10月8日に起きたクリミア大橋の爆発を「ウクライナによるテロ」とし、首都キーウを始めとするウクライナ全土への攻撃に出たプーチン大統領。しかしロシア劣勢の戦局はこの先も覆ることはあり得ないと言っても過言ではなく、追い詰められたプーチン大統領の戦術核使用も時間の問題とする声も上がっています。孤立を深めるクレムリンの独裁者の蛮行により、世界は終末を迎えることになってしまうのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、ウクライナ軍が攻勢を強めるこの紛争の最新の戦況と、プーチン大統領がロシア国内で置かれている厳しい立場を紹介。さらに停戦が実現する可能性と、ウクライナ紛争後の世界の趨勢を考察しています。
この記事の著者・津田慶治さんのメルマガ
プーチンが戦術核使用をおこなう可能性は高くなった
プーチンは、ウクライナ東部南部でウ軍に要衝を次々と奪還され、かつ国内では部分動員で国民の召集忌避が起こり、クリミア大橋を破壊され、国内外で苦境に立たされている。プーチンが戦術核使用を行う可能性が大きくなっている。今後を検討しよう。
ウ軍は、オスキル川を渡河して東岸を攻撃して高速P07線をスバトボに向かっている。ロ軍はセレブレック川で防御線を構築することできないで後退した。
クレミンナ・スバトボ攻防戦
オスキル川東岸のウ軍攻撃部隊は、リマン奪還後、そのまま、何の抵抗もなく、東に進み、クレミンナ周辺に到達して、クレミンナ攻防戦になっている。
そして、ロシア領バルイキからスバトボを通りクレミンナ、セベロドネツクを通る高速P66の補給路を遮断するべく、ウ軍はスバトボとクレミンナを攻撃しているが、既に街間のP66道路を寸断したようでP66上にあるルハンスク州マキーウカ村を奪還した。これで補給路として使えなくなった。それと、ウ軍はルハンスク州に入った。
南部ロシア部隊は、リマン潰走後、体制を立て直すことができずにどんどん負けている。リマンでは、最強精鋭部隊のGRUスペツナズが壊滅したし、鹵獲した兵器も多数あり、それをそのまま、ウ軍は、攻撃に使用している。
このため、ウクライナの戦車部隊の半分以上が露から鹵獲した戦車で構成されているようで、当初、軽歩兵大隊であった部隊が、途中で、戦車も装備した装甲歩兵大隊になってしまったという。
それも、VやZの表示の戦車をそのまま戦闘に使うので、ロ軍は友軍と判断して負けるともいう。ウ軍同士は、画面上にGPSで位置表示されているので、敵と味方を間違えることはない。
しかし、そのウ軍にも問題が発生した。衛星通信のスターリンクが前線の一部で使えなくなったようで、ウ軍が急速に前進して、これまでスターリンクが「使えないように設定」された地域に入ってしまったことのようだ。
それほど、ウ軍の進軍が速いことになっている。しかし、VやZの戦車が使えないようである。このため、クレミンナ郊外のウ軍支配のデブロバにロ軍が攻撃してきたという。
南部ヘルソン州
ドニエプル川西岸地域の北部で、防衛線を突破して、ドニエプル川沿いを南下したことで、ロ軍はその地域が包囲されそうになり、ムイロベまで撤退して、そこで戦闘になっている。
ロ軍は撤退して、このムイロベとプラスキンズキーを結んだ線上に防衛線を構築して、その手前でウ軍と戦闘になっている。防衛線構築のために時間稼ぎをしているようである。
また、カホフカ橋の袂の街ベゼルに要塞を作り、カホフカ橋を渡り撤退するできるようにしている。そして、南部ロ軍の撤退は整然としているので、鹵獲されるロ軍装備も少ないようだ。
中部の要衝スニフリフカで戦闘中である。ここを奪還すると、インフレット川の東岸地域のロ軍を撤退させることができる。
もう一つ、クリミアとロシアを結ぶクリミア大橋が破壊され、貨物列車が火災を起こし、道路は路面が崩壊して海に落ちている。ロシアは、ウ軍による破壊工作で自動車爆弾によるという。
しかし、翌日に、クリミア大橋の鉄道は復旧し、道路も一車線とはいえ車が通れるようになり、南部戦線の補給には問題が起こらないようである。
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その他方面
ロ軍の精鋭部隊が少なくなり、バクムット周辺やドネツク市周辺で、ロ軍は突撃の人海戦術の攻撃になり、一部効果が出ている。これでムコライカ・ドロカやゼレニー・ハイなどをロ軍は占領した。
しかし、この地域を攻撃するなら、その兵力をクレミンナやセベロドネツクなどに送った方が良いような気もするがどうなのであろうか。ワグナー軍と正規軍の仲が悪いので、地域を分けている可能性はある。
しかし、ロシア軍全体の統制が取れていないような気もする。
また、ロシアのペスコフ大統領報道官は、ウクライナ4州の併合での国境線は、ザポリージャ州とヘルソン州では、住民と協議のうえで決めるという。ロシアの国境線も決まっていないようで、国全体の統制も取れていないようだ。
その上に、ロシアのウクライナ国境から200km以上も離れたVKSの「シャイコフカ航空基地」にドローン攻撃されて、Tu-22Mバックファイアー爆撃機2機が破壊された。しかし、このドローンの素性も分からない状態である。もし、本当なら巡航ミサイルと同等にドローンを使い、ロシア領内の多くの地点を攻撃できることになる。また、ロシアの防空体制に穴があることになる。また、ロシアの脆弱さが明らかになるようだ。
動員・装備面
部分動員兵は、数日で前線に送られているが、戦闘経験もなく、ウ軍の攻撃にすぐに逃亡したり降伏するので、ロ軍の崩壊を早めている。
また、ロシア国内でウ軍への降伏電話番号がある程度知れ渡り、前線に出た動員兵からの降伏電話が、多数掛かってくるので、大変忙しいようである。というように、動員兵が、ロ軍の戦力になっていないようである。
また、動員兵は、装備を買う必要があり、その装備一式が25万円程度するということで、買えない動員兵は、軍服もない状態であり、冬服もないという。銃も旧式のものか、錆びだらけのものが渡されるという。動員兵用の服も装備もない。兵舎もなく、野原で野営するしかなく、テントもない。
これから冬に向かい、倉庫にあるはずの50万着の防寒着もない状態であり、今戦場にいる兵も凍傷にかかり、戦えないことになる。
ロシアの汚職は徹底的であり、あるべきものがないので、戦える軍隊になっていない。社会全体で汚職が蔓延した国は弱い。軍の補給担当の汚職も激しいのであろう。
ということで、状態を知ってか、ロシア国内では、男性の若者を中心に徴集逃れの国外への脱出が起きていて、現に部分動員発令以後でも100万人以上が国外に出たし、開戦時からでは700万人もの人が、国外に出たという。予備役200万人の内30万人の部分動員でこうである。
どちらにしても、ロシアから有能な若者は消えて、軍隊も社会も担い手を失い、社会的衰退を招くことになる。総動員は夢のまた夢であろう。
国内紛争
雇用軍事会社ワグナーのプリゴジン氏と軍トップのショイグ国防相との対立もあり、内部分裂状態のようである。強硬派を中心にショイグ国防相の辞任を求めているが、その裏にはプリゴジン氏がいるようだ。
そして、ウクライナ情報総局によれば、モスクワではゾロトフの国家親衛隊によるロシア軍参謀本部の大量逮捕が始まった模様で、このため、モスクワ市内の交通網が封鎖されたという。真偽のほどは分からないが、本当なら、ロシア内部で国家紛争になっているということになる。国家ぐるみの汚職であるので、逮捕理由は簡単である。
また、ロシアの雇用軍事会社ワグナー系の「GREY ZONE」のテレグラムにショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が辞任という怪情報が流れている。
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核攻撃の可能性
プーチンは、国内で戦争に負けていると非難され、部分動員に対する徴集逃れ、徴集した兵の訓練・装備がないこと、軍と雇用兵企業との対立などの国内問題を抱え、かつウクライナ4州の併合で対外的には孤立化して、戦場では冬まで持たないなどがあるのに、停戦の目途もない。八方塞がりの状況になっていた。
その上に、プーチンが誇りにしていたクリミア大橋をウ軍に70歳の誕生日翌日に破壊された。プーチンは怒ったようである。
メドベーシェフは、「クリミア大橋破壊がウクライナの最後の日になる」と述べていたが、その事態が発生したことになる。ロシアの強硬派は、キエフに核攻撃をするべきと言っている。いよいよ、核戦争になる可能性が出てきた。
クリミア大橋破壊前に、米国のバーンズCIA長官は、プーチンが核兵器を使用する危険な状態になっていると警告していたが、より可能性を増した。
そして、とうとう、米バイデン大統領は、ハルマゲドンの可能性が出てきたと述べて、「世界最終核戦争」の危機にさらされているとして、プーチンにとってのウクライナ侵攻の「出口」を模索していると述べた。
しかし、ジャンピエール米大統領報道官は、核兵器使用を示唆したロシアのプーチン大統領の発言に対し、バイデン大統領が「冗談を言っていない」と警告したことに関し、「ロシアが差し迫って核兵器を使用する準備を進めている兆候はない」とした。
しかし、米国もロシアと協議して、停戦の条件を探り始めているようである。核戦争にはしないように先手を打つ必要になっているからである。
戦争終結は
テスラCEOのイーロン・マスク氏も、第3次世界大戦になるくらいなら、ウクライナが譲歩して領土を割譲しろと述べたが、ウクライナから猛反発を受けて、すべては戦争が決めると言い直しているが、ロシアとの核戦争を恐れたことによる。
そして、独メルケル元首相も、今後の欧州安全保障をロシアと協議するべきであると述べて、非難されているが、これも核戦争を恐れているからである。
というように、核戦争になるくらいなら、ここで停戦を望むという声も出てきている。ロシアも2月24日の状態で停戦なら受け入れるようであり、ロシアのペスコフ大統領報道官もルガンスク州とドネツク州は2月24日以前の線が国境と言っている。
米国や欧州の依頼もあり、トルコのエルドアン大統領は、プーチンと電話会談し、ウクライナ戦争の平和的な解決に貢献したいとの意欲を改めて示したという。この停戦案も2月24日領域または、クリミアだけロシア領とする案であろう。
というように、そろそろ、ロ軍のボロ負けが見えてきて、国内騒乱状態であり、国民はウクライナ戦争を望んでいないことも分かり、クリミア大橋も破壊されて、プーチンも諦めて、停戦を受け入れることになりそうである。
ウクライナのゼレンスキー大統領への説得は、米国のバイデン大統領が行うことになるとみる。これで、今後の世界は、ロシアを属国化した中国と西側の盟主米国の対決になっていくようだ。ロシアの没落は決定的になる。そして、冷戦の復活である。
さあ、どうなりますか?
(『国際戦略コラム有料版』2022年10月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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