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北の核ミサイル威力に対抗せよ。「韓国版マンハッタン計画」とは

第二次世界大戦中にアメリカが原爆開発のために進めた、「マンハッタン計画」と呼ばれるプロジェクト。北朝鮮による核の脅威が高まりを見せる中、韓国のとあるメディアに「韓国版マンハッタン計画」の必要性を訴える論説が掲載され話題となっているようです。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、同国最大の日刊紙である朝鮮日報の記事を翻訳する形で、その論説の内容を紹介。日本以上の緊張状態が続く「韓国の今」をありのままに伝えています。

韓国版マンハッタン計画

ネットによるとロシアの一部の政治家が日本に対して強硬な発言を行っているようだ。左派政党「公正ロシア」のミロノフ党首が4月1日「ロシアは北海道にすべての権利を有している」と日本への脅しとも受け止められる見解を表明した。

また、ロシアの極東開発を統括するトルトネフ副首相は4月25日、北方領土について、独自の開発や投資をさらに進め、「ロシアのものにする」との意向を示した。北方領土を対象としたクルーズ船の就航や投資計画の策定、観光開発を通じて「クリール諸島(北方領土と千島列島の露側呼称)をロシアのものにする」と強調した。

いやまったく、だんだん物騒な世の中になってきていると言わざるを得ない。そんな中、韓国でも「韓国版マンハッタン計画」が必要だという論説が朝鮮日報に載っていた。筆者のことばでご紹介したい。

朴槿恵政府時代、韓米拡張抑制戦略協議体(EDSCG]に参加したある元政府高官は当時、米国側の雰囲気について「米国は拡張抑制に関する核戦力についてまったく具体的に伝えようとせず高い壁を実感しました」このように伝えた。

EDSCGは北朝鮮の増大する核・ミサイル脅威に対応し、対北朝鮮核抑制力を強化するために2016年に新設された韓米外交・国防高位級協議体だ。拡張抑制は核の傘だけでなく通常の精密打撃兵器、ミサイル防衛(MD)の3大要素で北朝鮮の核・ミサイル挑発を牽制することだ。

米国は韓米年次安保協議会などで引き続き核の傘を強調してきたが、有事の際、いつどのような核兵器をどのような方式で使用するかについては徹底的に口を閉ざしてきた。このような問題を改善していこうという趣旨で、EDSCGを発足させたが、米国は従来の態度から大きく外れていないということだ。しかもこの会議は2018年1月、2回目の会議を最後に4年以上開かれていない。

尹錫悦(ユン・ソンヨル)大統領は候補時代、韓米拡張抑制強化を北朝鮮核抑制対策の代表公約の一つに掲げた。EDSCGの再稼動はもちろん、有事の際、米国の核の傘使用計画に対する詳細情報共有も推進するということだ。5月21日に開かれる韓米首脳会談でもこれに対する具体的な議論と成果があるものと予想される。実質的な北朝鮮核抑止力強化の次元で圧倒的な変化だ。

増大する北朝鮮の核・ミサイル脅威に対する肯定的な変化はこれだけではない。威力を弱めて「使える」核兵器に変身した低威力戦術核兵器の登場が代表的だ。これまで核兵器は威力が大きすぎて事実上使えない兵器と見なされてきた。

昨年10月、米国防総省はF-35Aステルス機からB61-12戦術核爆弾を投下する最終試験映像を公開した。B61-12は、米戦術核兵器の代表走者であるB61戦術核爆弾の最新型モデルだ。正確度を高める代わりに威力を減らし放射能落塵など付随的被害も最小化して「使える」核兵器として開発したという点が特徴だ。

2番目の低威力核兵器としては、トライデントIISLBMに装着されるW76-2新型低威力核弾頭を挙げることができる。威力は8キロトンと言われている。特に潜水艦に搭載されるため、東海(日本海のこと)はもちろん西太平洋でも密かに水中に潜伏して打撃できるというのが強みだ。W76-2はすでに2019年に25個の弾頭が生産され、実戦配置が完了している。

3番目の低威力核兵器としては、核弾頭装着トマホーク巡航(クルーズ)ミサイルが挙げられる。主要紛争で薬房の甘草のように使われてきたトマホーク巡航ミサイルに5キロトン級の核弾頭を装着したものだ。バイデン政府になって新しい核態勢検討報告書(NPR)によって計画が取り消されたが、必要な場合はいつでも復活できる。このような低威力核兵器は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と北朝鮮に「有事の際、米国が実際に核兵器を使える」という恐怖心を呼び起こすから、挑発を抑制できるという評価だ。

それでは韓米拡張抑制強化と低威力核兵器で高度化した北朝鮮の核・ミサイル脅威に十分対応できるだろうか。専門家たちは北朝鮮の攻勢的な先制核攻撃戦略採択と韓国を狙った新型戦術核兵器開発など従来とは次元が違う核・ミサイル脅威の登場に注目しなければならないと指摘する。金正恩は先月25日、北朝鮮軍創建90周年記念閲兵式演説を通じて先制核攻撃の可能性を初めて示唆した。

北朝鮮が2019年以降、集中的に試験発射を行ってきたKN23改良型ミサイル、北朝鮮版エイタキムスミサイル、600ミリ超大型放射砲、ミニ(小型)SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)などは、韓国を狙った戦術核弾頭を装着できるものと情報当局は見ている。

北朝鮮はこれより小さい新型戦術ミサイル(射程110キロ)も最近、試験発射に成功したが、これに装着する小型戦術核弾頭開発などのための7回目の核実験は時間の問題という段階だ。これら戦術核兵器は数十キロトン以下の威力で、有事の際、北朝鮮は実際に使いたい誘惑を強く感じるだろう。それらが実際に使われた場合、戦争の流れを変えるゲームチェンジャーになりうる。特に、北朝鮮は戦術核開発に有利とされるプルトニウムの大量抽出のために、最近寧辺(ヨンビョン)で50メガワット級原子炉の建設も再開したことが分かった。

これに効果的に対処するためには、韓米拡張抑制強化を超える高強度対策が必要というのがおおかたの考えだ。韓国空軍のF-35ステルス機やF-15K戦闘機も、米国のB61-12新型戦術核爆弾を運搬できるだけに、これを活用する韓国型核共有体制も推進できる案だ。韓米同盟を活用した方法のほか、画期的な独自の北朝鮮核対応手段を開発するための特段の対策も講じなければならない。米国が国力を集中して史上初の原子爆弾を開発した「マンハッタン計画」のように、核武装潜在力確保と非核「毒針兵器」開発のための「韓国版マンハッタン計画」を推進する必要がある。

「韓国版マンハッタン計画」は軍だけでなく民間分野の第4次産業革命、IT(情報技術)などを網羅する国家総力戦概念で接近しなければならない。北朝鮮の核弾頭ミサイルを発射前に無力化する「発射の左側」などサイバー電子戦も積極的に活用しなければならない。

北朝鮮は昨年1月の党第8回大会で多弾頭固体燃料ICBM(大陸間弾道ミサイル)、極超音速ミサイル、核推進潜水艦およびSLBM、偵察衛星などを5年内の最優先課題として開発すると明らかにした。最近のコロナ事態で7回目の核実験が多少遅れるかもしれないが、北朝鮮は尹錫悦政府任期中にこれら戦略兵器を実際に作り出す可能性が高い。

北朝鮮の新兵器が飛び出すたびに対症療法で対応してきた従来の方式では、高度化した北朝鮮の核・ミサイル脅威にまともに対処できない時になった。ちなにみ「発射の左側」とは、相手国がミサイルを発射する前に取る先制措置をいう。敵国から発射されたミサイルを迎撃する段階として、「発射準備→発射→上昇→下降」に分ける時、発射より左側にある発射準備段階に攻撃を加えるために付けられた名前である。

ロシア・ウクライナ戦争を契機にさらに物騒さを増してきているこの世界。こちら韓国は日本以上に緊張状態が続いている。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年5月20日号)

image by: Republic Of Korea Navy - Home | Facebook

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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