ロシアによる黒海封鎖に起因し、アフリカや中東諸国で深刻化する食糧危機。先進国にとっても食料安全保障の確立は喫緊の課題と言っても過言ではありません。そんな中、今や世界最大級の食料輸入国となった中国が、14億人の国民が食べてゆく最低限の食料生産に全力で取り組み始めたようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、中国共産党が見せている食料安保への本気の取り組みを紹介。さらに習近平政権がそう動かざるを得ない理由を解説しています。
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中国は本当にソフトな鎖国を視野に入れ始めたのか?
最近、中国経済の専門家たちと意見交換する機会を持った。
興味深かったのは、そこで話をした人々の何人かが、このところ国務院が発表する統計に明らかな変化が見られると指摘したことだった。どこが変わったかといえば、統計のなかで農業に関わる数字が目立って増えた、というのだ。
もちろん農業政策(農村問題も含めて)は中国共産党にとっての「一丁目一番地」。言うまでもなく最重要テーマだ。毎年、春節後に発表される「一号文献」が必ず農業政策に関わるものであるのは象徴的だ。しかし、とはいってもそこは本音と建前である。貿易や工業生産の華々しい数字の前に隅の置かれてきたのが実態だった。
だが昨今の傾向は、それとははっきり区別されるのだ。
豊作に恵まれた、種付けが終わった、機械化の割合が上昇した、新しい生産方法が生かされた……。たしかに国家統計局な公表する数字のなかでも、その傾向は明らかだ。上海を筆頭にロックダウンが続き、消費や貿易、工業生産が落ち込み、芳しい数字がなくなったため農業生産でお茶を濁そうとしているとの見方もあるが、どうやらそうでもないようだ。
6月22日には中国中央テレビ(CCTV)が李克強総理の主催した国務院常務会議の内容をニュース(新聞聯播)として報じた。そこでは緊急性の高い防災関連(南部で起きている洪水)に続いて農業生産に関する聞き取りを伝えていた。
農業生産の重要性は、会議のなかで「現在の複雑で厳しい状況やインフレが加速する国際環境下において」高まっていると説明されている。インフレが庶民の生活を直撃しているという事情もあるが、中国共産党中央が食糧安全保障を強調するようになったのは、インフレが問題になる前からのことだ。
ある研究者は「習近平政権のこのところの農業へのテコ入れは、未来の戦争を視野に入れた動き」と指摘する。
もちろん、台湾侵攻への備えといった漫画チックな話ではない。主眼は攻めよりも守りに置かれているからだ。また備えているのは、戦争だけではない。
ロシアによるウクライナ侵攻から3ヵ月の間に少なくとも世界20カ国が何らかの形で自国の食糧の輸出に制限を加えているのだ。
アメリカの対中攻勢──バイデン政権というのではなくワシントンに根付いた中国敵視──も懸念材料だ。「中ロ」という枠組みで、激しい制裁にさらされる未来を見据えざるを得ないのだ。
いずれにせよ、どんな事態に陥ったとしても国民が食べてゆく最低限の食糧はきちんと確保したい。その目標のに向けて中国が本気で動き出したということだ。大豆、トウモロコシ、油の輸入大国として知られる中国だが、基本的に国民が食べる穀物の需要は国内で満たすことはできる。その上にさらに大きな躍進を目指そうというのだ。
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国家が音頭をとれば、それに連動して足元で華々しい成果が次々とメディアで報じられているのは中国のパターンだ。
すでに良く知られた農業と新エネルギー融合では、砂漠化防止と脱炭素の両方を一気に満たせる事業として進められた太陽光発電がある。新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区の砂漠に太陽光パネルを敷き詰め、日光を遮ることで緑化を進めるものだが、多くの現場で成功している。いまはそこに生えた草を食べる家畜を放し飼いで育てている。
大きな成果の報告は、ここ数カ月の間にも相次いだ。
直近の話題は「巨大稲」と「海水稲」だ。
前者は、従来の稲よりも茎が太く、台風が来ても倒れにくいという特徴を持った稲の開発だ。低コストの上に生産量が高く、耐倒伏に優れ、超耐塩・アルカリ性といった利点が報告されている。しかも稲幹は、将来的に飼料として利用できると『人民日報』は伝えている。
巨大稲は茎が太いため従来の農作業用機械には適応しないという悩みを抱えていたようだが、これも改良を重ね量産体制を確立したという。今年からは実験的に天津での栽培が始まったという。巨大稲の水田は従来よりも水深があるため、稲と同時にエビや魚も養殖できるほか、カエルやアヒルを育てられることもできるという。
後者の「海水稲」は、文字通り塩・アルカリ土壌に耐性をもつ稲のことだ。通常、こうした土地では土壌改良で対応するものだが、稲の方に耐性が備わっていれば、耕作に適した土地は飛躍的に広がることになるのだ。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年6月26日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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