9月25日に投開票が行われた総選挙で自身が率いる「イタリアの同胞(FDI)」が第1党となり、イタリア初の女性首相となったジョルジャ・メローニ氏。しかしFDIがファシズムの流れをくむ政党かつメローニ氏自身もムッソリーニ賞賛を口にした過去があり、欧米諸国は「極右指導者」として警戒感を強めています。果たしてイタリアの「国際協調路線からの逸脱」はあり得るのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、メローニ新首相の人となりと、彼女が率いる右派連立政権に対して周辺各国が抱く懸念の内容を紹介。さらに欧州で「極右」的政党の躍進が続く理由を解説しています。
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イタリアで新首相 メローニ氏とは? “極右”政権? 国際協調路線? 欧州は対ロシア政策で警戒
22日、イタリアでジョルジャ・メローニ氏が、新しい首相に就任した。女性首相はイタリアで初めて。
そもそも、イタリアでは来年の春に総選挙が予定。しかし、前の首相であるドラギ氏が辞任、大統領は7月21日に議会を解散。バカンス明けで予算編成に忙しい最中、9月に総選挙が実施された(*1)。
ドラギ前首相は、欧州中央銀行(ECB)の前総裁で、昨年7月に新型コロナ対策と経済復興の両立が求められるなか、左右両派の“挙国一致内閣”のトップとして首相に就任。
しかし、徐々に連立与党内で軋轢が生まれ、結果、政権は崩壊。その直後に支持を集めたのが、イタリアでファシズムの流れをくむ右派政党の「イタリアの同胞(FDI)」だった。
メローニ氏が今回、首相となった背景には、挙国一致内閣に唯一参加しなかったFDIの“顔”であるとともに、これまでイタリアで主要政党の党首が指導者に次々となったものの、その結果が失望に終わったため、まだ試していないメローニ氏にかけてみた、という理由も。
目次
- メローニ氏とは “極右”か? 国際協調路線か?
- 欧州は対ロシア政策で警戒
- 欧州、「極右」政党席巻
メローニ氏とは “極右”か? 国際協調路線か?
イタリアの新しいリーダーを、CNNは「極右指導者」であるとする(*2)。総選挙では、移民船の阻止や、伝統的な「家族観」への支持、あるいは反LGBTQ(性的少数者)を掲げて勝利を収めた。
メローニ氏が実際に首相に就任したことで、G7(主要7カ国)の一角である国で初めて「極右」と称される政党が政権を握ることになる(*3)。
メローニ氏は1977年生まれ。ローマ南部の労働者階級が多く住む地区で母と姉とで暮らし、父親がいない家庭で育った(*4)。
10代のころから、ベビーシッターやディスコのバーテンダー、ウエートレスなどの仕事をし、家計を助ける。
ファシズム政権の元高官らが創設した極右政党である「イタリア社会運動」の若者組織で活動、19歳のとき、フランスメディアのインタビューで、ムッソリーニを賞賛したこともあり、EUなどは警戒感を強める(*5)。
しかし、政権の樹立に向けた協議では、連立相手で、ロシアのプーチン大統領の盟友とも知られるベルルスコーニ首相相手に一歩も引かず、
「国際協調できない政権なら必要ない」(*6)
との声明を出した。
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欧州は対ロシア政策で警戒
イタリアの新政権に対し、欧州諸国は警戒を強める。連立政権に極右政党の「同盟」と「フォルツァ・イタリア」が含まれているためだ。
これらの政党は“ロシア寄り”の立場で知られ、これまでのEU(欧州連合)の対ロ強硬路線で同調してきたイタリアの姿勢が変われば、今後の対ロシア包囲網が不安定化する可能性も。
イタリアは、EU加盟国で、ドイツ、フランスにつぐ3番目に大きい経済規模を持ち、NATO(北大西洋条約機構)の有力なメンバー。
ただ、イタリアのメディアは、政党「フォルツァ・イタリア」を率いるベルルスコーニ元首相が側近の議員との会合で、いまだプーチン大統領との親密な関係をつづけているとしたうえで、ウクライナのゼレンスキー大統領を非難したとする発言をしたと報道。
もう一方の政党「同盟」のサルビーニ党首もロシアよりの立場だ。
これに対し、メローニ首相はロシア政策でほかの欧州諸国やアメリカとの足並みを揃える方針を示しているが、しかしNATOの部隊運用や対ロ政策の“機密情報”にアクセスできるポストに「フォルツァ・イタリア」や「同盟」の幹部が就くことは不回避だとも(*7)。
そのため、イタリアとの軍事機密の共有レベルを下げる可能性も指摘されている。
欧州、「極右」政党席巻
イタリアだけでなく、近年、ヨーロッパでは「極右」とされる政党の躍進が相次ぐ。スウェーデンやフランスなどでも極右政党の議席が伸びた。
その背景には、経済問題や移民の流入が要因とも。一方で、専門家は1930年代に「民主主義の脅威」と恐れられた時代とは、現在に欧州の極右の姿は変化しているとの声もある。
フランスの国際関係戦略研究所(IRIS)で極右思想を研究するジャンイブ・カミュ氏は時事通信のインタビューに対し、極右の勢力拡大は、「米国や中国の経済的台頭」が背景にあると指摘、
「欧州が世界の中心でなくなり、立ち位置を見失っている」(*8)
とし、さらに中東やアフリカからの移民が大量に流入し、
「自分たちのアイデンティティーが分からなくなり、過激な移民排斥が支持を集めた」(*9)
とした。
ただ、第二次世界大戦前と状況は異なるとする。フランスのルペン氏は、父親であるジャンマリ氏のような過激なイメージを払拭、メローニ氏もかつてのファシスト色をなくす。
他方、ハンガリーやポーランドの極右政権下ではメディアの統制が強まり、予断を許さない状態にある。
■引用・参考文献
(*1)宋光祐「【そもそも解説】イタリアでいったい何が? 首相に右翼党首の公算大」朝日新聞DIGITAL 2022年9月26日
(*2)「ジョルジャ・メローニ氏、新首相に就任 イタリア初の女性首相」CNN 2022年10月24日
(*3)宋光祐、2022年9月26日
(*4)西日本新聞、2022年10月22日付朝刊
(*5)西日本新聞、2022年10月22日
(*6)西日本新聞、2022年10月22日
(*7)田中孝幸、日本経済新聞、2022年10月22日付朝刊
(*8)「欧州で極右躍進 かつて『民主主義の脅威』─伊政権」時事ドットコムニュース 2022年10月23日
(*9)時事ドットコムニュース 2022年10月23日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年10月30日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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