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プーチンの背中を押す金正恩。習近平すら核使用ドミノ倒し恐れる緊急事態

ロシアによるウクライナの東部と南部4州の併合宣言で、一段と現実味を増した核兵器使用の危機。はたしてプーチン大統領は世界を終末に導きかねない暴挙に出てしまうのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、独自のルートで得た情報等を元にその可能性を検証。さらにロシアの核使用と北朝鮮の不穏な動きとの関係を解説するとともに、中国すらも恐れる最悪のシナリオを紹介しています。

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プーチン核使用というパンドラの箱は開くのか?

「ロシアはウクライナ戦争において、自衛のために核兵器を使用する用意がある」

「それは決してハッタリではない」

ロシアのプーチン大統領がウクライナ東・南部4州を“正式にロシアに併合する”決議に署名した際、演説を通して、国内外に警告した内容です。

アメリカもNATO各国も、この警告を真剣に受け止め、万が一の事態に備えているようです。

それは、ロシアが核兵器使用の要件を定めた規則によると、【国家の存立が脅かされる場合や、通常兵器によるロシア連邦への侵略を受けた場合、核兵器の使用を認める】ということですが、今回のウクライナ東・南部4州の一方的な併合により、当該地域をロシア領とみなし、そこへの攻撃はロシアへの攻撃に相当すると主張する可能性が高いため、プーチン大統領にウクライナへの核兵器使用を決断させる可能性が高まったと思われることです。

アメリカ政府を筆頭にNATO各国は「核使用の場合は厳格な対応を取る。その後に起こるであろう“破壊的な結果”が待っている」とロシアをけん制していますが、実際にどのような対応を取るのかは明らかにしておらず、これがロシアの自制を促すことにつながるかは疑問です。

欧米諸国および国際社会による“対応の選択肢”は、経済制裁の厳格化という非軍事的なものから、NATOまたはアメリカ軍がロシアと直接対戦することになる通常兵器による対峙、さらには世界を破滅的な結果に導く核攻撃がありますが、それは【ロシアが本当に核使用に踏み切るのか?つまり過去77年間の“核の不使用”の流れを変えるのか?】にかかりますが、同時に【プーチン大統領を含め、どこまで各国のリーダーたちが冷静さを保つことが出来るか】【各国のリーダーたちはどこまで、破滅的な結果に対する責任を負う覚悟があるか】にもかかってくるかと考えます。

もちろん、個人的には「そんな“責任”をリーダーに委ねた覚えはない」と言いたくなりますが、それはあえて触れずにおきます。

とにかく核兵器が使用されないこと、使えないことを切に願いますが、肝心のロシア・ウクライナ戦線はどうなっているのでしょうか?

まず、すでに触れたとおり、上下院での議論を終え、10月4日付けでプーチン大統領がウクライナ東・南部4州をロシア連邦に編入する決議に署名し、それにより当該州の親ロシア武装組織が“ロシア軍”に統合され、年末までにはウクライナ通貨(フリヴニャ)の使用が出来なくなる状況になります。

また並行して、ザポリージャ(ザポロージェ)原発をロシアの管轄下に置き、新しくロシア国営企業を設立して資産を引き継ぐという大統領令も発出され、ロシアはじわじわと地域のロシア化を進行させているように見えます。

そして極めつけは、東部戦線の指揮官を交替させ、後任に元駐シリアロシア軍司令官の“あの”ペドル二コフ中将を任命したことでしょう。

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ペドル二コフ氏はシリア国軍と手を組み、反政府組織に対して手段を選ばない作戦でアサド大統領の劣勢を覆す手助けをしたことで有名で、その後もシリア国軍を再訓練・編成する手伝いをしていたと言われています。また予てより、「ロシアに刃を向けるものには徹底的な対応を行い、敵には核兵器の使用さえ厭うべきではない」という主義だと聞いています。

そのような人物が今回、対ウクライナ最前線の指揮を執るというのはどのような意味を持つのか。とても関心があります。

彼を個人的に知る友人たちによると、「今回のプーチン大統領の“英断”でついに準備が整った」という発言をしたそうですから、ちょっと背筋が凍ってしまいそうですが、その発言が真に意味する内容については、あえて追求しないでおこうと思います。

ロシアによる核使用の可能性が高まったと考えられ、かつNATO諸国もあまりプーチン大統領を刺激しないでおこうと注意しているようですが、プーチン大統領が核使用に踏み切るレッドラインがどこにあるのかが把握できない中、具体的にどこまで踏み込んでいいのか測りかねているようです。

皮肉にも核兵器の使用をちらつかせる“核抑止”が機能しているといえるのかもしれません…。

現時点では、ウクライナはロシアによる4州の一方的な併合を無視し、非難を強め、かつ反転攻勢を加速することで、対ロ徹底抗戦の姿勢を強めていますが、それを支えるのは、上記のように非常に対応に苦慮しているNATO各国からの軍事支援ですので、このシーソーゲームの行方は非常に不明瞭です。

とはいえ、ロシアが常に核兵器を即時使用できる態勢にあることは事実のようですので、まだまだ気が抜けませんし、それに対抗するためのNATOサイドの核反撃体制も整ってきているとの情報もあるため、世界は非常に緊張を高め、偶発的な衝突や、ロシアによる“象徴的な”核使用といった事態になった場合には、パンドラの箱のふたが開いてしまうかもしれません。

その非常に微妙なバランスに影響を与えそうなのが、一見、関係なさそうな北朝鮮情勢と台湾情勢です。

北朝鮮情勢については、今週日本もJアラートが久々に発せられたことでも記憶に新しい相次ぐ弾道ミサイル発射です。今年に入ってから24回目、そして5月以降は10回目とのことですが、最近のケースでは北朝鮮内からグアムを十分攻撃できる4,600キロメートルの飛距離を記録し、北朝鮮が着実にミサイル技術を高めてきていることが明らかになりました。

今回のミサイルは以前発射された地対地中距離弾道ミサイル(IRBM)の火星12型の改良版とみられるとのことですが、中国人民解放軍が配備するグアムキラーと並びアメリカに対する直接攻撃力を誇示したことになります。

そして日本列島を横切り、太平洋の遥か沖合に落下・着弾した地点の近くを、9月末に日米韓の合同軍事演習に参加していた米空母ロナルド・レーガンの打撃群が通過していたというのは非常に象徴的な出来事でしょう。

大きな点はロナルド・レーガン空母打撃群を攻撃するのではなく、示威的に近海を狙うことが出来るという技術力とミサイル運搬能力を示したことで、これを非常に重く受け止めたアメリカは、打撃群を再度日本海に引き返させ、アラートのレベルを一気に上げたようで、北東アジア海域も一気に緊張が高まったと言えます。

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そして何よりも10月16日の中国共産党大会が終了したのち、北朝鮮が国連安保理決議を無視し、7回目の核実験を行ったり、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射を行ったりするのではないかとの懸念が高まっています。

もしこの懸念が現実のものとなるのであれば、今、ウクライナ問題にどっぷりとコミットしてしまっているアメリカ政府と軍は、北朝鮮にも対峙しなくてはならず、加えて台湾問題と絡み、中国の出方にも備えなくてはならないという複数正面への展開という、軍事作戦上はあまり賢明ではないとされる状況に陥ることとなります。

それを意識してか、それとも北朝鮮に対する最後の対話ラインを維持しようという狙いなのか、アメリカ政府は10月5日に緊急招集された国連安全保障理事会会合で、フランス、英国、アルバニア、ノルウェー、アイルランドとともに北朝鮮の行いを非難する“報道声明”(注:法的拘束力を持つ安保理決議や安保理の公式見解を示す議長声明よりはレベルは弱い)を提案しましたが、予想通り中国とロシアの反対に遭い、2022年5月の対北朝鮮制裁強化決議への拒否権行使に続き、世界の分断が明確になりました。

これはウクライナでの戦争を機に決定的になった国際社会の分断の結果とも言えますが、同時に国連安全保障理事会の機能不全が明らかになったものと思われます。

この大国間の分断で安保理の機能がマヒし、ウクライナ問題、台湾情勢に世界の関心が向いている間に、北朝鮮は着々とミサイル技術の向上に突き進むことが出来たと言え、ちょっと強引な分析をすると、ウクライナ問題が熱を帯び、世界の分断が進み、協調体制が崩壊した中、北朝鮮は得をするという図式になっています。

あまり報道されませんが、その見返りでしょうか。北朝鮮は迅速にロシアによるウクライナ東南部4州の併合を支持しましたし、ロシアに対する武器供与のみならず、ロシア東部に北朝鮮から労働者を送り込んで、手薄となったシベリアをカバーしているという情報も入ってきています。

その見返りは国連からの非難・制裁の強化を阻止することだけでなく、これまで旧ソ連とロシアが躊躇していた核関連技術およびミサイル技術の提供という形で返ってきているとも言われています。

北朝鮮の弾道ミサイル発射後、米韓による4発の地対地ミサイル発射という示威行為はあったものの、アメリカ政府は台湾問題との絡みで、今、北朝鮮をめぐって中国と揉めるのは避けたいという懸念と、ロシアに対してウクライナと北朝鮮という2正面での対立は避けたいという事情から、米国は今、北朝鮮に対して致命的なショックを与えることはないという読みが、北朝鮮政府にはあるようです。

ただこのエリアで核兵器を使用するのが北朝鮮だけなのかは、かなり気を付けるべきだと思いますが。

そして大きな情勢の変化が訪れるきっかけになりうるのが10月16日の中国共産党大会が開催され、閉会した後の中国の出方でしょう。

いろいろと入ってきている情報からは、中国がすぐに台湾に侵攻するようなケースは考えづらいのですが、中国政府内部が恐れているらしい事態が存在するようです。

それは【核使用ドミノ】と言われており、誰がトリガーを弾くのかは分かりませんが、ロシアまたは北朝鮮が核兵器の使用または実験に走った場合、核兵器使用への心理的かつ制度的な箍が外れ、ロシアが“自国の自衛目的”という名目で戦術核を用い、それにNATOが限定的な核使用で反抗した隙に、北朝鮮が核実験を強行した場合、中国は地理的に無傷では済まないという懸念です。

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それに対し中国人民解放軍の中の強硬派が台湾侵攻を主導し、アメリカなどの反応が起こったら、場合によっては中国の自衛権発動または台湾の“防衛”という、ロシアっぽいこじつけで核兵器の使用にエスカレートするというドミノ倒しに巻き込まれるのではないかという懸念です。

「そこまでは考えすぎだろう」というご批判を受けるかもしれませんが、これはどうも中国でも、アメリカでも、そして欧州各国の軍・安全保障関係者の間で結構真剣に分析され、綿密に対応のためのシナリオが立てられ、同時に予防するための方策も練られている“具体的なシナリオ”と言えます。

G7と共同歩調を取るとしている日本が、このシナリオ分析の輪に加わっているかは知りませんが、すでに実行済みの案件を巡って国会で論戦している暇があったら、ぜひ近未来的に国民の生命と財産を守り抜くための策を議論していただければと願います。

ここまで散々、恐怖のシナリオについて描いてみましたが、実際には私はロシアによる核兵器の使用の可能性は以前よりも高まり、また使用を正当化するための材料は増えたと思う反面、実際に使用することはないだろうと信じています。

核抑止という理念の下、これまで77-78年間核兵器は使用されずに済んでいますが、心理的な危機がこれまでにないほど高まったとしても、結局は使用されることはなく、それが【核兵器は実際には決して使えない兵器】という理解が広まり、それが核廃絶に繋がっていくというシナリオを追求したいと願っています。

しかし、2022年2月24日を前に、「ロシアがウクライナに実際に軍事侵攻することはない」と“予想”し、見事にその予想を外した立場としては、かなり心配ではありますが…。

以上、国際情勢の裏側でした。

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image by: Shag 7799 / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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