現地時間の11月20日に開幕する、ワールドカップカタール大会。中東では初開催となる4年に一度のサッカーの祭典ですが、懸念される問題も多々あるようです。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』ではジャーナリストの伊東森さんが、開催期間中に発生しかねない、カタールの法に起因するトラブルを紹介。さらに大会の誘致段階で露呈した、腐敗しきったFIFAの実態を明らかにしています。
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サッカーW杯目前! って浮かれている場合か? 物議も醸した招致 オリンピックと同様、腐敗するFIFA
サッカー・W杯カタール大会を目前に控え、お祭り騒ぎに水を差す事態が起こり始めている。FIFA(国際サッカー連盟)が大会の出場チームに書簡を送り、「サッカーに集中して」と呼びかける事態に。
書簡には、「どうか今はサッカーに集中しよう」と促すとともに、
「われわれにはサッカーが独立して存在していないことを分かっており、それと同時に世界中において政治的性質による多くの課題や困難があることも承知している」
「しかしサッカーがあらゆるイデオロギーや現在起きている政治的紛争に引き込まれないようにしてもらいたい」
と書かれてあった。
一方、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」からは厳しい声が上がる。カタールが外国人労働者への扱いや、LGBTQ(性的少数者)、女性の権利において非常に問題視されているからだ。
このような声を受け、ヨーロッパでは開幕を前にパブリックビューイング(PV)を実施しないと宣言する都市が相次いでいる。
実際、1次リーグの第3戦で日本と対戦するスペインでは10月28日、第2の都市バルセロナの市長がPVを実施しないとした。
ほか、フランスのパリやマルセイユ、ストラスブール、リヨンでもPVの「ボイコット」が決定、ドイツでもケルンなどで中止の動きがある。
目次
- カタールとは? 日本を上回る一人当たりGDP
- 懸念される点 飲酒や同性愛 「現代の奴隷制」
- 物議も醸した招致 オリンピックと同様、腐敗するFIFA
カタールとは? 日本を上回る一人当たりGDP
カタールはアラビア半島の東に位置し、ペルシャ湾に突き出たカタール半島にある首長国。半島の付け根でサウジアラビアと接す。国土は砂漠に覆われ、全土が海抜100m以下の標高。
18世紀から19世紀にかけ、アラビア半島の内陸部の民族が移住してきたのち、19世紀にサーニ一族を君主とする首長国となった。20世紀にはイギリスの保護下となるが、1971年に独立。
カタールの国民一人あたりのGDPは、アジアではシンガポールを抑え、1位。
1940年代に発見された石油資源により、開発を進めてきた。しかし現在は、石油資源の枯渇を視野に入れ、石油化学などの産業の育成や、これ世界有数の埋蔵量を誇る天然ガスの開発に重点を移す。
国民の医療や教育は無償で、南アジアからの外国人労働者が集まり、人口の9割を占めるにいたった。それととともに、人口構成では生産年齢人口が85%を占め、男性の人口割合が女性と比べ、非常に高い(*1)。
大会をめぐっては、飲酒や同性愛が違法のイスラム教国であるカタールでも懸念が。しかし、FIFAは、
「ファンは誰でも歓迎される」
と訴え、政府は飲酒についての規制を緩和した。
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懸念される点 飲酒や同性愛 「現代の奴隷制」
中東初の大会は、新型コロナの規制も大幅に緩和され、期間中は全世界から120万人の来訪が見込まれている。
カタール政府は9月、大会期間中に酒類の購入に関する方針を発表。
通常、公共の場での飲酒は最高3,000カタール・リヤル(約12万円)の罰金または最高6カ月間の禁錮刑が科されるが、今大会は試合チケット保有者に限り、スタジアム内の指定された場所で、試合開始3時間前と試合後1時間に、ビール購入を可とした。
首都であるドーハに設置されるエリアでも、午後6時半から飲酒が可能。ただ、在カタール日本大使館は、
「トラブルになれば身柄が拘束される可能性もある」
と警告する。
同性愛も違法。今年公開された『バズ・ライトイヤー』が、キャラクターの同性愛描写を理由に上映が禁じられた。しかしロイター通信によると、大会最高責任者は
「国の文化を尊重すれば誰もが歓迎される」
と言及。虹色の旗を掲げることも可能で、同性愛のファンが処罰されることはないとした。
他方、カタールの労働環境は、「現代の奴隷制」にたとえられてきた。開催国に選ばれた2010年以降、カタールでは南アジア出身の出稼ぎ労働者6,500人が死亡したとも。
専門家はこれらの死者について、多くが大会のための建設工事により亡くなった可能性が高いと指摘する。
物議も醸した招致 オリンピックと同様、腐敗するFIFA
そもそも、カタールの招致は物議も醸した。たとえばフランスがカタールへの支持票を投じて間もなく、カタールのスポーツ持株会社が、パリ・サンジェルマンFCを買収。
同じころ、別のカタール企業が、フランスのエネルギー・廃棄物大手の株の一部を取得(*2)。
あるいは、カタールの政府系投資ファンドと関係する企業は、欧州サッカー連盟(UEFA)の前の会長ミシェル・プラティニ氏の息子を雇用するなど、露骨な縁故主義が見え隠れする。
このような背景に対し、代表チームも反応。欧州予選の初戦で、ドイツ代表とノルウェー代表は、「HUMAN RIGHTS(人権)」と書かれたシャツを着用した。
結局のところ、私たちはFIFAもオリンピックと同様、“腐敗”だらけの組織であると再確認し、それが生み出した「サッカー」という産物を目撃させられるだけだ。
2015年5月、スイスの高級ホテルに警察が乗り込み、FIFAの幹部が一斉に逮捕されたことは、もはや風化している。
FIFAの力の源泉となっているのが、オリンピックと同様の放映権。とすると、もはや日本のテレビ局も“共犯者”だ。
■引用・参考文献
(*1)井田仁康「『カタールってどんな国?』2分で学ぶ国際社会」DIAMOND online 2022年5月31日、
(*2)ロジャー・ベネット「カタールW杯、その実態に非難の声を上げよう」CNN 2022年11月4日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年11月12日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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