自己弁護ばかりを展開する会見を繰り返し、元信者の会見中にはその中止を訴えるメッセージを送りつけるなど、明らかな異常性を見せ続ける旧統一教会。彼らとの関係を指摘される自民党所属の議員たちもまた、自身と教団とのつながりに関する説明責任からの逃げ切りを図るなど、異常とも言える無責任な姿勢に終始しています。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、その最たる存在である細田博之衆院議長の対応を強く批判。さらに旧統一教会問題をどう解決すべきかを考察しています。
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細田議長よ、統一教会信者2世の声を聞け
10月7日、統一教会の信者を両親にもつ元2世信者の小川さゆりさん(仮名)が日本外国特派員協会で、人権侵害を受けている2世信者への救済を訴えていたところへ、統一教会からメッセージが送られてきた。
司会者からメッセージを手渡された小川さんの夫が、その内容を読み上げた。
「彼女は精神に異常をきたしており、安倍元首相の銃撃事件以降その症状がひどくなってしまっていて、多くのウソを言ってしまうようになっています。そのため、この会見をすぐに中止するように」
メッセージには小川さんの両親の署名が入っていた。合同結婚式で出会った両親のもと、小川さんは生まれた。家族全員が信仰しなければ地獄に堕ちるという教えにより、小川さんは信仰を強制させられてきた。
幼少期から学生時代にかけて、見た目の貧しさによってイジメを受けた。恋愛やアイドルさえもサタンだと否定され、挙句の果てにアルバイトで貯めた200万円を、愛する両親に没収されて限界に達した。6年前に脱会、今は両親と距離を置いて生活しているという。
確かに心の病で通院したことはあったが、今では完治している。理路整然とした話しぶりからもそれはわかる。彼女は同じような境遇に苦しんでいる2世信者の問題を解決するため、政党に法整備を働きかけ、さらに国際社会にも援助を求めて日本外国特派員協会の会見にのぞんだのだ。
そんな思いを踏みにじり、両親の署名を添えて言論を弾圧しようとする統一教会のやり口は、人権侵害そのものであり、むしろこれによって組織の本性を露呈してしまったと言わざるを得ない。
小川さんらの要請を受けて、立憲民主党は、被害の防止や被害者の救済に関する法案を議員立法で提出する方針だ。
だがこの法案に、肝心の自民党が賛成するかどうか、甚だ疑問だ。なにしろ“自己申告調査”だけでも、自民党所属国会議員の約半数に祝電・メッセージ送付・会合出席など、統一教会と何らかの接点があることが判明している。宗教団体を支持母体に持つ公明党も慎重な姿勢だ。
しかも、自己申告調査の対象外とされる衆議院議長、細田博之氏こそが、どうやら安倍元首相に次いで統一教会と蜜月関係にあったらしいことが、分かってきているのだ。
統一協会系の天宙平和連合(UPF)が2019年10月5日に名古屋市内のホテルで開いた国際会議「ジャパンサミット&リーダーシップカンファレンス2019」に出席した細田氏(当時・自民党清和会会長)は、韓鶴子UPF総裁が入場すると、他の参加者とともに起立して拍手で迎え、その後、スピーチに立った。
「韓鶴子総裁の提唱によって実現したこの国際会議の場は、たいへん意義深い」
「今日の盛会、そして会議の内容を安倍総理にさっそく報告したいと考えております」
イベントを褒め称え、当時の首相、安倍晋三氏に伝えることを約束する。まるで、安倍氏の代理だ。
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細田氏には、2016年の参院選における教会票の割り振りに関与し、清和会所属の宮島喜文候補を当選させた疑惑も浮上している。これについては、安倍元首相が差配していたとも指摘されているが、要するに安倍、細田両氏が二人三脚で動いたということだろう。
教会とズブズブの関係が疑われる議長のもとで、教会の問題を審議する。ブラックジョークのような話だが、本当のことである。
当然、細田議長は疑惑について説明責任を果たし、信頼を回復したうえでなければ、議長の重責など担えないはずだ。ところがこの国にとって不幸なことに、“三権の長”の1人でありながら、細田議長には真摯に説明しようとする姿勢が見られないのである。
国会でダンマリを決め込み、メディアに追及されても答えず、野党から不信任案提出の動きがあってはじめて、A4判の紙切れ1枚を出してきたのだが、教会関連のイベントに4回出席したことや、選挙支援を受けたことなどを列記しているだけで、とても説明といえるものではない。なぜそうしたのかなど、経緯については全く触れられていなかった。
安倍元首相が亡くなった今、清和会と統一教会がどのような関係を持ってきたのかを誰よりも知っているのが細田議長のはずである。洗いざらい明らかにし、膿を出し切ることこそ、自民党を救う道であろう。
衆院議院運営委員会で説明をすべきだという野党の要求に対し、細田議長が山口俊一議運委員長とはかって設けた説明の場は、国会ではなく、広大な敷地に建つ議長公邸だった。そこに、議運の委員長と与野党の筆頭理事が、うやうやしく訪れたのはいいが、しょせんは密室の出来事だ。
今度は2枚に増えた文書を受け取り、とくに厳しく問いただすこともなく、山口委員長らはすごすご国会に戻ってきた。文書の内容そのままを記者に伝える姿は、無意味な儀式の使者というほかない。
1枚から2枚に増えた文書で新たにわかったのは、教団関連団体の会合への出席が4回追加され、前のと合わせて8回になることなどだ。数が増えただけで、真相究明には全く役立たない。
文春オンラインに、文鮮明教祖の“お言葉集”のことが書かれている。615巻にのぼる膨大な量で、韓国の国内向けのためか、日本には伝わってこない発言がいっぱいあるという。
岸(信介)首相は霊界に行っていますが(亡くなっているの意)、その次に福田(赳夫)首相です。福田は、私が首相にさせたのです。中曽根(康弘)も私が首相にしたんです。(98年6月10日/294巻)
中曽根の時は(略)、130人の国会議員を当選させ、20ある国会の委員会のうち、13の委員会の長は、私が立てた人になりました。(04年9月16日/468巻)
安倍晋太郎は私と契約書まで書いたのです。これを発表すると、世の中がひっくり返ります。その時の約束はというと、自分が首相になれば、80人から120人の国会議員を連れて漢南洞(文氏の自宅があったソウルの地名)を訪問するということでした。(95年10月22日/273巻)
信者相手とはいえ、まさに、言いたい放題である。大ボラには違いないが、統一教会が、日本の政治を裏から動かすために、勝共連合の活動や選挙支援などを通じて自民党を侵食していったことは間違いないだろう。
その後、霊感商法などが社会問題となり、表面上、活動は下火になったかに見えたが、第2次安倍政権が誕生してしばらくすると、再び活発化した。
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細田議長は統一教会との関係をどう考えているのだろうか。問題ないと思うのか、反省しているのか。さっぱりわからない。
信仰を強制され、人権侵害を受けてきた小川さんら信者2世の訴えに真摯に耳を傾け、議長らしく対応すべきではないのだろうか。メディアに報道されて仕方なく教会との接点を追認する政治家の姿は見苦しい。調査委員会をつくって統一教会の実態を追及、把握し、法整備に結びつけるくらいのことをしなければ、立法府に対する国民の信頼は取り戻せないだろう。
もちろん、政府の責任も重大だ。宗教法人法に基づき、宗教法人格を取り消す解散命令請求について、岸田首相は「信教の自由を保障する観点から、判例も踏まえて慎重に判断する必要がある」(6日参院本会議)と述べている。解散といっても、宗教法人としての税制優遇が受けられなくなるだけで、信教の自由を侵すわけではないのに、きわめて消極的なのだ。
岸田首相が、この問題に対し、もっと毅然とした態度をとっていたら、内閣支持率が下がり続ける状況にはならなかっただろう。
今からでも遅くはない。野党に任さず、内閣として、フランスの反セクト法のような法律を国会に提出したらどうか。恐怖心を煽って法外な献金を要求したり、通常の流通経路を逸脱した高額な商品を売りつけたりする組織的な行為をカルトと認定し、処罰対象にする法律だ。宗教団体には限らず、あらゆる団体、組織に適用される。信教の自由には立ち入らないのが原則だ。
小川さゆりさんは、統一教会の圧力にもめげず、目を潤ませながら会見を続けた。それを支えていたのは、彼女一人のためだけでなく、同じように人権侵害を受けている多くの信者2世を代表して訴えているという思いだろう。
政権政党が統一教会にからめとられ、小川さんら信者2世に目を向けようとしないこの国の現状を世界は、どう捉えるだろうか。宗教に名を借りた人権侵害を許容する国だったのかと思われないためにも、岸田政権と自民党は、決然とした行動をするべきである。
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