MAG2 NEWS MENU

アベスガ政治を評価?国民にケンカ売る内閣改造で支持率急落の岸田政権

報道各社が行った世論調査で、軒並み大きく支持率を下げ続けている岸田政権。「統一教会問題」が大きな影を落としているのは明白ですが、それ以外にも国民が嫌悪感を抱く要因があるようです。その理由のひとつとして内閣改造人事における3閣僚の入閣を挙げるのは、元毎日新聞で政治部副部長などを務めたジャーナリストの尾中 香尚里さん。尾中さんは今回、加藤勝信・西村康稔・河野太郎各氏を再び大臣に指名した岸田首相に対して、安倍・菅政治のもっとも悪しき部分を高く評価し引き継ごうという姿勢が見えるとして、強い批判を記しています。

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

安倍・菅政治の「負の部分」を是認した岸田内閣改造

岸田内閣の支持率が、今月に入って急激に下落している。NHKが8月5~7日に行った世論調査では、内閣支持率は46%と前回比13ポイント減少。毎日新聞と社会調査研究センターが20、21日に実施した調査では36%と、前回の52%から16ポイントも下落した。二つの調査の間で岸田文雄首相は内閣改造と自民党役員人事を行い、局面打開を目指したが、どうやら逆効果となった。わずか1カ月前の参院選で「圧勝」したはずの政権の姿は見る影もない。

今回の内閣改造の失敗について、メディアの評価は「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と多くの自民党のいびつな関係」の1点に集約されている。実際にそこが非常に大きなポイントであることは、筆者も全く同感だ。

ただ、論評がそれ一色になっても、若干味気ない気もする。そこで、今回はそこだけでなく、筆者が今回の人事で心底気持ちが萎えたポイントを指摘しておきたい。

それは「安倍・菅義偉政権の新型コロナ対応」という「悪夢」が、亡霊のように復活したことだ。具体的には加藤勝信、西村康稔、河野太郎の3氏、つまり安倍・菅政権の「コロナ閣僚3兄弟」が、そろって入閣したことである。

10日に行われた内閣改造で筆者が最もあ然としたのは、厚労相に加藤氏を起用したことだ。たまたまその直前、安倍政権における「加藤厚労相」の存在を強烈に思い出させる報道があった。

内閣改造8日前の2日、日本感染症学会など医療4学会が記者会見で、コロナ「第7波」の対応に関して緊急声明を発表した。その中にこんな記述があった。

「37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(中略)重症になる可能性があります。早めにかかりつけ医に相談してください」

忘れもしない。コロナ禍の「第1波」が始まったばかりの2020年2月、当時の安倍政権下で公表された「相談・受診の目安」そのままの表現である。

厚労省が「目安」を発表したのは、2年前の2020年2月17日のこと。感染を疑う人が帰国者・接触者相談センターにアクセスする際に「37.5度以上の発熱が4日以上続く」ことなどを「目安」として提示したのだ。国内初の市中感染者が確認されてから1カ月あまり。水際対策に気を取られていた安倍政権は、国内の市中感染の拡大への対応が大きく遅れていた。

そんな中で公表された厚労省の「目安」。安倍政権が「必要な人に検査を受けさせるために検査能力の拡充を目指す」のではなく「検査を受ける人数の方を貧弱な検査能力に合わせる」ことを優先したのは疑いようもない。全国の現場の保健所が、これを事実上の「条件」と受け止めた。多くの国民が「PCR難民」と化し、重症化する人も生じてしまった。

この時の厚労省のトップが加藤氏だった。そして、加藤氏について忘れられないのは、むしろこの後の対応だった。

「目安」が大きな批判を受けたことを受け、厚労省は3カ月後の2020年5月に「37.5度以上の発熱4日以上」の部分を改め、高熱などの症状があればすぐに相談、受診するよう勧めることにした。

記者会見でこのことを問われた加藤氏は、「目安」が受診の基準のように受け止められたことについて「我々からみれば誤解であり」と発言し、火に油を注いでしまったのだ。

日本感染症学会などの緊急声明は、まさに安倍政権のコロナ禍対応を、加藤氏の顔とともにまざまざと思い出させたわけだが、まさかその1週間後に、実際の内閣改造で「加藤厚労相」そのものが復活するとは、全く思ってもみなかった。

コロナ禍で行政が対応に失敗し、国民を守れなかった時、その理由を「国民の誤解」と言い放ち、責任を国民に転嫁したのが加藤氏だ。そういう人物を岸田首相は高く評価し、再び同じ役職につけた。

正直「国民にけんか売ってるのか?」という思いしかなかった。

加藤氏だけではない。今回の内閣改造では経済産業相に西村康稔氏が、デジタル相に河野太郎氏が起用された。今回はコロナ禍関連を直接担当するわけではないが、この2人も加藤氏と並んで、安倍・菅政権でのコロナ対応で中核にいた人物だ。

西村氏と言えば、菅政権時代の「飲食店狙い撃ち」を思い出す。度重なる感染拡大の波に対応しきれなくなっていた菅政権は、ただ漫然と緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を出したり引っ込めたりを繰り返しては、そのたびに飲食店に対し、時短営業や酒類の提供停止などを求め続けていた。

行政の手によって「店舗の営業」という私権が制限されるのに、それに対する行政の支援(本来は「補償」であるべきだ)は十分ではない。頑張りきれず、協力したくても要請に従えない店が出てくる。

そんな飲食店に対し、西村氏は記者会見で、飲食店に影響力を持つ金融機関や、取引先の酒類販売業者を使って、酒類提供停止の「働きかけ」をさせる考えを示した。さらにメディアに対し、要請を守らない飲食店の広告を扱う際に「要請の遵守状況に留意してもらうよう依頼」することにまで言及した。

これには驚かされた。そもそも「飲食店の酒類提供禁止」が感染拡大防止にどうしても必要なら、行政が誠意を持って店側に呼びかけ、店側が被る不利益にも誠実に対処すべきだろう。それをよりによって、自らは手を汚さずに(あえて言う)、国民に相互監視させるようなことをやる。

これではまるで戦時中の隣組ではないか。

そして河野氏と言えばワクチンである。行政改革担当相として全国民へのワクチン接種を担当した河野氏だが、混乱に混乱を極めたのは記憶に新しい。何より「スピード感」を重視するあまり、高齢者や基礎疾患を持つ人など政府自身が定めた優先接種の枠組みが壊れ、結果として若い世代が高齢者より先に接種するケースが出るなど、結果として社会的弱者が取り残される状況を生んだことは看過できない。自らの「やってる感」を演出し「きちんと行政を回す」地道な力が足りなかったとしか言いようがない。

要するに岸田首相は、今回の内閣・党人事によって、こういう政治のありよう、つまり安倍・菅政治の負の部分を是認し、高く評価していることを示したわけだ。

自らの「やってる感」に酔う。地道な行政を回せず混乱させる。政治や行政による国民への支援を絞り込む。国民同士の相互監視をあおる。そして失敗すれば国民のせい――。コロナ禍で露呈した、安倍・菅政権の最も悪いところを、そのまま積極的に評価し、自らの政権でも引き継ごうとしている。

なるほど、各閣僚や政務三役の旧統一教会との関係は、確かに大きな問題だろう。しかし、それと同時に、筆者はこの「結局安倍・菅政権から何の転換もされなかった」岸田政権の現状に、深くため息をつかざるを得ないのである。

image by: 首相官邸

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け