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核による“人類の自殺”まで秒読み段階。暴走プーチンが握る世界の命運

2021年に核兵器の法的禁止を謳う「核兵器禁止条約」が発効するも、プーチン大統領の核使用をちらつかせる威嚇等もあって、核軍縮の流れが大きく停滞しています。このまま世界は核軍拡の方向に傾いてしまうのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、現在国際社会が直面しているさまざまな危機を詳説。さらにロシアの核兵器が今後の核軍縮・核廃絶の動きを大きく左右するとしてその根拠を解説するとともに、ウクライナ戦争の即時停戦の重要性を説いています。

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核兵器は過去の遺産か?それとも現在進行形の未来に向けた脅威か?

8月1日には国連本部(ニューヨーク)でNPT再検討会議が開幕し、8月6日には広島で、8月9日には長崎で原爆投下から77年目の式典が開催された「核兵器ウィーク」となりました。

それらすべての会議や式典で岸田総理は演説を行いましたが、その中で【77年前の原爆投下の悲劇と記憶を忘れてはならない】という過去から現在、そして未来に向けてのメッセージと【核なき世界の実現に向けた決意】が述べられました。

同時に【現在進行形で継続しているロシアによるウクライナ侵攻(ウクライナでの戦争)において、常にロシアによる核兵器使用の脅威が存在していることへの“懸念”と“非難”】が強調されました。

今年の2月24日以降、ロシアのプーチン大統領が再三、核兵器の使用を厭わないといった趣旨の発言を行い、世界は核軍縮から核軍拡へと進むのではないかという脅威が、再度、私たちの意識に上ってきました。

グティエレス国連事務総長は広島の式典で「第2次世界大戦後、20世紀の間、国際社会は核軍縮、そして究極的に核廃絶に向けた機運を高めてきたが、ロシアによる核兵器使用の可能性の強調は、21世紀に入って再度、核軍拡が進みかねない禁断の扉を開けてしまう可能性がある」と強い懸念を表明しました。

私も昨年4月以降、へいわ創造機構ひろしま(HOPe)のプリンシパル・ディレクターとして「核なき世界の実現」に尽力し、「核兵器が存在する未来は決して持続可能な社会ではない」と訴えかけ、ユースを含む様々なステークホルダーと共に未来に向けたトレンドづくりに携わっていますが、【どのようにして核なき世界を実現するか】という具体的な道程については、まだ明確に描けずにいます。

その中でも【核保有国を核なき世界の実現に向けて巻き込むにはどうすればいいか?】【新たに核保有国となったインド、イスラエル、北朝鮮、パキスタンなどを同じく巻き込むためにはどのような要素が必要か】【核廃絶の問題を、持続可能な未来づくりという観点とどう結びつけ、橋渡しをすべきか】といった問いにまだ答えを見つけられずにいます。

そのような時に、現状の国際社会では【核なき世界の実現】に向けた機運に冷や水を浴びせかけそうな状態が起きています。

1つ目は【ウクライナでの戦争を機に鮮明になった国連安全保障理事会常任理国(P5)間での不可逆的な分断】です。

現在、ニューヨークの国連本部で開催中のNPT再検討会議でも、米英仏陣営の論調は、自らが保有する核兵器の削減や軍縮に言及しないにもかかわらず、核兵器使用をちらつかせるロシアと核軍拡を進める中国への非難一色ですが、中国とロシアは【自国の国家安全保障上の権利と義務という観点から、米英仏などからの脅威に対するために核兵器は“まだ”必要】との主張を繰り返し、会議そのものの話し合いを妨害しているようにも見えます。

そして今週に入って、ロシアはアメリカと延長で合意した新START(新戦略兵器削減条約)で定められた“相互査察”を一方的に停止する旨、アメリカに通告し、今後、ロシアの真の核戦力の姿がベールに包まれて把握しづらくなるという不穏な事態を招いています。

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NPT体制においては、米ロ(ソ)中英仏の“核保有国”は、核兵器の廃絶を念頭に、核戦力の削減と軍縮をする義務を負い、その他の国々は核兵器を開発・製造・配備しないことが合意されていますが、これらの義務も合意内容も明らかに守られていません。1945年8月9日に長崎に原爆が投下されて以降、核兵器は使用されてはいないため、核抑止といった幻想が国際政治上、信じられてきましたが、その間もインドとパキスタンは核戦争前夜と言われるまでの緊張を経験しましたし、中東においては常にイスラエルとイランの間での“核の緊張”が存在します。そして、わが国日本も巻き込んだ北東アジア地域では、現在、北朝鮮が恐らく20発の核弾頭を保有し(SIPRIの情報による)、いつでも配備できる状態になったという新たな現実が、核の脅威としてその影を落としています。

日本は、ロシア・中国・北朝鮮・アメリカ合衆国という核戦力に四方を囲まれる非常に特異な安全保障環境に置かれていますが、アメリカは日本に核の傘を提供する“同盟国”なので直接的な脅威ではないとしても、残りの3か国とは常に緊張関係にあるという現実を再認識せざるを得ない国際情勢になっています。

そんな中、広島と長崎でアメリカによる原爆投下から77年目の式典が開催されました。

広島と長崎での式典の様子および原爆投下直後の悲惨な様子を報道する映像を、意図的にウクライナでの惨禍のニュース映像と重ねるという【ウクライナ問題を核兵器の脅威とリンクさせるイメージ戦略】に対しては、個人的に若干の危機感と違和感を覚えましたが、それらの映像が広島と長崎の鎮魂の様子を伝えつつ、どれだけの人に、実際に日本にも再度迫る核の危機を意識させる効果があったかは疑問です。

そんな中、8月1日に日本経済新聞が報じ、欧米メディアも相次いで報じたのが【中国が新疆ウイグル自治区に設置しているロプノール核実験場で地下核実験施設を拡大している】というニュースです。

これに対して中国政府は否定も肯定もしていませんが、各国の軍事衛星がとらえた映像はその情報を裏付けるような内容を映し出していました(これに対して「欧米の陰謀論だ!」「欧米が作り上げた偽の映像だ」という日本の識者もおられましたが)。

今年1月3日国連安全保障理事会で、常任理事国である米英仏中ロの5か国(P5)は共同で「核戦争に勝者なし」と宣言し、「核兵器なき世界という究極目標に向けて、着々と軍縮を進展させる決意」を述べていますが、その後、ロシアは核兵器の使用をちらつかせて、ウクライナを支援する世界を威嚇し、中国はNPTの開催中に地下核実験場の拡大という、NPTの精神に反する行動に出ています。

そして、時期はずれますが、英国政府は核戦力の拡大を国際社会に宣言しました。

中国の行動については、その目的についてさまざまな見方があるようです。例えば「これは対アメリカ・対中国包囲網の参加国に対する威嚇と抑止力の向上を意味する」という意見もあれば、「習近平国家主席が掲げる中国の軍事力拡大の要請に応え、2049年までに米軍の能力を超えるという目標に応える方策として、急速な核戦力の拡充に走っている」という意見もあります。

私はそのどちらも適切な指摘だと考えますが、もう一つ、今、核実験の拡大を“あえて世界に見せる”理由として挙げたいのは【台湾に対する軍事的なオプション】という“中国統一(台湾の併合)”のための最終手段として“見せる”と同時に、先週のペロシ米連邦議会下院議長の訪台への抗議の材料としても位置付けているのではないかと恐れています。

果たしてどうでしょうか?

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ペロシ下院議長は自身の長い議員生活を通じて、ずっと中国の人権問題への懸念を提起し、天安門事件の後には、人権蹂躙の現実に対して天安門広場に赴き、プラカードをもって抗議するという行動にも出ています。

天安門広場に行かれたことがある方には、それがいかに恐ろしい行動かお分かりになるでしょうが、案の定、その先には中国の治安警察と対峙して退去されるという外交上の事件も起こしています。米中間の微妙な相互理解の下、あまり本件は大きく扱われませんでしたが、中国共産党にとってペロシ氏は常に要注意人物であったと言われています。

ゆえに、彼女が大統領権限継承順位第2位の高官であるという事実だけではなく、ペロシ氏の一貫した対中強硬姿勢を受けて、中国政府、そして中国共産党は、彼女の訪台に激しく抗議したのだと、複数の北京における知り合いから聞かされました(米軍機での訪台という示威行為も、北京の怒りを買ったという話もありました)。

しかし、今回、ペロシ氏はどうしてそこまで米中関係のみならず、ただでさえ緊張が高まっている国際情勢に負のインパクトを与えるだろう行動に出たのでしょうか?

帰国後のペロシ議長の発言によると、「習近平氏にとっては、私の訪台は気に食わないことがあっただろうが、民主主義を堅持し、その価値を守ろうと奮闘している台湾を、友人として見逃すことは出来ず、中国からの圧力に対して断固として戦うための連帯を示さざるを得なかった」ということです。

先週もお話ししたとおり、本件に対してはホワイトハウスも国務省も一定の距離を置きつつも、実際にはペロシ氏の訪台を支持する姿勢を取っていますが、これは一説によると、数日前の米中首脳電話会談での対話にも関わらず、中国が核実験施設を拡大するという“暴挙”に出たことが報じられたことで、バイデン大統領も外交的な得点をつぶされたという認識があったからではないかとのことです。

【関連】中国が大激怒。ペロシ米下院議長「電撃訪台」が日本にもたらす災厄

ちなみに中国からは「(同じ)電話会談で噂されていたペロシ氏の訪台を、米中間の緊張がこれ以上エスカレートしないためにも止めるように依頼したにもかかわらず、舌の根も乾かない間に、習近平国家主席のメンツをつぶした」という抗議がなされています。

その抗議の強さの表れが8月4日から7日までの“予定”です。これは台湾周辺で、台湾を取り囲むような構図で実施された本格的な【実戦演習】で、中国軍は弾道ミサイル東風を台湾周辺に打ち込むほどの気合の入れ具合で、米軍の太平洋艦隊も、在日米軍も久々にhigh alertになって実戦配備に入ったと言われるほどのものでした。

ただここで中国政府内のある問題が表面化します。先述のように演習は7日で終わるはずでしたが、8月8日以降も、終了期限を明らかにしないまま継続され、台湾国防軍との間での一触即発の緊張が高まっています。何が問題かというと、明らかに外交部は延長の話を聞かされておらず、内外のメディアから問い合わせをされても情報を持ち合わせていなかったことで、報道官も「軍の発表を見てください」とだけ答えたことでしょう。

ここで浮かぶ疑問が「誰の指示で軍事演習が継続されているのか」という点です。

人民解放軍の中枢がすでに、北京からの指示の有無にかかわらず、臨戦態勢に入り、台湾および周辺にいる日米勢力に対してDon’t touch Taiwan的なメッセージを示したという見方が一つ。

それとも台湾もアメリカも一歩も退かない状況に直面して、習近平国家主席から継続の指示が下りた結果という見方が別の見方です。

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前者だとしたら明らかに中国共産党のコントロールが効いていない(かつて習近平国家主席は軍をまだ掌握できていないという情報があったように)ことを国内外に示してしまうことになり、場合によっては大問題に発展し、秋の習近平国家主席の3期目就任に黄信号が灯ることにもつながります。習近平体制の脆弱性と中国共産党の崩壊のシナリオを描きたい方々がサポートする説です。

後者については大いにあり得るシナリオで、これはそろそろ開催されると見られている北戴河会議に絡んで、習近平国家主席とその周辺が「台湾海峡での軍事的緊張の高まりはあくまでもアメリカが仕組んだものであり、中国は核心的利益であり、固有の中国の一部である台湾を守る覚悟を示すために、演習を延長し期限を設けないことで、中国の覚悟を示す」という狙いがあり、習近平国家主席の指導力に対して、国内外、特に党内からの非難・批判が集まることを避けようという狙いがあったのではないかと見られています。

ちなみに、ペロシ氏訪台以降、当局の規制にもかかわらず、中国内のSNSは大荒れの様子で、一説では秋の共産党大会での習近平国家主席の続投に悪影響が及ぶとの見方も出てきているようです。

ただ、いろいろな情報を分析してみると、北戴河会議で共産党長老たちが一枚岩で習近平国家主席の3期目をブロックするとは私は見ていません(ただし、一枚岩のサポートも得られないでしょう)。

ペロシ氏の訪台は確実に中国共産党にとってはショックとして捉えられ、これを防ぐことが出来なかったことで、習近平体制への強い批判は存在するものの、習近平指導部が米中対立を過度にエスカレートさせていない状況のまま北戴河会議に突入できれば恐らく3期目は安泰だと思われます。

また同時に、共産党の長老たちは米中の相互依存体制をよく認識しており、中国の国際社会でのステータスを保持するために“アメリカとのある程度の緊張は必要”と考えられているようで、その点では、何とか現状を維持できている習近平体制には合格点が与えられると見られているようです。

同時に長老たちの中では「アメリカおよびその同盟国(つまり日本)との軍事的な紛争は絶対に避けるべき」という意見が大勢で、それは人民解放軍の軍備の質・量が大幅に上がっているのは事実としても、1967年の中越戦争以降、実戦経験がなく、もし中国人民解放軍が敗戦を喫することにでもなったら、それは国恥であると考えられ、これまで急ピッチで進めてきた勢力拡大にも不可逆的なショックを与えることになると予想されることも大きな判断基準として働くようです。

ある中国政府高官の言葉を借りると「台湾は中国にとって生命線であり、共産党としては、あくまでも一国2制度の下、台湾は中国の一部という現状維持が望ましいと考えられている。しかし、習近平国家主席とその周辺は、台湾を併合し、中国を統一するという、これまで誰もなしえなかった偉業を達成することで、習近平氏は類まれないリーダーであるという像を作り上げて、習近平氏を終身国家主席にするという悲願もあるため、共産党側の現状維持路線との折り合いがつくか否かが、この秋に向けた主な関心事だろう」とのことでした。

それをより強固にし、台湾を中国につなぎとめ、台湾海域問題をはじめとする中国周辺地域での中国の行動に対する外国勢力の介入を阻むために必要とはじき出された答えが、どうも地下核実験場の拡充と核戦力の急速な拡大という路線だというようです。

もしこれが適切な見方だとしたら、それは一体何を意味するのでしょうか。

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あくまでも私見であることを断っておきますが、それはNPT体制の弱体化または無力化で、同時に核軍縮の国際枠組みの終わりです。言い換えると、核軍拡路線が加速し、現在、1万3,000発ほどにまで減ってきた核弾頭の数は、中国の軍拡と北朝鮮の核戦力増強の動きだけでも増加傾向に転換してしまうことになります。

現時点ではまだ米ロだけで全世界の核弾頭の9割を保有するという圧倒的な現実がありますが、その割合も今後、中国と北朝鮮、そして“ほかの核戦力”国が、恐怖に支配されて核戦力の拡大に走ることになれば、核の不拡散体制も終焉し、NPTやCTBT(包括的核実験禁止条約)をはじめとする核兵器をめぐる国際管理システムは破綻することになります。

それは核兵器禁止条約(TPNW)の内容と精神がただの戯言とされてしまう悲しい結果につながり、国際社会はまたいつ何時核兵器が使われかねない恐怖と直面する恐れが高まることになるでしょう。

そして先述の通り、ロシアがアメリカとの間で締結した新START下での相互査察を一方的に停止し、ロシアの手の内がベールで包まれてしまうことになると、それは周辺国における“核兵器の扱いと認識”に影響を与えます。すでに、これまで核兵器に反対し、ICAN事務局長のフィン氏の出身国でもあるスウェーデンが核兵器の存在、そして核の傘が果たす抑止力としての役割に対しての“一定の理解”をするという方向転換をしているのが一例でしょう。

もしこれが現実の流れとなってしまったら、1945年の国連発足後第1回目の国連総会(開催は1946年ロンドン)で掲げられ、全加盟国が賛成した“核廃絶という究極目標”が夢のかなたに消え去ることを意味し、そしてそれは、岸田総理が掲げる【核兵器なき世界の実現】がほぼ不可能になることを意味します。

岸田政権が発足した昨年、総理ご自身から核兵器なき世界を目指す道程についてお聞かせいただく機会を得ました。

その際「核兵器禁止(条約)は私たちが目指すべき出口、ゴールであり、そこにいたるまでにはまだまだ辿らなくてはならないプロセスがある。例えば、核軍縮・核廃絶に向けての動きが必要だが、そこには核兵器そのものの削減・廃絶に加えて、2つの廃絶・削減がなされなくてはならない。それは“核兵器がもつ役割の廃絶”と“核兵器を持つ理由の廃絶”だ。これら3つの廃絶なくして、核兵器の禁止へと一足飛びに向かうのは、核兵器なき世界の実現にはつながらない」と仰っていました。

私もまったく同感ですし、現在の核保有国の専門家たちと議論をした際にも、同様の考えがシェアされています。

しかし、皆さんもご存じの通り、現行の国際情勢の混乱は、この3つの廃絶の方向性とは逆の方向に進んでいるように思われます。

先に発表された英国による核戦力の増強もそうですし、最近の中国の地下核実験場の拡大と核戦力の急速な拡充という安全保障方針の提示もそうでしょう。そして、2月以降繰り返される【ロシアが核兵器保有国であることを世界は忘れるべきではない。ロシアは自国の安全保障に危機を感じた場合は、核兵器を用いることは厭わない】というプーチン大統領の発言も、核兵器の“役割”を誤ってクローズアップするきっけかになっているように思います。

ところでこの“ロシアの核兵器”が、今後の核軍縮・核廃絶の動きに大きな役割を持っているという皮肉にも思える状況を認識されているでしょうか?

現在、世界最多の核弾頭数を有するロシアですが、今回のウクライナへの侵略に際して公言した核兵器の使用の可能性が、ロシアの核戦力としての信憑性はもちろん、核兵器の役割の有無さえ決めかねない状況になっています。

とても嫌な仮説ですが、宣言通りロシアがウクライナ戦線に核兵器を用いることになったら、ウクライナとその周辺国に対して大きな物理的なダメージを与える以外に、国際秩序と世界の安全保障に対する認識に大きな負の影響を与えることになります。恐らく、ロシアの使用に対しては、他の核保有国から何らかの核による報復が起きうる事態になるでしょう。

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しかし、もしロシアが核兵器を宣言にも関わらず、実際には使用できないことが分かったら、それは言い換えると【核兵器の存在が過去77年にわたって他国への恐怖の源となり、人類が自ら開発し保持する種の自殺兵器という現実を世界に突きつけ、そして「核兵器を持っている限り、他国から攻め込まれることはない」という幻想が、国際政治を支配してきた核抑止というコンセプト】が否定され、代わりに【核兵器は現実には使用できない兵器である】ことを世界に知らしめることにつながると考えます。

もし核兵器が実際には使用できない兵器であることが示され、その考えが核保有国を含む国際社会に広まるようになれば、一気に堰を切ったかのように、核兵器の持つ役割は削減・廃絶され、それは同時に核兵器を持つ理由を無欲化することになるため、核兵器を手放し、かつ廃棄するという国際的な取り組みが息を吹き返すきっかけになる可能性を秘めているように感じます。

もし、この若干強引な仮説が事実に変われば、その時こそ、核兵器禁止条約が本当の意味を持つようになり、核兵器なき世界の実現につながるのだと思います。

しかし、現在の状況はどうでしょうか?

中国は核戦力の拡大を急いでいますが、恐らく台湾に対しては使用することはないと確信しています。しかし、中国に対して攻撃を加える相手に対しての報復には用いられる可能性が、中国のミサイル技術の著しい発展に鑑みると、高まっているように思われます。

ロシアについても、プーチン大統領の発言とは反対に、ロシア軍による核兵器使用に対する制御はしっかりと効いていますが、もしロシアが今回のウクライナへの侵攻を機に、一気に追い詰められ、本当に国家安全保障上の危機を感じる状況になれば、これもまた報復オプションか、崩壊前の暴発という形で使われる可能性が否定できません。

プーチン大統領がマインドコントロール的に支配されていると言われる“大ロシア帝国復興の幻想”と、「ロシア人の考えは誰にも理解されない」という考えに基づいた防衛思想が極限にマッチしてしまうとき、本気でロシアをも巻き込む形での核使用に走る可能性は否定できないでしょう(その際には地球が破壊されます)。

そして、核兵器をめぐる方向性について、理解不能なのが北朝鮮の動向です。今のところ、核兵器の存在こそが北朝鮮(金王朝)の存続のカギという強い思いに支配されていますが、他国から過剰なまでの圧力がかけられ、存亡の危機を認識したら、いつ核兵器を、大多数を巻き込んだ自殺のための手段として用いるか分かりません。

かなり強引な議論になりますが、現在進行形のウクライナでの戦争をいち早く終結させないと、私たちはそう遠くないうちに、核戦力の応酬と核兵器による人類の種としての自殺という、決して開けてはならない扉を私たちは期せずして開けてしまうことになってしまうかもしれません。

そのためにもウクライナとロシアの間での落としどころを早く見つけ、着地させるための働きかけ・プロセスを始動させなくてはならないと考えます。

しかし、欧米からの最新兵器を用いて失地回復を行おうとして熱くなっているウクライナにも、決して負けることが出来ないと躍起になっているロシアにも、まだ話し合いのテーブルに就くための心理的な準備は出来ていないようです。

食糧危機、エネルギー危機、木材・金属調達の危機、世界の物流の危機、至る所での紛争ぼっ発の危機、そして核戦争を禁じる留め金が外れかねない危機…。

いろいろな危機が、ウクライナでの戦争の長期化と、それがもたらす様々な副反応の表出で、これまで以上により現実味を帯びてきているように見えます。

皆さんはどのように対応しますか?

以上、国際情勢の裏側でした。

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