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ウソ、隠蔽、そして恫喝。秀岳館サッカー部暴力事件で判る現場の異常な腐敗ぶり

30代のコーチによる暴行、監督による虚偽報告及び部員への恫喝や謝罪動画の投稿強要など、次々と問題が明るみになった熊本県秀岳館高校サッカー部。教育現場の全ての負の要素が噴出したかの如き当案件を、識者はどう見るのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、この問題を客観的に振り返るとともに、流出した暴行動画や恫喝音声から読み取れる、部員たちが置かれた異常な状況を解説。さらに国に対して、度を越した部活動への指導を含めた介入を求めています。

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秀岳館サッカー部暴行事件の顛末をみる

秀岳館サッカー部問題とは

30代コーチが生徒に暴行している様子がSNSで拡散されたことをきっかけに様々な問題が生じた問題。

時系列

 

4月20日 30代コーチがサッカー部の寮の中らしき場所で、サッカー部員に蹴りや背中を叩くなどの暴行をしている様子がSNSから拡散される。
4月21日 熊本県警が関係者を事情聴取
4月22日 サッカー部員の生徒が謝罪動画を投稿する(段原監督の指示)。
4月23日 謝罪動画が削除される。
4月25日 段原監督が日本テレビ「スッキリ」に生出演。
      22日の段原監督の不適切発言の音声が流出。
      30代のコーチが書類送検される。
4月26日 段原監督が自宅謹慎処分となる。
5月2日   日本サッカー協会に秀岳館高校が事情を説明する。
5月5日   秀岳館高校が記者会見を行う。

コーチの暴行動画

問題となったコーチの暴行動画を観ると、部屋の奥を廊下側から撮影しているが、暴行している様子をある程度狙うということがないと、この動画はなかなか撮ることができない。

例えば、スマホで撮るにしてもスマホの用意、撮影するという行為はなかなか行動までに移せないという人間心理から、予測ができる範囲での経験が必要になってくる。

つまり、常々、同じ場で同じコーチが度々暴行行為を行っていたことを、この動画を撮った生徒は過去の経験から知っていて、周囲の安全をわかったうえで撮影に挑んでいたはずだ。

その実、生徒らの謝罪動画では、この動画を撮りSNSに上げた生徒2人は、SNSにあるように日常的に暴行などは無かったというようなことを言っているが、秀岳館高校が行った記者会見では、「サッカー部では38件、そのうち職員から生徒への暴行は25件、24件は30代コーチから」であったとされている。

つまり、暴行行為等は頻発しており、学校が急いで調査をし、否定できないと考えた数が38件であり、およそ同一の30代コーチはその6割の暴行行為者であったということだ。

結果、生徒が謝罪動画で話した内容は、事実とは大きく異なるものであり、誰もが首を傾げる内容であったことになる。極めて不本意な内容を発信させられたというのが、その実態であろう。

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生徒の謝罪動画とは

4月22日に投稿された生徒の謝罪動画(翌日には削除)は、11人のサッカー部の生徒が、マスクなし、モザイクなしで2列(前列5人、後列6人)に並び、前列中央の部長らしき生徒が事実と異なることがSNSなどに流れているなどと話し、その釈明のために投稿したと話す。

その向かって右隣の生徒が、コーチに暴行を受けていた被害生徒で、この子も名前を名乗って前に出て、「コーチに暴言を吐いてしまった」と謝る。

さらに画面向かって右側の2人の生徒が、「(コーチが暴行している様子を)感情的になって投稿してしまった」と謝罪するというものだ。

いずれも発言をする生徒は、名前を名乗っていたし、マスクなしで顔もしっかりわかるという動画であった。

当初は、テレビ番組にまで生出演した段原監督が、この動画には関与していないと発言し、さらには、暴行の様子を見たこともなかったと話していたが、後になってから、この動画に関与していたことが明らかになっている。

さらに、段原監督においては、衝撃の音声が流出したのだ。

この音声は、4月22日の生徒強制謝罪動画公開前のものとされている。

その内容は、段原監督が、特に「コーチに暴力を受けた生徒」「その様子を撮影し、SNSに投稿した生徒」に向けて話しているものだが、段原監督が仲間の弁護士に頼めば、損害賠償請求などが撮影した生徒らにできると脅し、一番の被害者は、段原監督自身だと彼らに話をしているものであった。

つまり、この生徒が自ら謝罪動画を投稿したというのは、嘘であり、段原監督自身が生徒らを脅して、世間を欺くために台詞を考え、生徒らに指示し、投稿させたものであるということになる。

段原監督が被害を受けた生徒らと話す音声(抜粋)

 

※ 暴行を受けた生徒の氏名は「暴行を受けた生徒」と表記
※ 撮影をした生徒2名の氏名は「撮影をした生徒2名」と表記
※ 段原監督=「俺」

 

段原監督

今回のことに対する被害者は、「暴行を受けた生徒」が被害者やな。「撮影をした生徒2名」は関係ねえよな。

「撮影した生徒2名」は加害者だ。(×2=2度言う)

俺たちに対する。俺たちは被害者だ。意味わかる?でも完全な被害者はたぶん俺だけ。単純な被害者は。

「撮影した生徒2名」は加害者だ。俺が訴えたらどうする?世の中、世の中ではそうなるよね。「撮影した生徒2名」はなんも関係ない。俺がお前、これ、もう迷惑かかっとる、完全に。な?俺の、俺の仲間の弁護士たちに俺が「被害を受けた」っていうて、俺が「撮影した生徒2名」を訴えたらどうするか?世の中ったら、わかるで。世の中出て。

「暴行を受けた生徒」は被害者や。「撮影した生徒2名」は加害者や。被害者じゃない。

(…)

本当は謝って済むような問題じゃない。これだけの騒ぎになって。

それ間違うなよ。それは。な?

損害賠償請求とかってな、いう話になるだろ。俺たちが被害を被った分全部、世の中出て訴えられる。

こんな環境だから、サッカー部の生徒は世に救いを求め、30代コーチが生徒に暴行をする様子の動画をネット上に投稿したに違いない。

そして、やはり驚くべきは、この隠蔽のために、生徒らを脅して生謝罪動画を投稿させ、それを音声公開が知れ渡るまで、とぼけ続けて、生徒が自主的にしたことだからで、逃げ切ろうとしたことだ。

これは卑怯者だと断じるのみならず、併せて凶暴かつ凶悪であるということになろう。ある意味、被害を受けていた生徒らを含め、それを糾弾しようとした生徒らは、歪んだ学校社会によって、二度暴力行為を受けたことになる。

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歪んだ小社会では正義は為されない

組織内では当然の正義が大きな社会では不正義であることはよくあることだ。

このサッカー部では、コーチが指導名目で暴力を振るうことは当然の指導とされていたのではなかろうか?だからこそ、生徒間でも先輩が後輩に指導名目で、暴力行為や強要行為に及んでも、単なる「シゴキ」で済まされていたはずだ。でなければ、急遽行ったアンケートで、38件もの暴力行為が明るみなることはない。

指導もシゴキも、これが当然に行われている社会では、自分達は特殊社会で、世間一般ではダメだということを認識している場合が多い。世間に知れれば、当然、大騒ぎになり、自分達は叩かれる存在になると知っているからこそ、その隠蔽にぶざまなまでに力を注ぐのだ。

それはまるで強制収用やら深刻な人権侵害や犯罪行為が行われている地域や国に海外メディアや中立の記者らすらもが入れない独裁主義者がやるそのものに似ていて、幼稚なのだ。なぜなら、この例ではメディアが入れないこと自体で、この独裁者らが言う事は嘘確定だからだ。

段原監督が行った隠ぺいのため、さらには世間を欺くための行為は幼稚であり、結果として露見したが、音声が公開されていなければ、作られたサッカー部の生徒らが、不自然に、自主的に謝ったという動画が世論に影響を与えて収束させられていたかもしれない。

仮にこれが学校内だけの露見であれば、監督らはコーチも含め、糾弾されることもなく、これがサッカー部なんだと逃げ遂せただろう。

しかし、SNS社会(大きな世界)で露見したわけだから、もう逃げることはできない。

スポーツ庁は出動すべき

そもそも部活動は、学校教育の一環である。もちろん、スポーツによっては勝敗が分かれるものがあり、その競争が注目されるところもあるが、公式な意義は「体力や技能の向上」「人間関係の構築」など生徒の多様な学びの場としての教育的意義があるとされる。

つまり、あまりに勝敗にこだわり過ぎて、その偏重があってはならないと解釈できるはずだ。

柔道では小学生の大会が、その勝負に偏った事態が頻発したことから中止となったのは記憶に新しいところだ。小学生では部活動とは言えないが、教育機関として行うスポーツなどは、勝負よりもそのスポーツなどを好きになって卒業した後でも、健康のためであったり余暇を楽しむためであったりで、身体を動かしたり、そうしたスポーツを通じて交友関係をもつなど、人生を豊かにする一環として位置づけられているはずだ。

しかし、やはり勝負に偏る部活動は確かにあるはずだし、そこで熟成され続いてしまった悪しき慣習は内部から正すことは難しいだろう。

権限の問題があり、主導して行うには一定のルールも必要であろうが、ぜひともスポーツ庁や文化庁には、全国的な調査を実施するのみならず、偏った部活動は、大会出場停止も視野に入れて、本来あるべき教育の姿に戻す実行力を示してもらいたいところだ。

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編集後記

当初、ニュースの見出しをサラッと見ていた際、私は残念ながら注目すらしませんでした。理由は、ニュースチェックをしている間に、生徒が謝罪動画を出したという見出しを目にしたからです。

しかし、その後、同じ活動をする仲間から、段原監督が話したとされる音声が送られてきました。これを聞いて、何が起きているのだ!と色々確認をはじめ、とんでもないことが熊本で起きたのだと知りました。

まさに、よく起きる隠蔽の典型であり、その構造がよく表れている大問題だと思います。

私から見れば、暴行動画を投稿した生徒は、およそその後の処分も覚悟の上でのことだと思います。歪んだ社会の中での、いわゆる告発は「裏切り行為」だとみなされることもあるからです。

そうとうな勇気がなければできないことですし、学校がダメ、先生がダメ、監督もダメというような状態から脱却するにあたって、SNSで動画を拡散することの有効性を示したと思います。

専門家の中には、メディアに出すことや記事にする事、いじめなどを含め暴行などの問題も外に出して外部の介入を求めることを愚行だとする人もいます。

しかし、歪んだ小社会は自ら修正することは不可能ですし、その後また同じような被害者を生み出します。今や、ユーチューバーに相談していじめ問題が動き始めたり、SNS発信で問題が動き始めたというのがニュースになっている時代です。

どうしようもないとき、個人の発信力や著名人からの発信は、今後有効打になると確信しています。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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