持っている伝統衣装、英語の授業に使われた古いロシア文学。

子供達のダンスの先生も誇り高きロシア人バレエダンサーだし、E S Lクラスで一緒になった女の子は「ロシアの銀行も政府もひどい」と非難しながらもいつもロシアのナショナルチームのジャケットを着て「でも食べ物はロシアの方が断然美味しいわよ!」と言っていました。

思えば私の母も独身時代にロシア(旧ソビエト連邦)に旅をして、私は子供の頃に母が持っていたロシア人形のマトリョーシュカで遊んでいたし。私達の周りには沢山の素晴らしいロシアがあり、多くのロシア人はロシアを愛し、それを外国人である私達にも喜んで紹介してくれます。

ダンスの先生、アナはいつも「日本には素晴らしいバレエダンサーがいるわ。世界中のバレエの中で私がみて素晴らしいと思うのはもちろんロシア、そして日本のバレエよ」と言ってくれます。

自国政府の凶行を忌み嫌いながらも母国を愛する気持ち。その板挟みに、今多くのロシア人が苦しんでいます。

冒頭に話した私の友人との電話は、彼女の辛い気持ちを聞きながら30分近くが過ぎました。ロシア政府への失望と、外国で暮らす自分達にまで向けられるロシア批判を恐れる気持ち。

反戦運動は世界を上げて行うべきだと思いますが、それが個人的なヘイトにつながることのないように。第二次大戦下の日系カナダ人や日系アメリカ人が受けたような不当な苦しみが繰り返されない事を祈ります。

憎しみの連鎖がこれ以上広がらないうちに、尊い命がこれ以上失われないうちに、自国政府に対し反戦を訴えるロシア人達の愛と勇気のある行動と世界の善意が奇跡を起こしますように。

著者/ミセス・サンシャイン(「【日付変更線の向こうから】」連載)

image by: Shutterstock.com

『出たっきり邦人【北米・オセアニア編】』

『出たっきり邦人【北米・オセアニア編】』

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カナダ・アメリカ・ニュージーランド・オーストラリア在住の邦人もと邦人が週交代で綴るエッセイ。欧州編、アジア編、中南米・アフリカ編、出戻り邦人もよろしくね。

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