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プーチンの軍事侵攻が誘発した「世界大乱時代」に日本が果たすべき3つの自立

世界中の誰もが目と耳を疑った、プーチン大統領によるウクライナへの軍事侵攻。未だ先行きが見通せないこの戦争は世界各地で対立や紛争を誘発していますが、日本もその影響から逃れることはできないようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、長期化するウクライナ戦争の最新の戦況を詳細に解説。さらに同戦争により扉が開かれてしまった世界大乱時代に国民の命を守るため、日本政府が早急に自立を果たすべき3つの分野を提示しています。

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ウクライナ戦争の推移

ウクライナ戦争に刺激されて、ナゴルノカラバフ、セルビアとコソボ紛争、ペロシ訪台で中国軍大規模演習とイランの他国攻撃の準備と世界の各所で火が付き始めた。今後を検討しよう。

ウクライナ東部での戦闘では、ロ軍は部隊を南部ヘルソン州やザポリージャ州に送り、手薄の状態になっている。このため、イジューム西・南側では、すでにウ軍が反撃をして、ブラジスカやスリヒフカなどを奪還している。

しかし、スラビアンスクの南に位置するバクムットには、ロシアは傭兵会社ワグナーや特殊部隊を使い、攻撃してくるので、ウ軍との激しい戦闘にもなっている。

しかし、この方面でも、ロ軍は激しく砲撃後、バクムート市を攻撃したが、ウ軍の砲撃で損害が大きく撤退した。現在ロ軍で最強のワグナー部隊や特殊部隊でも、ウ軍を打ち負かすことができないようで、ロ軍の限界点に来ているようだ。この部隊の損耗も大きくなっているようだ。

ロ軍の激しい砲撃は、ベラルーシの弾薬庫から運んだ弾薬であり、それも残り少なくなっているようである。また、シリア、イランや北朝鮮の弾薬も持ってきた可能性もあるようだ。同盟国の弾薬も使い果たすと弾薬不足になると思われる。

それと、北朝鮮は10万人も兵員をロ軍に送るとロシアのTVが言っている。本当か疑問もわくが、もし本当なら、北朝鮮は外貨欲しさに、兵員を死地に送る。ロ軍の兵員不足で北朝鮮軍を傭兵として使うことになる。月30万円でも月300億円が北朝鮮の収入になる。

そして、ウ軍がドネツク市をハイマース(HIMARS)で攻撃するので、ドネツク市から80km以上をロ軍は確保して、HIMARSの攻撃を阻止したいようであるが、この攻撃も撃退されている。

また、火力発電所をロ軍に奪われて、冬場のエネルギー供給ができないドネツク州から住民を強制避難させることにして、順次退避をさせているが、それが終われば東部全体でも本格的な反撃に出るようだ。

ロ軍は南部と東部の2つの戦場で戦う必要があるが、兵員が不足していて、優先順位を付けるしかない状態であり、現状は南部を主戦場としたいようである。

ザポリージャ方面でも、ウ軍が前進しているが、ロ軍はここにも12の大隊戦術群(BTG)の増援部隊を送ったようである。今後、この地域でもウ軍とロ軍の激しい戦闘になるのであろうが、今は静かである。

そして、ザポリージャ原発では、核を盾にして、ロ軍の武器などの保管場所としているが、原発が「完全な制御不能」状態になっているという。砲撃もあり、破壊や事故等が起きれば、大きな被害が出ることになる。IAEAは、原発の状態を調査するために、ロシアとウクライナに合意を求めている。

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南部ではウ軍は、反撃に出ている。ロ軍は東部のイジューム方面から20BTGを南部ヘルソン州北部に送り、この地域の防衛と北部で大攻勢を掛ける準備をしている。

このための大量の榴弾自走砲や装甲車両をケルチ橋で鉄道輸送する姿が見られている。攻撃というより防衛に必要な兵器を送っていることになる。ロ軍は南部には現状10-13BTGいたが、20BTGを増強し30BTGと体制を強化することになる。この部隊がヘルソン州北部中央に位置して、ウ軍の攻撃に対応するようである。

ウクライナ全体で、100BTG程度のロ軍が活動しているので、ヘルソンなど南部地域に重点を移したことがわかる。ウ軍とロ軍が真向勝負になるようだ。

しかし、この補給物資や増援する兵員を輸送中の列車がノバカホフカの南に位置するブライナカ駅に到達した時点で、ウ軍HIMARSの攻撃を受けて破壊されて、兵員約200名が死傷したという。ここしか補給ルートがないので、ウ軍に狙われている。この地域にはパルチザンもいて、列車情報も筒抜けである。

この南部地域では、ウ軍は戦闘機と攻撃機で大規模な航空反撃戦を実施し始めている。クリミア半島からのロ軍空軍機は、ウ軍の地対空ミサイルで行動を抑制されている。ロ軍増援部隊は、この空爆にも悩まされることになる。

そして、ノバカホフカの水力発電所の攻撃もウ軍は行う可能性が出てきた。この水力発電所を破壊すると、ドニエプル川北部への補給ルートがなくなり、その上、ヘルソン市も水没するし、近くにかかる船橋も構築できなくなる。これにより、ドニエプル川北部は孤立化することになる。援軍を送っても弾薬などが補給できないことになる。

だが、ウ軍は、この地域全体の情報統制を厳しくしているので、事態がよくわからない。

しかし、ヘルソン市への砲撃は行うが、市内に兵を進めないようであり、自爆ドローンで占領軍軍人や行政トップ、協力者などを個別に排除しているが、全体的にはロ軍を孤立させて降伏を待つのであろう。ここに補給ができないので、ロ軍としても増援も送れないようである。

ヘルソン州の北中部ロゾベでも、ウ軍はインフレッツ川に船橋を掛け、ロシア占領地に橋頭保を築いたが、ロ軍は空爆と砲撃を行い、この船橋を破壊しているが、ウ軍は複数の船橋を構築して、部隊を増援している。ウ軍は、この地域の50か所以上の集落を解放したともいう。そして、ロ軍攻撃機は、ここでウ軍戦闘機と対空ミサイルの餌食になっているようだ。

その上、クリミア半島のセヴァストポリ付近でロシア黒海艦隊の大型巡視船ヴァシリー・ビコフが、ウ軍のハープーンミサイルで破壊され、行方不明の船員が20人とのこと。まだ沈没はしていないようである。

一方、ウ軍後方の弾薬庫や指令所がロ軍から砲撃を受けていない。これはロシアの偵察衛星が識別できないことによるが、ロシアの偵察衛星は、解像度33センチのペルソナ衛星1機とロシア版ALOSのバーMが解像度1.1mの3機、解像度2.1mのカノープスVが6機という現状で、これではウ軍の攻撃目標を捕捉できないようだ。

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このため、HIMARSを破壊したというロシアの発表では、衛星画像が使われるが、そこに映る画像は非常に荒く、HIMARSと認識できない。このため、ロ軍は砲撃を受けるHIMARSを捕捉するドローンが必要であるが、そのドローンをイランがパイロット込みで提供することになり、第1陣がロシアに提供されたという。イランは代わりにSU-35を複数機提供される物々交換のようである。

そして、このドローンを戦場で、ウ軍も確認しているとウ軍参謀本部は発表した。

よって、今まではHIMARSは破壊されていなかったが、今後は分からないことになる。早く対ドローン用防空システムの増強が必要である。

ロ軍の限界点に来て、プーチンは、同盟国に対して紛争拡大を志向しているようである。セルビアがコソボ国境付近で、ネオナチのコソボ打倒と銃撃を行っている。

逆にアゼルバイジャンは、ロシア軍の支援を受けられないアルメニアに対して、ナゴルノカラバフのラチン回廊の戦略的に重要な高地をいくつか占領したようだ。

ロシアは、現状での停戦を主張しているが、ウクライナは2月24日以前の状態での停戦と、停戦条件で折り合わない。しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領もロシアとの停戦協議開始のために、中国の習近平国家主席と会談をするという。

ウ軍優勢であり、ロシアの譲歩が期待できるので、2月24日以前の所までロ軍撤退を交渉で得られるという目算があるのであろうか?

もう1つ、ロシアが負け始めると、限定核使用の心配をする必要があり、それを阻止するためにも中国のロシアに対する影響力が必要になっている。しかし、プーチンはNPTに「核戦争に勝者なし」と核兵器使用を躊躇している。

そして、一番大きいのは、ドイツ、フランス、イタリアなどが、冬に向けて、ロシア産天然ガス供給を止められると、政治的に現政権が持たないことで、ウクライナに停戦の要求をすることになる。

しかし、ロシアのガスプロムも「行先ない」余剰ガスを空中に放出しているようである。中国に送りたくともパイプラインの容量が不足なのであろう。このため、輸出量が8割も減っているので、国家財政も持たなくなっている。ドイツだけではなく、ロシアも困っているのだ。

欧州の危機を、ゼレンスキー大統領も認識している。冬までに戦争を終えるとセレンスキー大統領も再三述べていたが、その準備をする必要があるからだ。これを受けた形でプーチンも核使用はしないと述べた可能性もある。

そして、ウクライナの食糧輸出では、最初の貨物船がボスポラス海峡を通過してレバノンに向かっている。食糧価格は、小麦などの価格が下落し始めた。この問題では停戦協議にならなかったが、欧州のエネルギー不足は、停戦協議になるようだ。

早く、ウ軍が領土を奪還して、停戦に持ち込んでほしいと思い始めている。それは、ウクライナ戦争が続くと、世界大乱という状況を引き起こしかねないからだ。

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世界の大乱が始まった

ウクライナ戦争は、イスラエルとパレスチナの紛争再熱、セルビアのコソボ国境での銃撃戦やアゼルバイジャンのナゴルノカラバフの攻撃、ペロシ下院議長の訪台による中国の台湾封鎖のような軍事演習などの紛争を誘発している。

強権的な国家群による民主主義国への攻撃が頻発してきた。もう1つが、米国の国内分裂を回避するために、中国を敵対視して、国内をまとめたいという思いがペロシ下院議長が持っていることである。

このまま、11月の中間選挙に臨めば、民主党が負けるので、紛争を起こして、米国民全体の共通の敵が必要なのである。米国はロシアの力が落ちていて、ウクライナにも負けることで、米国民の共通の敵とは、ならなかった。ロシアでは役不足であった。

中国も今後、金融崩壊による経済危機が来るので、こちらも国民の目を外に向けさせたいという志向が習近平国家主席にはあるので、米国の挑発に乗ることになる。

そして、韓国のユン大統領は、ペロシ下院議長との会談をキャンセルした。これは中国との関係を重視して、米国との関係を相対化する行為であり、米国との同盟関係を強固にする方向ではない。

韓国は米中のはざまで揺れ動くことになる。韓国は日本との関係も徴用工問題で、日本企業の資産現金化の方向は変えないので、日韓関係も異常のまま。この状況を見て、北朝鮮が動くと、朝鮮半島でもおかしなことが起きる可能性がある。

それと、多くの国でも、物価が高騰して国民が苦しくなり、ここでも隣国を敵として、戦いを仕掛けて、国民の目を外部に向けさすという動きになるので、世界全体が敵と味方になり、世界大乱になっていくことになる。

勿論、台湾や朝鮮の隣国である日本も例外ではない。そのために、できるだけ多くの原発を再稼働させて、エネルギーの自立とコメなどの増産による食糧の自立が必要になっている。大乱の時代には、軍事的自立、エネルギー自立、食糧の自立が最も必要である。

それは、海上封鎖が各地で起こり、海運に破壊的なダメージを与えて、供給を海外に頼ると途絶して、国民の生命を守れないからだ。

国家の目的は、国民の生命、財産、文化を守ることである。世界大乱を前にして、コスト重視の経済発展より先に安全保障上で確保するべき物の自立が一番するべきなのだ。政治家の使命は、危機対応の政策を作り、実行することである。今がその時である。

世界大乱の時代が始まった。くれぐれも、その時代を見通して、世界大乱に備えてほしいものである。

さあ、どうなりますか?

(『国際戦略コラム有料版』2022年8月8日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: DarSzach / Shutterstock.com

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