地元に愛される店とは、どのような店のことなのでしょうか。その言葉を体現したようなお店が大阪にあるようです。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、昭和から変わらない下町の絆を紡ぐ商店のエピソードを紹介しています。
地域の“井戸端” 6個100円のたこ焼きが、下町の絆を紡いでいた
「ただいま!」
近所の中学生が学校からの帰りに、店主とその妻に挨拶します。
それに答えて、「おかえり!」。
このお店の日常的な光景です。
ここは、大阪府守口市にある、たこ焼きやアイスクリームを売る、個人商店。たこ焼き6個100円。いまどき、あり得ない価格で提供しています。
他にも、玉子入りいか焼き130円やカップ入りかき氷100円、アイスモナカ90円など。
そして、昭和の人間、特に関西人には懐かしい、「ひやしあめ」「ひやしコーヒ」90円もあります。
「ひやしあめ」「ひやしコーヒ」は、主に関西の文化で、商店の店先などで売られていました。
熱い夏に、ひととき涼を求めて、飲まれていたものです。
「コーヒー」ではなく、「コーヒ」。昭和には、こういう表記がよく見られました。こう発音する人も多くいました。
それさえ、懐かしいと思います。
売っているものも、お店の佇まいも、まるでタイムスリップしたかのような、昭和レトロ。
こんなお店がまだ残っていたのかと、感動を憶えます。
一番の驚きは、価格です。
子どもたちがお小遣いでも買いに来ることができるようにと、20年間据え置いています。
儲けなどありません。
ただひたすら、地域の人びとに喜んでもらうためだけに、営業し続けているのです。
昭和38(1963)年創業。現店主の両親が始めて、もうすぐ60年。
二代目店主夫婦が後を継ぎ、何も変わらぬ姿のまま、地域の人びとに愛され続けています。
朝9時半の開店直後から、お客さまはやって来ます。
何かを自転車で配達する途中のおじさんが立ち寄り、「ひやしコーヒ」を1杯。ベンチに腰掛け、ひとときの休憩です。
通勤途中に寄り、空のマグボトル(水筒)に「ひやしコーヒ」を入れてもらう人も。
「ひやしコーヒ」を目的にやって来るお客さまは多くいます。
昼前になると、たこ焼きを買いに来るお客さまが増えます。昼ご飯として食べるためです。
1人分を買う人もいれば、10人分を買う人もいます。10人分でも1,000円なので、買いやすいのです。
3時頃になると、幼稚園帰りの子どもとお母さんたちが、まとまってやって来ます。
子どもたちがベンチに並んで座り、みんなでかき氷を食べます。
非常に微笑ましい光景。下町ならではです。
しばらくすると、学校から帰って来た小学生たちが集まって来ます。
たこ焼きやかき氷を食べながら、ワイワイガヤガヤ。まるで、駄菓子屋さんの光景です。
これも、彼らの日常です。
さらに時間が進むと、中学生以上の子どもたちがやって来て、静かにおやつを楽しんで帰っていきます。
夕暮れには、定時制高校に通う生徒が、腹ごしらえのために、たこ焼きを食べたりします。
その中には、80歳を超えた生徒もいます。通学の日には必ず立ち寄ると言います。
小さな子どもから高齢の方まで、さまざまな年代の人たちが、このお店を愛し、なくてはならない存在だと感じています。
というより、あって当たり前だと思っているのかもしれません。その場所に、60年間変わらぬ姿であるのですから。
誰もが意識せずに利用しているのです。
1,500円、2,000円というかき氷を売り、行列ができているお店も立派な商売ですが、100円のかき氷で子どもたちを笑顔にするのも、素晴らしい商売です。
ただ、どちらが人びとの記憶に残る商売なのかと考えると、後者であることは疑いようがありません。
行列のお店は、次の年には姿を消しているかもしれませんが、地域に根づいているこのお店は、これから10年20年続いていくはずです。
現実的には、店主の高齢化で閉店の可能性もありますが、元気でいる限りは、続けてくれることでしょう。誰もがそう信じています。
やがて、小さな子どもは大人になり、その子どもを連れて、またやって来てくれます。
いまある姿のままで、新しい子どもたちを優しく受け入れてくれるはずです。
image by: Shutterstock.com