日本の“田舎”と言われる場所の観光業はコロナの影響もあり、大きな打撃を受けています。ウィズコロナで考えていかなければならない中、どのように活性化していけばよいのでしょうか。そこで今回は、メルマガ『週刊 寺本英仁「にっぽんの田舎を元気にするために Plus A」』の著者で、総務省の地域力創造アドバイザーなどを担う寺本英仁さんがこれからの観光について語っています。
この記事の著者・寺本英仁さんのメルマガ
御蔵島で「これからの観光」について考えた
御蔵島は東京から南南西に約200km、東京・竹芝桟橋を22時30分に出港し翌朝の6時に到着する。伊豆七島の三宅島と八丈島の間に位置しているこの島には、世界中から多くのドルフィンスイマーたちが目がけてくる。
付近には、世界的にも珍しい定住性のミナミバンドウイルカが約100頭以上棲息している、スイマーにとって憧れの島なのだ。
ただし、この島は孤島であり、風をよけることができる湾がないため、風の影響をもろに受ける。そのため伊豆七島の中でも、着岸できる可能性が最も低い。
過去に僕は何度も訪れているが、いつも東京では「条件付き出港」が当たり前で、「条件付き」が出なかったことは一回もない。酷い時には、御蔵島に着岸することができず、そのまま八丈島まで行き、泣く泣く船旅だけをして東京湾の竹芝桟橋へと帰ったこともあった。
しかし、イルカと泳げることを考えると、これだけの苦労をしても何度も訪れたくなる島なのである。
この御蔵島でお世話になっているのが、御蔵島観光協会の小木万布さんだ。島根県の海士町でシンポジウムが開かれた時、同じバスで隣の席になった小木さんと、イルカの話で盛り上がったのがきっかけで、それ以来のお付き合いだ。
山形大学でテントウムシの産卵と生態の研究をしていた彼は、「もう少し大きな動物を研究したい」と路線を変更し、三重大学大学院在学中に御蔵島をフィールドにイルカの行動研究を始めたのだそうだ。
2004年に御蔵島観光協会設立に携わり、現在も観光協会に勤務されている。普通の観光協会のイメージは、その土地の魅力を発信し誘客を図ることを目的とするものだが、小木さんの取り組みは少し変わっている。
イルカスイムできる船の数を決めたり、イルカスイムのガイド講習をおこなったり、イルカの個体識別調査をして、より生態管理が進むような取り組みを観光協会の事業の中で行っている。
イルカスイムは30年近く御蔵島で行われており、今や島の大きな産業になっている。この産業を守るためのルールを、小木さんを中心に観光協会が進めているのだ。
島自体の人口が約300人、宿が村営を含む7軒とバンガローが6棟しかないため、イルカの生態系を崩すことなく楽しむことができる。
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役場職員時代は「食」を中心とした地域振興を行ってきた僕だが、起業理念である「にっぽんの田舎を元気にする」を実現するために、これから「食」だけでなく、その他の産業も勉強して実践していきたいと考えている。
「その土地の自然の魅力」も観光のひとつ
僕は大学時代から水中写真を始め、世界中の海を潜ってきた。日本の海は特別に美しいし生態系も面白いとわかっていたから、退職後は水中写真をテーマとして日本の田舎を元気にしたいと考えていた。中でも、野生イルカと泳げる御蔵島は、発信したい地域の一つである。
今回は、天候には恵まれず雨も多かったが、野生のイルカと泳ぐチャンスがたくさんあった。生まれたばかりの赤ちゃんイルカと、それを守る母親イルカを見ると、本当に心が癒される。
需要があるからといって、ホテルやレストランを建てるのではなく、自分たちの生活スタイルを維持しながら観光客を迎えている御蔵島の姿は、アフターコロナの日本における「観光産業」の在り方の先進的事例ではないかと考える。
これをヒントに多くの町で「エコツーリズム」を立ち上げて、「食」とコラボさせていくことを考えたいと思う。
今後の観光は、「ただ、美味しいものを食べる」だけでなく、自然と共に生きていることを実感できるメニューが必要となってくると思う。言い換えてみれば、それだけ人が自然と触れ合う時間が少なくなってきていることを意味するのかなぁと感じる。
邑南町でも、「香木の森公園」を舞台にノルディックウォーキングのコース設定をしてツーリズムを展開している。
これからの観光は、「その土地の良質なもの食し、その土地の自然に身をおきながら体を動かす」ことがテーマになる。従来の土地の有名なものを見るだけでは、満足されなくなるのではと考える。
だからチャンスはどの地域にもある。ただその際、「自分ごと」として考えた地域と考えなかった地域では大きな差が出てくると思う。
これを考えていくリーダーは、やはり地域の行政職員であったり、観光協会の職員なのだ。御蔵島でそれを再認識した。
北海道鹿部町、東京都千代田区、御蔵島と巡った旅を終え、2週間ぶりに邑南町に帰った翌日からは、広島県北広島町のアドバイザー業務が始まる。
北広島町では、今回から地域商社が実際に事業者の元に通い、今年度から本格的に取り組むふるさと納税の返礼品の発掘を行っていく予定だ。
僕は「ふるさと納税の返礼品は、納税額を上げて行くためには魅力あるものを作らないといけない」と思っているが、この事業の本質は、返礼品を通じて、事業者と支援していく地域商社の職員の成長にあると考えている。
次回は、そんな事業者と地域商社の人たちが抱える悩みなどについて書き綴っていきたいと思う。
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(『週刊 寺本英仁「にっぽんの田舎を元気にするために Plus A」』2022年6月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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