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ガン無視され不満?北朝鮮をミサイル連射に駆り立てている3つの要因

もはや暴走というレベルを超えた頻度で繰り返される、北朝鮮のミサイル発射実験。ここまで金正恩総書記がミサイルを連射する裏には、どのような事情があるのでしょうか。今回、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏は、「北朝鮮がミサイル発射に踏み切る背景」と、「北朝鮮にミサイル発射をさせやすくしている状況」という2つの面を考察。さらに金正恩氏が抱いているであろうと推察できる、中国までをも利用しようという思惑を紹介しています。

日本は大丈夫か?エスカレートする北朝鮮ミサイル発射の背景を読み解く

北朝鮮の暴走が止まらない。北朝鮮によるミサイル発射は11月9日も行われ、これで今年に入って32回目となる(編集部注:11月9日までの情報となっています)。これまでにない異例のペースだ。度重なる暴挙を受け、ホワイトハウス高官は10月下旬、北朝鮮が近く7回目の核実験に踏み切る可能性があるとの認識を示した。最近は日本国内でも660万円の核シェルターに注目が集まり、市民からの問い合わせが増えているという。

今後も北朝鮮による軍事的暴挙が続くことは間違いなく、日本を取り巻く安全保障環境はいっそう厳しさを増している。では、北朝鮮がここまでミサイル発射に踏み切る背景には何があるのだろうか。また、何がそうさせやすくしているのか。

まず、バイデン政権の誕生だ。トランプ時代、当初は2017年朝鮮半島危機とも言われたが、金正恩氏はベトナム、シンガポール、そして板門店と3回も米国大統領と会談し、米朝の雪解けが期待された。トランプ前大統領も北朝鮮の指導者にあった初めての米国大統領だと自負しているが、トランプ時代は北朝鮮にとって都合が良かった。

しかし、バイデン政権はウクライナ侵攻もあり、対中国ロシアを最優先事項に位置づけ、北朝鮮問題の優先順位は高くない。しかも、北朝鮮が何かしらの進展を見せないと対応しない姿勢を貫き、この2年間、米朝関係は沈黙を続けている。米国から国交正常化と体制保障を得たい金氏からすれば、無視し続けるバイデン政権への不満が蓄積している。

また、5月に対北朝鮮で強硬姿勢を貫き、日米との連携を強化するユン大統領が誕生したことも大きな要因だろう。ユン政権の発足以降、米韓の間で合同軍事演習が強化されており、それによって北朝鮮の暴走にエスカレートしている。以上が、“背景には何があるのだろうか”の部分だ。

北朝鮮にミサイル発射を「させやすく」している3つの要因

一方、“何がそうさせやすくしているのか”の部分にも我々は着目する必要があるだろう。1つは、国際政治の力のバランスの変化だ。周知の通り、米国が超大国だった時代、欧米が国際政治や世界経済を牽引する時代は時の経過とともに衰退し、中国やインドなど新興国の存在力が増し、今日世界は米中対立に代表されるように多極化、無極化に向かっている。

要は、北朝鮮からすれば以前ほど米国を恐れる必要性が薄まり、米国に対してより強気の姿勢で臨めるという事実がある。ロシアによるウクライナ侵攻時、バイデン政権はその前からウクライナへの米軍派遣を否定したが、そういった米国の内向きの姿勢を北朝鮮は注視している。今回の米中間選挙でも、2年後の大統領選を見据え新たな対米政策も練っていることだろう。

2つ目は、上記と関連するが、ウクライナへ侵攻したロシアの存在だ。世界の経済相互依存が深化する今日、リスクを冒してまで国家が国家を侵略するということを我々は軽視していた。しかし、実際ロシアは侵攻したのだが、こういった既成事実は他の悲劇を生む恐れがある。要は、軍事侵攻したって米国は介入しない、国連は何もできないという意識が世界で強まれば、第2のウクライナ、第3のウクライナが生まれる可能性もある。北朝鮮による暴走の背景には、こういったロシアの影響もあると考えられる。

ちなみに、安全保障専門家の間では、バイデン大統領がウクライナへの米軍派遣を事前に否定したことが、プーチン大統領による侵攻決断を後押しする結果になったとの指摘も聞かれる。

3つ目は、中国の存在だ。これも1つ目と関連するが、米中対立など世界のパワーバランスが変化する中、北朝鮮にとって“最大の擁護者”である中国が世界の大国になりつつあることは、金氏にとっては極めて良い環境といえる。ミサイル発射を繰り返したとしても、中国外務省はいつも北朝鮮非難を避け、国連では欧米による北朝鮮非難決議の採択を中国が妨害しており、こういった事実は金氏にとって安心材料となる。そうなれば、ミサイル発射を繰り返したとしてもそれほどダメージはないと判断できるようになり、大国化する中国の存在感は極めて北朝鮮にとって大きい。

一方、北朝鮮はこうとも考えているだろう。すなわち、北朝鮮としては、中国にとって自らが“何をするか分からない”国であることが立場上良く、たとえば、1つに核実験をちらつかせることで中国からさらなる経済援助を引き出したい思惑がある。中国と北朝鮮の国力差は歴然だが、両国は国境を接しており、仮に核実験を行ったり、政権が不安定化して難民が大量発生したりすれば、中国は多大な重荷を背負うことになる。

要は、中国にとって北朝鮮は“小さな爆弾”であり、爆破しないよう注意しながら対応する相手なのだ。よって、ミサイル発射を繰り返しても、中国には北朝鮮を毎回強く非難できない事情もここから見えてくる。

image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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