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ノーベル賞受賞者たちが口を揃えて苦言。日本が先進国で唯一「低学歴」な理由

この春に成立した『国際卓越研究大学法』という法律をご存知でしょうか。政府が検討し認定された大学に国が元手を貸す、いわゆる『官製ファンド』に認定されるべくある2つの大学が手を取り合いました。今回のメルマガ『 デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』 デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』 』では、著者で健康社会学者の河合薫さんが、この官製ファンドの背景にあるものや、世界の先進国の中でも唯一低学歴になっている日本の原因について語っています。

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「目指せ!稼ぐ大学」は危機脱出になるか?

「東京医科歯科大と東京工業大が統合に向けた協議を開始」という、驚きのニュースが飛び込んできました。

早ければ2024年春にも統合が実現する見通しだとか。1つの大学とするか? はたまた、運営法人の傘下に2つの大学を置くか?は今後詰めていくそうですが、個人的には、後者希望です。外野の戯言ではありますが、「大学名は昔のまま」それぞれのアイデンティティを大切にしてほしいなぁ、と。都立大の例もありますし、ね。

それはさておき、両大学が手を組む目的は「めざせ!国際卓越研究大学」。これはこの春、国会で可決・成立した新しい法律「国際卓越研究大学法」に基づくもので、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が検討し、認定します。

法律では、国際卓越研究大学を、「国際的に卓越した研究の展開および経済社会に変化をもたらす研究成果の活用が相当程度見込まれる大学」と定義。「産学連携や寄付などで年3%の事業成長」「重要事項を決定するための、学外者が多数を占める合議体の設置」などの条件があり、CSTIは岸田首相が議長を務め、6人の閣僚、および大企業の会長や役員、大学の教授など、計14人のメンバーで構成されています。

政府は10兆円規模の「大学ファンド」で年3000億円の運用益を得る目標で数校を指定。1校あたり年数百億円を支援する予定です。科学技術を「成長戦略の柱」とする岸田文雄政権の看板政策の一つで、世界でも珍しい、国が元手を貸す「官製ファンド」。うまくいけば、世界から評価されること間違いなし……らしいです。

今回の統合は、両大学が得意とする医療や工学など幅広い分野で先端研究を展開することで、「世界と戦える大学になるための大型の公的支援をゲットしよう!」ってこと。東工大はこれまでも攻めてましたから。その手があったか!あっぱれ!ですね。

さて、国が官製ファンドという“切り札“を切った背景にあるもの。それは「日本の科学技術力の衰退ぶり」への危機感です。

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文部科学省が所管する科学技術・学術政策研究所(NISTEP)がまとめた報告書「科学技術指標2022」によれば、日本は1980年代から2000年代初頭までは論文数のシェアを伸ばし、英国やドイツを抜かし、一時は世界第2位まで上りつめました。

ところが、最新のデータでは、1位中国、2位米国、3位ドイツ、4位インドに次ぐ5位に転落(前回4位)。注目度の高い論文数(Top10%補正論文数)は12位(前回10位)、Top1%補正論文数では10位(前回9位)にまで転落しています。

さらに、日本の研究者が発表した論文は、米クラリベイト・アナリティクスが提供するオンライン学術データベースである「Web of Science」のデータによると、05年に比べて15年には約600件減少。減少幅は1%未満ですが、世界の論文に占める日本のシェアは8.4%から5.2%に低下しました。
世界トップ級の研究成果を集約しているデータベースである「Nature Index」のデータでも、12年から16年にかけて、日本の貢献度は19.6%減少するなど壊滅的です。

いわば「10兆円規模の大学ファンド設立」は、国の最後の切り札のようなもの。選択と集中であり、稼げる大学には大枚をはたくが、それ以外は……というのが本音なのでしょう。

私は、国がこれまでにない「官製ファンド」という新しい制度設計をして、多額の資金援助を進めることには大賛成です。
しかし、研究に大規模な税金を投入することと、科学技術力を高めることは同義ではない。全くの別物です。

ごく一部の大学だけを支援することが、日本の研究力向上につながるとは、到底思えません。

日本は先進国で唯一「低学歴国」を爆走中です。

日本の低学歴化は10年以上前から問題になっているのに、全くと言っていいほど改善されていません。むしろ悪化し続けているのです。

96年、文科省は「世界に追いつけ、追い越せ!」とポスドク(博士研究員)1万人計画を立て、大学院博士課程の定数を、それまでの3倍もの規模に増やしました。
ところが、博士号取得者を欲しがる大学も企業もなく、1万8000人もの“さまようポスドク就職浪人”が量産される惨憺たる結果に。高学歴ワーキングプアの誕生にもつながりました。

当たり前のことですが、研究を行うのは「人」であり、日本の科学技術力を向上させたのも「人」です。日本の研究者を取り巻く環境の悲惨さは今も変わらず、早急に解決すべき問題として残ったまま。

日本の研究力が低下している原因は、研究者の力を最大限に引き出す環境がないことが最も大きいのではないか。日本は自由に研究ができない、研究する環境が整っていない、このままでは日本は沈没する、とノーベル賞博士たちが苦言を呈してきたのはなぜか?

政府の「ニーズ至上主義」の下、カネ、カネ、カネばかりが優先され、学問の府であるはずの大学が、市場経済に取り込まれていったのです。

優秀な大学への大型投資と並行して、博士を育てるための「人への投資」も必要不可欠です。
「博士になりたい!」と思える環境を作ってほしいです。

みなさまのご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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