日本に比べ、個人への損害賠償責任が厳しく問われることが多い海外諸国。それはドイツも例外ではなく、認識の甘い日本人が痛い目に遭うことも少なくないようです。今回のメルマガ『Taku Yamaneのイェーデン・ターク』では著者で長くドイツに暮らすTaku Yamaneさんが、日系企業駐在員が現地で陥りやすい「罠」を紹介。彼らのリスクに対する認識の甘さに対して警鐘を鳴らすとともに、学ぶ姿勢と謙虚さの重要性を説いています。
この記事の著者・Taku Yamaneさんのメルマガ
駐在員が陥る傲慢と罠
いつもご愛読ありがとうございます。
今回は真面目な話をしましょう。
自分の会社の顧客は9割近くが日系企業で、その構成はドイツでのローカル採用組と日本からの出向組(駐在員)となっています。
特に駐在員の人たちは右も左も分からない状態でドイツに来るので、保険のことに関しては何も分からないのが当然で、その辺は僕らがコンサルティングするということになります。
とはいえ話していると、駐在員の人たちは認識が甘いなと感じることが非常に多いです。
駐在員というのは社内でもかなり特権階級に位置し、大体が年収1,000万円近くとなります。それプラス家賃、健康保険料、などなどが会社負担で、中には通勤用の車も支給されている人もいます。
こう至れり尽くせりになると、彼らの中で「困った時は会社が助けてくれる」という認識が生まれます。だから自分のリスク管理とかドイツ人達が当たり前にやっていることに関して、無知というよりも無関心になります。
僕から言わせてみれば、全部会社が守ってくれる訳ないだろって話です。
こんな話がありました。
ある日系企業の社員(駐在社長)が出張中にホテルに宿泊し、バスタブの蛇口を閉め忘れてホテル側に損害を出しました。
これによって損害賠償責任が生じ、賠償責任保険によって補償の対象となるのですが、問題は業務中なのかプライベートの範囲なのかということです。業務中なら会社が入っている企業賠償責任保険によって補償対象となり、プライベートなら個人で加入する個人賠償責任保険で補償となります。当然こちらに関しては会社は関与していません(ちゃんとしている会社は、そこも管理していますが)。
で、結果から言うと、この事象はプライベート範囲とみなされて個人賠償責任で補償しなければならなくなりました。
問題になったのは、この社員が個人賠償責任保険に入っていなかったことです。
入っていなかったこと自体は無知で仕様がないことではあります。しかし、個人賠償責任保険はドイツでは絶対に必要な保険です。正直入っていないなんてありえないことです。
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とにかく、企業賠償責任保険でカバーできないことは説明しましたが、彼の認識としては「自分は駐在員なので、生活の全ての範囲が業務のはずだから、プライベートの範囲も会社が補償してくれる」とのことでした。
僕から言わせれば、そんなの単なる思いこみでしかありません。事実としては、プライベートの範疇で起きた損害賠償事故であるということだけです。
保険で補償できなかったとして、会社が全部その人の賠償金を払ってくれる確証なんてどこにもありません。会社規約にあるのでしょうか?あるなら別ですが、では100億円近くの賠償を出したとして、それでも会社は払うのでしょうか?もし払ってくれたとしても、その社員のプライベートの行動で会社に莫大な損害を出したという事実は残ります。それでも良いのかという話。
ドイツの保険なら年間1万円払えば最大100億円の賠償だってカバー可能です。だから賠償責任保険くらいは入っておいた方が良いというのが僕らの見解なのですが、そもそも興味がない駐在員の人たちはあまり気にしません。
会社が面倒を見てくれる…そんな甘い考えを持っているのは日本人の駐在員くらいのものです。自分の身は自分で守らなければなりません。
この人のケースはまだ進行中で、恐らく賠償額は100万円を軽く超えるでしょう。法律的に業務中ではないと判断されて、あとは会社の気分次第となります。そんなあやふやなものを信じている一部の駐在さんに対して、自分としては非常に複雑な気分です。
無知であることは損ではありますが、罪ではありません。しかし、無知に対して傲慢であることは後に大きな失敗として降りかかってきます。
学ぶ姿勢と、謙虚さが重要だということですね。
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