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セクハラ疑惑の文春砲も出た細田衆院議長はなぜ「10増10減」に反対するのか

衆議院における一票の格差是正のための「10増10減」を巡り、中立の立場を貫くべき衆院議長を務める細田博之氏が、公然と異を唱えるという異常事態が発生しています。その背景には、どのような事情が存在しているのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、選挙区が1つ減る山口県を地元とする安倍元首相への忖度の他に、週刊誌によるセクハラ問題も浮上した細田氏が「10増10減」に強く抗う理由を考察しています。

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細田議長が「10増10減」の衆院区割り案に反対する真の理由

ネットなどで横行する誹謗中傷への対策として「侮辱罪」を厳罰化する刑法改正案が可決された5月19日の衆議院本会議。階猛議員(立憲民主党)の反対討論に、場内は騒然とした。

「たとえば街頭演説やデモ行進において、細田議長は無責任な人間だとか、欲張りだとか、女性をもてあそんでいると言い放った場合、侮辱罪で処罰されるのか」

侮辱罪の適用基準が曖昧なことを問題視した発言。これはこれで重要なのだが、騒ぎのもとは、細田博之議長を例にあげたことだった。

「女性をもてあそんでいる」とは、ただごとではない。いかに例示とはいえ、なぜ細田議長がそんな風に言われなければならないのか。階議員の情報源は週刊文春にあった。

官邸担当記者はこう続ける。「私たちの間では、細田氏から『添い寝をしたら教えてあげる』と言われたという話が“常識”のように広まっている。実際、ある女性記者が、その話を飲み会で披露すると、『私も同じようなこと言われた!』などと“#MeToo”の声が続々上がったそうです。特に細田氏の被害に遭っていたのが、A記者。彼女は細田氏の“セクハラ”発言に困惑していたと聞きます」(5月19日文春オンラインより)

細田議長が文春のターゲットになったのは、もとはといえば、「10増10減」に反対したり、「議長になっても、毎月もらう歳費は100万円しかない」と言ったり、議長らしからぬ言動が目に余ったからだろう。

「一票の格差」を是正するため衆議院小選挙区を「10増10減」で変更する区割案は、実際、中立であるべき細田議長の発言により、作成作業の最終段階になって、揺らいでいるのだ。

「10増10減」は、れっきとした法律に基づいている。自民、公明両党が2016年4月に国会に提出、衆参両院で成立させた衆院選挙制度改革関連法だ。

2014年の衆議院選挙で「一票の格差」が最大2.13倍となったことについて、15年11月に最高裁が違憲判決を下したため、衆院議長の諮問機関「衆院選挙制度に関する調査会」が、人口比を反映しやすいアダムズ方式という議席配分方法を2022年以降の衆院選から採用するよう答申し、それを受けて、この法律が立案された。

小黒一正法政大経済学部教授によると、アダムズ方式による計算の仕方は以下の通りである。

  1. まず、1議席当たり人口を定める
  2. 定めた1議席当たり人口で各都道府県の人口を割った値(小数点は切り上げ)を各都道府県の議席配分案とする
  3. 都道府県の議席配分案の合計が小選挙区の議席合計に一致した場合は終了するが、一致しない場合は1.の手順に戻り、1議席当たり人口を修正して再計算する

20年の国勢調査をもとにアダムズ方式で計算すると、東京が5議席、神奈川が2議席、埼玉、千葉、愛知が1議席ずつ増加。宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎がそれぞれ1議席減る。すなわち「10増10減」だ。これにより最大格差は1.697倍に縮小するという。

予定では、政府の衆院議員選挙区画定審議会が今年6月25日までに区割り変更案を岸田首相に勧告し、政府はそれを反映した公職選挙法改正案を国会に提出する手はずになっている。

このように国会で法律が通り、区割り変更へのスケジュールまで決まっている「10増10減」に対し、自民党の衆院議員260人のうち155人が見直しを求め、茂木幹事長に申し入れをしたというのである。

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そして、その動きを扇動しているのが、こともあろうに細田衆院議長なのだ。細田氏は昨年末の自民党選挙制度調査会に出席したさい「地方を減らして都会を増やすだけが能じゃない」と発言、独自の「3増3減」案を提起した。今年4月9日の地方講演でも「議長がいろんなことを言うと『黙っておれ』という人もいるかもしれないが、そうはいかない」とまくしたてた。

議長たるもの、中立でなければならない。だからこそ、派閥の会長をやめ、衆院の自民党会派から離脱したのではなかったか。

そもそも細田氏は「10増10減」の根拠となる衆院選挙制度改革関連法を2016年に議員立法したさいの提出者の1人でもある。

伊吹文明元衆院議長が自民党二階派の会合で「議会が決めたことを(議長が)公然と批判したら、国会の権威は丸つぶれだ」と語ったのは、しごく当然のことだ。

細田議長はなぜ、「10増10減」をぶち壊そうと躍起になるのだろうか。細田氏の地元、島根県(衆議院定数2)は「10増10減」の対象ではない。人口減少は続いているが、将来推計人口をもとにした小黒教授の試算によると、2075年に至っても「定数2」は変わらない。

考えられるのは、安倍派の勢力維持との関わりだ。細田氏が長らく同派の会長をつとめてきたことは周知の通り。最大派閥会長の座を安倍元首相に譲り、名誉職ともいえる議長に就いたのは、ひとえに強いリーダーを求める派閥の将来を思えばこそだったはずだ。

「10増10減」はまさしく、その安倍元首相の選挙を直撃する。実施されると、安倍氏の地元、山口県は現在4つある選挙区が3つになり、自民党は公認候補者を1人減らさねばならなくなる。

1区は高村正彦元副総裁の地盤で、昨年の選挙では長男の高村正大氏が当選した。2区は安倍氏の実弟、岸信夫氏が2012年以来、連続当選している。3区は参院からのくら替え当選を果たした林芳正外務大臣で、4区が安倍氏だ。

定数3になったら、いったい誰が公認を外されるのか。かりに3区と4区が統合されるとすれば、安倍か林かという究極の選択を党本部は迫られる。林氏はポスト岸田の有力候補とも目され、下関にも山口にもしっかりとした基盤を有する。安倍氏にとって最大のライバルであるのは間違いない。

細田議長と自民党衆院議員たちの動きに対し、茂木幹事長は参院選への悪影響を恐れ、今のところは静観の構えを崩していない。岸田首相は「勧告に基づく改正案を粛々と国会に提出する」と表明している。

岸田首相とすれば、「10増10減」を切り札に、安倍氏との政治的駆け引きを有利に運びたいという思惑もあるのだろう。

だが、先述したように、今年6月25日までに区割り変更案が岸田首相に勧告されることになっており、そのころには再び、自民党内が騒がしくなるに違いない。

ただし、細田議長が「10増10減」反対論を唱えるのは、難しい選挙事情をかかえる安倍氏への忖度だけではないと筆者はみている。

かつて「10増10減」の根拠となる法案の提出者4人のうちの1人として名を連ねたのは事実だが、選挙通として知られる細田氏が、アダムズ方式をすんなり受け入れたとは信じがたい。

細田氏は自民党の選挙が、地方への手厚い議席配分と、それによる世襲の継続に支えられてきた事実を重視していたはずである。

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選挙区割りが変わらなければ、後援会組織はそのまま残る。地盤、看板、カバンの三バンが二世、三世議員に受け継がれ、地方の保守王国が温存される。細田氏や安倍氏が世襲議員であるのは言うまでもない。

こうした政治風土が、日本の社会を既得権勢力から解放できない要因であり、政界に新風を吹き込む人材の出現を妨げる元凶となっている。政治は家業でも稼業でもない。

かつて、政党自身が世襲の禁止を打ち出したことがある。民主党に政権が交代した09年総選挙の時だ。民主党はマニフェストに、現職の国会議員の配偶者と3親等内の親族が、同一選挙区から連続して立候補することを党のルールとして認めないと明記した。

これに対抗する形で、自民党も同様の対象を「次回の総選挙から公認、推薦しない」と公約した。しかし、こうした動きは、自民党の政権復帰を経て、雲散霧消した。

世襲規制に強く反対した1人が細田氏だった。その人が今、「10増10減」に抵抗し続けるのは理の当然といえる。

自民党議員のパーティーで「1人当たり月額100万円未満であるような手取りの議員を多少増やしても罰は当たらない」と発言したあたりも、庶民感覚とかけ離れた“殿様気質”というほかない。

文春にセクハラ疑惑が報じられるオマケもつき、細田氏の出方が注目されるなか、「10増10減」の勧告期限6月25日は刻々と迫っている。

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image by: 細田博之 - Home | Facebook

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