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文在寅から4度の左遷。韓国新法務部長官の人事に野党猛反発の訳

韓国で5年ぶりに政権を取り戻した「国民の力」の尹錫悦大統領ですが、その法務部長官人事に大きな注目が集まっています。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、野党が韓東勳氏への法務部長官任命を異常なほど強く反発した背景を解説。さらに韓氏が就任式で語った強い決意を取り上げるとともに、彼の経歴・人となりを紹介しています。

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尹政府の内閣構成、ほぼ整う

韓国は新しい大統領が決まると各省庁の長も新しい人事となる。長官(日本では大臣となる)の任命は、まず国会で人事聴聞会というものが開かれ、そこで過去のありとあらゆる行跡がチェックされたあと、聴聞会合格となる人もいれば聴聞会不合格となる人もある。

不合格となった人でも大統領がサインすればとりあえずは長官に任命される。例外が一人だけあって、大統領のすぐ下で大統領を支える役の国務総理というポストは、人事聴聞会で「合格」がでないとこのポストだけは大統領の一任で決めることはできない仕組みになっている。今、ハン・ドクスという人が候補としてあげられているが、過去の不正が結構あって、聴聞会では合格がでていない。そのため、今のところ国務総理なしで尹錫悦政府は出発している。大統領、国務総理以下、各ポストの面々を簡単にご紹介したい。各長官のことを「国務委員」という名称で総括して呼ぶようだ。

大統領 尹錫悦(ユン・ソンヨル)2022年5月10日から

国務総理 韓悳洙(ハン・ドクス)首相(内定だがこれからどうなるかわからない。聴聞会で合格がでていない)

国務委員

  1. 経済副総理兼企画財政部長官 チュ・ギョンホ 2022年5月10日~
  2. 社会副総理兼教育部長官候補者辞退後未定
  3. 科学技術情報通信部長官 イ・ジョンホ 2022年5月10日~
  4. 外交部長官 朴振(パク・ジン) 2022年5月12日~
  5. 統一部長官 権寧世(クォン・ヨンセ) 2022年5月13日~
  6. 法務部長官 ハン・ドンフン 2022年5月17日~
  7. 国防部長官 イ・ジョンソプ 2022年5月10日~
  8. 行政安全部長官 イ・サンミン 2022年5月12日~
  9. 文化体育観光部長官 パク・ボギュン 2022年5月13日~
  10. 農林畜産食品部長官 チョン・ヒョングン 2022年5月10日~
  11. 産業通商資源部長官 イ・チャンヤン 2022年5月12日~
  12. 保健福祉部長官 鄭鎬瑛(チョン・ホヨン、内定)
  13. 環境部長官 ハン・ファジン 2022年5月10日~
  14. 雇用労働部長官 イ・ジョンシク2 022年5月10日~
  15. 女性家族部長官 キム・ヒョンスク 2022年5月17日~
  16. 国土交通部長官 ウォン・ヒリョン 2022年5月13日~
  17. 海洋水産部長官 チョ・スンファン 2022年5月10日~
  18. 中小ベンチャー企業部長官 イ・ヨン 2022年5月12日~

以上国務総理以下19のポストがあって5月17日現在、国務総理が未定、「2.」の社会副総理兼教育部長官が未定、そして「12.」の保健福祉部長官が未定となっており、3つのポスト以外は一応整った格好だ。

名称についてちょっと。たとえば「1.」の経済副総理兼企画財政部長官というのは、経済面に責任をもつ副総理という意味で、同じ人が企画財政部長官を兼任するということ。「2.」の社会副総理兼教育部長官というのも、社会面に責任を持ちながら教育部長官(日本でいえば文部科学大臣)を兼任するという意味だ。

ここで注目すべきはやはり、尹錫悦大統領が5月17日に「6.」の「法務部長官」に韓東勳(ハン・ドンフン)を大統領の権力で任命した点。野党民主党は、韓長官に対して「任命はすなわち国民の半分と戦うということ」と強く反対したが、尹大統領は前日の人事聴聞経過報告書送付期限が過ぎたことをもって17日彼を法務部長官に任命した。「新政権の法務行政の空白を防ぎ、一日も早く完全な新政権の第1期内閣を完成させ、国政を正常化軌道に乗せなければならない」というのが大統領室の説明だ。

大統領室によると、尹大統領は同日午後4時30分ごろ、両長官(法務部長官と女性家族部長官)に対する任命を裁可した。30分後、大統領室は担当記者たちに「大統領は韓東勳長官、金賢淑(キム・ヒョンスク)長官を任命した」と公示した。

大統領室関係者は、韓長官任命の背景について「職務遂行に大きな欠格事由がない限り、長官を保留することも国民に対する礼儀ではない」とし、「国政をリードしなければならない大統領の立場から野党に引きずられるわけにもいかない」と述べた。人事問題をはじめ、任期序盤の国政運営の主導権を握っていくという意味と解釈される。当初野党は「落馬第一ターゲット」として韓東勳長官に照準を合わせていたが結果的に無為に終わった。韓東勳聴聞会で適時打を放つどころか、空振りばかりしていた野党民主党が自ら招いた側面もある。

韓東勳氏が尹大統領のサインによって新任法務部長官となると、前政権がなくしてしまった「証券犯罪合同捜査団」復活に言及した。韓長官はまた「社会的強者に対しても厳正捜査ができる公正な検察を作る」とし、「すべきことをきちんとする検察を恐れる人は犯罪者だけだ」と述べた。

韓長官は17日午後6時30分頃、政府果川庁舎法務部大講堂で開かれた就任式で「夜道を歩くのが怖い社会、組織暴力団が設置する社会、庶民が被害に遭っても我慢して見過ごすことを選択する社会になってはならない」とし「直ちに庶民を泣かせる経済犯罪実態に対して至急点検し、素早く対処しなければならない」と話した。それと共に「私は今日直ちに『証券犯罪合同捜査団』を再びスタートさせることでその第一歩を踏み出す」とした。彼は「庶民に諸々の被害を与える犯罪者は、犯した罪に見合う責任を負うことになるだろう」と話した。

ソウル南部地検にあった証券犯罪合同捜査団は大型金融・証券犯罪を捜査し「汝矣島(ヨウィド)の死神」と呼ばれた。ところが2020年、秋美愛(チュ・ミエ)元法務部長官が2020年1月の就任直後になくしてしまった。当時、検察の直接捜査部署を大半なくしてしまい、証券犯罪合同捜査団も解体した。

当時、与党(=民主党)関連の疑惑があった金融事件の捜査をもみ消そうとするのではないかといわれている(言われているだけではなくて実際にそうなのだった)。以後、パク・ボムゲ元法務部長官が2021年9月「金融・証券犯罪捜査協力団」という名前で復活させたが、検事は直接捜査権はなく捜査指揮、公訴維持だけをさせた。

韓長官はこれを本来の合同捜査団として復活させ、検察が経済犯罪に強力に対応するという意志を示したのわけだ。「検捜完剥(コムスワンバク=検察の捜査権を剥奪する)法」は野党民主党(180席近い議席)の暴挙により可決されているが、経済犯罪は検察の直接捜査範囲に該当する。

韓長官はまた、「中立的で公正な検察を作ろう」と述べた。彼は「大韓民国はそうできる国でなければならない」として「大韓民国国民は短い時間で民主化と産業化を同時に成し遂げた偉大な人々であり、そのような公正なシステムを持つ資格が十分な人々であるため」と話した。

韓長官は「これから私と共に重大犯罪に対する対応空白を最小化し、刑事司法体系を正すよう最善を尽くしてみよう」とし、「検察の政治的中立性と公正性を高め、実力のある検察・警察が牽制と均衡のシステムを備えるよう努力しよう」と話した。

韓長官は「大韓民国で検察の仕事は国民を犯罪から保護することであり、すべきことをまともにする検察を恐れる人はただ犯罪者だけ」と語った。それと共に「所信を持って正当な業務遂行をした公職者を不当な外圧から守る」とし、「それは同僚の皆さんが私にしてくれたことでもある」と話した。

彼は2019年「チョ・グク捜査」等、文在寅政府人事を狙った捜査を指揮し、2020年チュ・ミエ前長官時代に左遷人事を受けるなど計4回も左遷人事されるという屈辱をうけた。最終的に「嫌疑なし」を勝ち取った「チャンネルA事件」で2年間検察捜査も受け続け、当時与党(民主党)関係者らと訴訟戦もした。

韓長官は「法務部は大韓民国建国以来、名称が一度も変わっていない二つの省庁のうち一つ(残りは国防部)」とし、「私は以前からその事実がこの省庁がすべきこと、進むべき方向がそれだけ単純明瞭だということを示していると考えていた」と述べた。さらに、「法務部の英文名称は『Ministry of Justice』だ。忘れないようにしよう。私たちは常にシステムの中で「正義(Justice)」に至る道を探さなければならない」と述べた。

韓長官は「私は『正義と常識の法治』を今後法務部が進まなければならない方向として提示しようと思う」とし、「法務部は特に力なく疎外された国民を暖かく保護する心強い垣根にならなければならない」と力説した。さらに「法がまともに執行されず社会が乱れると、その被害は特に社会的弱者に倍になってかえっていくことになる」とし、「いつも忘れないようにしよう。私たちは国民の血のような税金で月給を受け取る人々であることを」とし、さらに「国民に水準の高い(法務・行政)サービスで数倍にして返さなければならない使命がある」とも述べた。

ちなみに、歴代政府の初の内閣構成時期を見ると、李明博政府の場合、就任17日で、朴槿恵政府は朴元大統領就任51日で初代内閣構成が終わった。文在寅政府は野党の反発にあい、内閣完成まで6か月以上(195日)かかった。第20代大統領の尹大統領の内閣構成は就任1週間で国務総理と2つの長官のポストが未定だがほぼ形は整った格好だ。完全になるまで何日を要するか。一つの関心事ではある。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年5月19日号)

image by: 尹錫悦 - Home | Facebook

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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