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世界中がエネルギー不足に襲われるなか、中国がしのげている理由

ウクライナ紛争に起因するエネルギー不足に襲われ、その解消に右往左往する西側諸国。一方現在は欧州各国のように厳しい状況にはないという中国ですが、それは対ロ制裁に加わらなかったという理由のみではないようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、世界に吹き荒れるエネルギー不足という逆風が当分収まらないであろうと判断する根拠を記すとともに、なぜ中国が今のところエネルギー不足を凌げているかについて解説しています。

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バイデンの中東訪問でも解決しない世界のエネルギー不足に経済減速が指摘される中国はどう備えるのか

予測されていたように中国経済の減速が明らかになった。

中国国家統計局が発表した今年第二四半期(4~6月期)の国内総生産(GDP)速報値が当初の予測より低かったことにメディアは敏感に反応した。

「中国4~6月期GDPは0.4%増 ゼロコロナで急減速」(『朝日新聞』2022年7月15日など、紙面には「減速」や「失速」の文字が躍った。

ただ一方で中国当局は「経済のファンダメンタルズはしっかりしていて長期的なトレンドは変わらない」と強気の姿勢を崩していない。問題は一過性で、戻るべき強い経済の流れは健在ということだろう。

この見立て自体は概ね当たっている。経済と感染対策を天秤にかけロックダウンを選んだのだから当然だ。また問題を指摘する一方で、それが全体のなかでどのように位置付けられるかには触れないので中国経済の先行きをミスリードしやすい。

不動産市況が悪化する度に「中国経済崩壊」と大騒ぎし、スリランカの一つの問題で「一帯一路」の失敗に結びつけようとすることなどが典型的だ。

せっかくなので少し触れておけば、ロックダウンが解除されれば中国経済は以前の強みを取り戻せるはずだ。だが問題もある。不動産もその一つだ。ただ不動産は過熱を抑える一方で経済の不動産依存体質を解消しようとしているのだから、悪いのは当然だ。焦点は悪化のペースをどう調整するのか、である。

最大の問題は個人消費だ。コロナ禍の影響もあり、人々が消費意欲を失い、貯蓄への関心が高まっている点は、V字回復を目指す当局の足を引っ張り、経済の見通しに暗い影を落としている。

加えてインフレだ。世界第二経済大国になった中国だが、李克強総理が「6億人がいまだに月収1,000元(約2万円)」と漏らした一面もある。食料品やエネルギー価格の高騰は社会の不満を一気に高める爆弾になる。

奇しくもインフレ問題は中国だけでなく世界が直面する悩みでもある。

周知のようにエネルギー価格の上昇やインフレの問題は、コロナ禍の余波であり、ロシアがウクライナに侵攻するずっと前から起きていた。

より細かく言えば、その原因はコロナ禍が一休みした段階で起きた急激な需要の回復であり、供給過少に陥ったことが大きい。ただそれ以前から世界的なコンテナ不足やチップ不足による生産の停滞は多くのメーカーを悩ませていた。

また一部の港湾では、荷下ろしが滞り、消費者になかなかモノが届かないという問題も起きていた。加えてアメリカが発動したさまざまな制裁によるブーメラン効果──対中制裁関税はほぼアメリカの消費者が負担したと地元メディアが伝えている──としてのインフレも挙げられるのだ。

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こうしたことを前提に、今週は二つの世界の動きを振り返ってみたい。一つはジョー・バイデン大統領の中東訪問。もう一つはG20財務相会議である。二つに共通しているのは、エネルギー価格の高騰やインフレへの対処を目的としていたものの、いずれも不発に終わったことだ。

G20を扱ったロイター通信の記事(2022年7月13日)は典型的だ。そのタイトルは「G20財務相会議が15日開幕、インフレなど議論 共同声明困難か」とあり、団結よりも不協和音に焦点が当てられていることがわかる。

そもそもロシアの代表をめぐって対応が二分されていたのだから、協力して共通の課題に取り組むという以前の話だったのかもしれない。

エネルギー価格の高騰への対応という意味では、バイデン大統領の中東訪問は一つの突破口となることが期待された。

だが、実情は入り口のサウジアラビア訪問から苦しい会談となったようだ。『日本経済新聞』(2022年7月13日)は、「サウジと関係改善なるか? バイデン氏、13日に中東訪問」というタイトル記事で、「ウクライナ侵攻を続けるロシアへの制裁で原油供給が細り、最も多くの余剰生産能力を持つサウジにロシア産の代替を頼まざるを得なくなった」とアメリカの苦しい立場を解説していた。

サウジアラビアに石油の増産を頼まなければならないのに、人権問題では厳しい対応をしなければならないのだ。

案の定、ムハンマド皇太子は15日のバイデン米大統領との会談でバイデン氏がムハンマド氏主導と見るサウジ人記者殺害事件(2018年)を取り上げたことに強く反発した。『毎日新聞』(7月16日)によると、「『このような事件は世界のどこでも起きうる』と主張。米国も過ちを犯してきたとして、駐留米軍による被収容者虐待事件が起きたイラクのアブグレイブ刑務所を例に挙げた」という。

同じようにイスラエルとの関係改善への一歩というアメリカや欧米メディアの見立てを直ちに同国外相が打ち消すという反応も見られ、交渉が難航したことを予感させた。

厳しい対ロ制裁で足並みをそろえた西側先進国がそろってエネルギー価格の高騰に苦しめられているのは周知の通りだ。少なくともこうした状況が早期に解消される見通しは遠のいたと言わざるを得ない。

世界に吹く逆風のなか中国はどうしているのだろうか。

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一過性の物価高騰やエネルギー価格の上昇はあったものの、欧州のような厳しい状況にはない。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相が「欧州連合は(制裁で)自らの肺を撃ち抜き、経済は息も絶え絶えだ」と形容したのは象徴的だ。

危機感の違いは中国が制裁に参加しておらず、ロシアからエネルギーを確保できているからだと考えるのが自然だ。しかし、それだけではない。

中国は常にエネルギーが不足することへの警戒があり、その対策に頭を悩ませてきた。それは調達先の多様化や新規運搬ルートの開拓に余念がないことからも分かるが、インフレ対策としての備蓄にも力を入れてきた。

中国の備蓄の現状は天然ガスの視点から見ることができる。自ら天然ガス輸入大国と呼ぶ中国の対外依存度は44%──うち35%はパイプラインで65%がLNG──と高い。

輸入に依存する中国がエネルギー価格の高騰を意識したのは2021年の夏を過ぎたあたりだ。液化天然ガス(LNG)の価格は、11月末に2018年(年初)時点の2倍を超え、人々の生活を圧迫し始めた。

LNGの価格高騰はロシア・ウクライナ戦争の前から世界的な課題であったが、中国ではここに寒波の早期到来という要素も加わり暖房解禁の時期を前倒さざるを得なくなったためである。

エネルギー価格の高騰が市民生活を直撃するのを和らげるため、備蓄エネルギーが放出される。備蓄と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはり相国寺ガス田の存在だろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年7月17日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Marlin360 / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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