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米「ロシア敵視政策」のツケ。ウクライナ紛争で中国が“世界覇権”の棚ぼた

アメリカの度を越したロシア敵視政策が、この先「真の敵」である中国を利することにつながってしまうようです。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ウクライナ紛争で「戦略的敗北」を喫することになるロシアが、中国の属国となる可能性を指摘。それはすなわち米中覇権戦争における「中ロ分断」というアメリカ側が取るべき戦略の失敗を意味し、バイデン政権にとって大きすぎるミスであるとの見方を示しています。

リアリズムの神ミアシャイマーは、ウクライナ侵攻をどう見る?

前々から書きつづけていますが、プーチンのウクライナ侵攻は、【戦略的大失敗】でした。

ロシアは、ウクライナとの戦争に勝つかもしれませんし、負けるかもしれません。たとえ勝てても、【地獄の制裁】はつづいていきます。

プーチンの1期目2期目、ロシアのGDPは、年平均7%の成長をつづけてきました。しかし、クリミア併合後の制裁で、経済が全然成長しなくなった。クリミアを併合した2014年から2020年までのGDP成長率は、年平均0.38%です。

今度の制裁は、クリミア併合時よりとても厳しい。それで、世界銀行の予測では、ロシアのGDPは今年、マイナス11%になるそうです。ちなみにロシアに侵略されたウクライナは、マイナス45%だそうです。

ロシアへの制裁は、これからも長期間つづくので、経済はボロボロになっていきます。これが、【戦略的敗北】の意味です。

しかし、悩ましいのは、ウクライナ戦争「真の勝者=中国」だという事実。

今回のウクライナ侵攻で、欧米日とロシアの関係が切れます。

ロシアへのエネルギー依存度が高い欧州ですが、すでにロシアからの石炭輸入停止を決めました。そして、ドイツのショルツ首相は4月8日、「年内にロシアからの原油輸入を止めることは可能」といいました。

天然ガスの輸入停止は簡単ではありません。それでも、欧州は、「ロシアへのエネルギー依存脱却」にむけて、大きく動き始めています。今後、日本に対しても、「ロシアから石炭、石油、ガスを輸入するな!」という圧力が強まっていくでしょう。

そうなると、ロシアは、石炭、原油、天然ガスをどこに売るのでしょうか?もちろん、主に中国です。「立場が強くなった」中国は、ロシアから、安く大量にエネルギーを買えるようになります。

それだけでなく、あらゆる方面で、ロシアの中国依存は強まり、結局ロシアは、中国の属国になる可能性が高い。

地政学的にいうと、「ランドパワーの中国が、ハートランドロシアを支配する状態」。これは、きわめてまずい事態です。

地政学の祖マッキンダーはいいました。

「ハートランドを制するものは世界島(ユーラシア+アフリカ大陸)を制し、世界島を制するものは、世界を制す」

と。中国は、ハートランド・ロシアを制することで、世界島支配、世界支配に、大きく前進することになるのです。

私は、今回のように中国とロシアが引っ付く事態を非常に恐れていました。それで、私の「対ロ観」は、以下のようなものでした。

  1. プーチンは、北方領土を返す気がまったくない
  2. それでも、ロシアとは仲良くした方がいい
  3. 中国に勝ちたければ、中ロを分断すべきだからだ

と。私は、このことを少なくとも15年以上いいつづけています。たとえば、今07年発売の『中国ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』を開いてみました。238pに「日本は、中ロ分断を」とあります。

実をいうと、世界一の戦略家ルトワックさんも、リアリズムの神様ミアシャイマーさんも、「中ロを分断しなければならない」と主張しています。だから、米中覇権戦争の最中に、欧米ウとロシアが戦争をはじめ、結果的にロシアが中国の属国になることを、とても憂慮している。

リアリズムの神ミアシャイマーさんは、大戦略観のないアメリカ政府の愚かさを嘆きます。そして、「ウクライナ戦争の責任は、アメリカにある」と断言します。これは、ミアシャイマーさんが「親ロシア」だとか「親プーチン」だという話ではありません。

  1. アメリカ、真の敵は中国である
  2. 米中覇権戦争に勝利するために、アメリカは、ロシアを自陣営に引き込むべきだ

という、単純明快な【大戦略観】があるからです。

アメリカは、ナチスドイツに勝つために、スターリンのソ連と組みました。第2次大戦が終わると、今度はソ連に勝つために、かつての敵日本、ドイツ(西ドイツ)と組みました。それでもソ連が優勢なので、70年代には共産中国と組みました。このように、アメリカは、常に【大戦略的】に動いてきた。

しかし、ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンは、ロシア敵視政策を止めず、「ウクライナ戦争」が起こってしまった。

誤解のないように繰り返しますが、私は、今回のウクライナ侵攻について、100%のプーチンの失敗だと考えています。しかし、長期的に見れば、「反中包囲網に引き入れるべきロシアを、逆に中国に追いやってしまった」という意味で、アメリカも大きな間違いを犯しているのです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年4月12日号より一部抜粋)

image by: Al.geba / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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