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コロナに続く災厄。日本にも入り込んだ「サル痘(エムポックス)」の危険度と今後

欧米を中心に流行し、日本でも7月25日、28日と相次いで感染者が確認されているサル痘(エムポックス)。これまでアフリカ以外での罹患がほとんど報告されていなかったこの感染症は、なぜその他の地域に拡大してしまったのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』では著者でジャーナリストの伊東森さんが、サル痘について詳しく解説。さらにその流行の背景や今後の感染動向等について考察しています。

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サル痘、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」か? なぜ感染が拡大しているのか? そして対策は?

欧米などでサル痘(エムポックス)の感染が相次いでいることを受け、WHO(世界保健機関)は日本時間の6月23日午後7時ごろから、専門家による緊急の委員会を開催。

感染の広がりが、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に相当するかを検討する。

WHOによると、委員会の検討結果をもとにテドロス事務局長が今後、数日以内に緊急事態を宣言するかどうか、判断するという。

緊急事態の宣言は、現在、新型コロナウイルスとポリオで出ている(*1)。

「ウイルスが過去にない異常なふるまいをしているのは明らかだ。より多くの国に影響を及ぼしており、協調した対応が必要だ」(NHK NEWS WEB、6月21日)

WHOのテドロス事務局長は14日、会見でこう発言し、危機感を示す。

「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」は、「国際保健規則」に定められた手続きによるもので、「他の国々に公衆衛生上の危険をもたらすと認められ、緊急に国際的な調整が必要な事態が発生したとき」に宣言が出される(*2)。

英語では「Public Health Emergency of International Concern」というもので、頭文字をとってPHEIC(フェイク)と呼ばれ、過去に6回、出された。

過去にPHEICが出された事例

(NHK NEWS WEB、6月21日)

サル痘は、従来、中央アフリカだけ散発的にみられる感染症であったが、しかし、今後、ヨーロッパなどで定着することが懸念される。

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※ 上記情報は6月26日時点のものです

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なぜ、感染が拡大しているのか リスの食用が原因?

なぜサル痘の感染がここまで拡大しているのかは、現在のところ分かっていない。ただ、確実にではあるが、感染地域の拡大は起きている。

従来感染がなかった地域での感染例はここ1カ月で1,000例を超えた。範囲は欧州を中心に、南北アメリカ大陸やアジア、オセアニア地域に広がる。

しかも、潜在的な感染者も含めると、すでに多くの感染者が存在している可能性もある(*3)。

サル痘は、天然痘と比較されることもある。ビル・ゲイツもサル痘について言及していた。

サル痘の感染者がアフリカで広まっていた背景はよくわかっていないものの、ナイジェリアの研究グループは次の3つの要因を論文で取り上げている。

第一に、天然痘ワクチンの接種を受けていない人が増えていったこと。天然痘そのものは、紀元前から人類の命を脅かす感染症であったが、しかし19世紀の終わりから開発された種痘により、予防が可能な病気となった。

そして1977年の発生を最後に感染者がいなくなり、1980年代にWHOは天然痘の根絶を宣言、結果、予防接種も行われなくなった。

そのため、ワクチンを接種していない40代より下の世代の人に対し、サル痘が広がりやすくなった。

第二に、「ブッシュミート」の食用利用が広がったことも理由のひとつであるという。ブッシュミートとは、森林地帯の野生動物の肉を食用利用すること。

サル痘のウイルスはリスが持っていることが分かっているが、コンゴ民主共和国では10代の患者ががリスを食べたことがあると答えている。

経済的な困窮を背景に、リスが身近な食肉となり、サル痘の感染拡大との因果関係が懸念されている。

第三に、そもそも医療施設のインフラが整っていないこと。サル痘の原因となるポックスウイルスは乾燥に強く、体液の付いた寝具から感染すると考えられている。

そのため、感染者を収容する医療施設の衛生状態が悪いため、サル痘の蔓延が起こりやすいという指摘もある。

WHOの感染症疫学者マリア・バン・ケルクホーブ氏は、5月23日のオンライン公開質問会で、

「今回の症例では(サル痘の)感染は、本当に密接な身体接触、つまり皮膚と皮膚との接触で起きています。それは新型コロナとある意味、大きく違います」(ナショナル・ジオグラフィック、5月30日)

と答え、

「これは封じ込められる状況です」(ナショナル・ジオグラフィック、5月30日)

と言う。

「感染者に投与する抗ウイルス薬候補も、感染リスクの高い人々、つまり感染者との濃厚接触者に投与するワクチンもあります。ワクチンは全員に必要なものではありません」(ナショナル・ジオグラフィック、5月30日)

とした。

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サル痘感染の広がり 実際は猿の病気ではない

サル痘は、人に感染した場合、3日~1週間ほどに潜伏期間を経て、発症。最初は0日~2週間は発熱やリンパの腫れ、その後に顔から全身に発疹が広がる。ただ、発疹が突如、出る例も報告されている。

「サル痘」という名称は、1958年に最初に感染が見つかったのが、カニクイザルをいうサルの仲間だったため。ただ、サル痘は猿の病気ではない。

そもそも、自然界でサル痘のウイルスをもともと持っていう動物が何なのかもわかっていない。

さらに、サル痘が見つかった猿もデンマークのコペンバーゲンの研究所で飼育されていた猿で、その猿も最初に流行地とされたアフリカからではなく、シンガポールから輸入されたものだった。

しかも、歴史的にもサルから人間に感染した事例も、1例か2例しか報告されておらず、そもそも「サル痘」という名称は適当であるのか、という問題もある。

わかっているとは、アフリカで徐々に感染の拡大が広がっていったということ。

1970年に初めて、中央アフリカのザイール(現在のコンゴ民主共和国)で感染が確認されてから、1970年代にザイールで38人、西アフリカのリベリアで4人、ナイジェリアで3人の感染が確認。

1980年代になると、感染地は西アフリカに移り、ザイールだけで343人が確認された。1990年代になると、10年間で511人、ザイールだけで確認、風土病であると認知され、いったんは世界から忘れ去られた。

しかし、2000年代に入ると、コンゴ民主共和国で10年間に1万27人の感染者が確認。そして2003年に初めてアフリカ以外の国で確認された。

アメリカで47人の感染者が確認。アフリカから輸入されたげっ歯類と一緒に飼育したプレーリードッグがペットとなり、そこから感染が広がった。

2017年以降になると、ナイジェリアからの渡航者を介して、イギリスやイスラエル、シンガポールでも感染例が報告された。

今回、感染が広がっていることについて、WHOやECDC(ヨーロッパ疾病予防管理センター)は、密接な接触によって誰もが感染する可能性があるとしたうえで、これまでの追跡調査で確認された患者の多くについては、男性どうしでの性的な接触があったとする。

また、一部の専門家はヨーロッパ各地で開かれた大規模なイベントを介して感染が広がった可能性を示唆。今後、夏に向けてこうしたイベントがさらに増えるとみられることから各国は注意を呼びかけている。

一方で、感染経路が特定できない、いわゆる「市中感染」とみられる患者や、女性の患者も確認されているとし、特定のグループの人々の病気としてとらえずに、警戒すべきだとする。

WHOはサル痘にかかった人と密接に接触したことのある人は誰もが感染するリスクがあるとし、

「病気を理由に不当な扱いを受ける人がいてはならない」

とする。

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今後の動向 求められるワクチン接種と特効薬

WHOは症状が出ている人は検査を受け、他の人との密接な接触を避けて、医療機関にかかるよう呼びかけている。

一方、ECDCは「可能性は非常に低い」としたうえで、ヒトからヒトへの感染が続けば、ヒトからいずれ動物に感染、動物の間でも広がり、今後、欧州に定着する可能性を指摘している。

WHOでシニアアドバイザーを務める進藤奈邦子さんは、今月18日に横浜市で開かれた学会でNHKの取材に応じ、

「これまで分かっている範囲では、感染の広がりのほとんどは男性どうしで性的な接触を行った人たちの中にとどまっているが、感染のすそ野がどれだけ広がっているのか全くわかっていない。

ただ、新型コロナウイルスのようには広がるものではない。直接の身体の接触が主な感染経路となり、講演会の会場のような場所で広がるようなことはない」(NHK NEWS WEB、6月21日)

とする。

サル痘に対しては、天然痘のワクチンが高い効果があり、WHOによると感染を防ぐ効果は85%に達するという。

ただ、天然痘はワクチン接種が日本国内で最後に接種が行われたのは1976年で、そのときに子どもだった、いまの40代後半以上の世代は接種を受けており、サル痘に対する免疫がある可能性があるものの、それより下の世代は免疫を持っていない。

日本にある天然痘のワクチンは、効果が高く、副反応も小さいとされ、テロ対策の一環として国家備蓄されている。

サル痘に対する薬の開発は、一応は進められているが、いまのところ特効薬のような治療はなく、各国では対症療法で対応している。

欧米では、サル痘の感染対策として新たに天然痘のワクチンを購入する動きが相次いでいる。カナダなど一部の国では医療従事者や、患者と接触した人などへの接種がすでに始まっている。

しかし、患者と接触していても、ワクチンの接種を希望する人が少ないことも課題になりつつあるという。

イギリスの保健当局が6月2日に公表した報告書では、ワクチンの接種の希望を聞かれた医療従事者の69%が接種を希望したのに対し、患者と接触した人では14%しかワクチンの接種を希望しなかった。

しかし報告書では、

「根絶という目標を達成するためには、患者の迅速な発見や感染経路の追跡が必要不可欠だ。定期的な検査などワクチン以外の対策についても検討すべきだ」(NHK NEWS WEB、6月21日)

とする。

引用・参考文献

(*1)「サル痘 WHO 専門家緊急委で検討 『緊急事態』か数日以内に判断」NHK NEWS WEB 2022年6月23日

(*2)「サル痘 『国際的な緊急事態』か注視 わかってきたこと 6/21」NHK NEWS WEB 2022年6月21日

(*3)星良孝「なぜ今サル痘?人口大国ナイジェリアでの39年ぶりの流行勃発が示唆する未来」JBpress 2022年6月11日

● 「サル痘について今わかっていること、感染経路や治療薬、歴史など」ナショナル・ジオグラフィック 2022年5月30日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年6月26日号より一部抜粋・敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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